10年前、家同士の都合で決められた婚約者。正直な話、その時は婚約者に対して特別な感情を抱けるはずもなく、ただ親に言われたため義務的な思いだけで決められた日に会ったり、手紙などを送っていた。


社交界デビューはまだまだ先だが、公的なものではない集まりや、家同士仲が良ければ家に遊びに行くなんてことはそこそこあり、自分がそれなりに持て囃されることに気づくのも早かった。


最初の頃は悪い気分でもなかったが、それもすぐにうんざりとした気持ちに変わった。というのも当然ながら子ども達を迎えるためのおもてなしとして茶菓子が振る舞われるが、私は甘い菓子が好きではなく、けれども参加した以上口をつけないわけにもいかなかったのがひとつ。


そして両親から受け継いだ容姿が思っていた以上に異性から見て良かったのか、それとも家柄が魅力的だったのか、どちらでもいいが仲良くしたい同性ではなく女子に囲まれて過ごすことを余儀なくされたのがひとつ。


その他にもいろいろあったが、主にそのふたつが原因で私はすぐにそういう集まりに対して足を運ぶのが苦痛になった。


そうなると婚約者と会う場ですら億劫になってしまい、しかしそれは反故にするわけにもいかずに内心は嫌々ながらも表面的には当たり障りのないように振る舞った。