「…この国ではかなり珍しいかもしれないけど、私は魔女。少しは楽になったでしょ?たまにうちの店に来てくれたら、あんたの身体に合うような薬を少し安く売ってあげる」

 この彼女だけでは無いだろう、きっとそうしなければ生きていけない者はいるはず。

 人族は魔族と違い、金と権力だけが物を言う国だという。

 彼女のような者のためにも店を出し、今度は体の調子を少しでも見ながら薬を売ってやることができれば…

 ダリアは改めて決心を固めた。

「分かりました…お金が出来たらすぐ、さっきのお薬の代金もお支払いします…」

 娘はまた申し訳無さそうに頭を下げる。
 きっと彼女は今までそうして生きてきたのだろう。
 そして体に無理をしてまで薬の金を稼ごうとするに違いない。しかしこのままではきっと…

「無理するんじゃない!また無茶をしたら、ただじゃ置かないよ!私が助けた命なんだ!!」

 ダリアは心配のあまり思わず声を張り上げた。
 しまった、子鬼のときと同じく怯えさせてしまったかもしれない…
そう思った。

 しかし娘は目を輝かせて何度も頭を下げ、

「ありがとうございます…私、あなたなら信じられます…こんなに私を心配していただいて…。私はナンネと言います…」

そう名乗った。

 彼女は根から素直だったらしい。
 出会ったばかりの相手にしっかりと名乗り、先ほども、渡された薬を素直に飲み干したくらいなのだから。

「…私はダリアよ。さっきは大声を上げたりして悪かったわ。あんたにはまず定期健診と、身体の知識を覚えてもらうことね。それから、もう少し他の相手には警戒心を持ちなさい。それじゃいくら命があっても足りないわ」

 ダリアは自分の店の場所を彼女に教え、また近いうちに自分のもとに来るよう約束させると、あらためて城を目指して歩き出した。


 彼女のいた森の入口には、

《魔力の泉あり。森にむやみに入るべからず》

と立て札があった。

 ここは人族すらもあまり近寄らない森だったらしい。
 先ほどの彼女は、いつもそんな森に一人で入っていたのか。生きるために…