[朝蔵 大空]
「ふわぁあ……」
今日も私は登校する、まだ残暑が酷い。
日焼け止めはまだまだ欠かせない。
そんなに私の肌を照りつけてくんなよ。
[生徒A]
「おはようございまーす!」
[生徒B]
「おはようございます!」
がやがやがや……。
[朝蔵 大空]
「……?」
校門前まで来ると、恐らく風紀委員だろうか、朝の挨拶運動的なのを行っていた。
[嫉束 界魔]
「……はい?」
[生徒C]
「すみません……あの、その髪はちょっと」
あれ、嫉束くん?
風紀委員に捕まってるみたいだけど、大丈夫なのかな?
[嫉束 界魔]
「え? 地毛ですよ?」
嫉束くんは、綺麗なホワイトカラーの髪をしているよね。
[生徒C]
「あ、いや……そう言うパーマ的なのは校則で禁止されてます……」
うお……。
今日の嫉束くん、なんか髪の毛凄い。
でもフワフワしててソフトクリームみたいで美味しそう?
と、言えば聞こえは良いだろうか。
[嫉束 界魔]
「はっ? これ、天パです! 今日は寝癖も酷かったんです!!」
[生徒C]
「す、すみません!」
風紀委員の子が嫉束くんに頭を下げる。
[狂沢 蛯斗]
「おやおや……なんなんですかぁ、貴方その頭。 みっともなーい」
[巣桜 司]
「……ぷ」
狂沢くんが嫉束くんを揶揄するように側を通り過ぎる。
その裏では巣桜くんが笑いを必死に堪えているように見える。
[嫉束 界魔]
「はぁ〜!? うるさいんですけどお?」
[狂沢 蛯斗]
「こっち来なくて良いですよ」
[嫉束 界魔]
「そーゆー、生意気な事言うと。 エビくんの髪の毛全部抜き取って、将来エビくんはハゲ確定です!」
そう言って嫉束くんは、狂沢くんの頭髪を引っ張る。
強く引っ張りすぎて狂沢くんの両目が上に伸びている。
痛そう……。
[狂沢 蛯斗]
「痛い痛い痛い」
何あれ、怖っ。
[生徒B]
「服装チェック、御協力お願いします!」
[朝蔵 大空]
「あ……」
私の出番が回って来た。
私は姿勢を揃えて、その場で静止する。
[生徒B]
「特に問題は無かったです、ありがとうございました」
[朝蔵 大空]
「はい!」
私はその場を立ち去ろうと歩き出す。
[???]
「そこに止まって」
[朝蔵 大空]
「……? は、はい」
声のした方を振り返ると、背の高い眼鏡の先輩がこちらに歩いて来ていた。
[???]
「スカートのボタンが取れそうだ」
[朝蔵 大空]
「へ?」
自分の履いているジャンパースカートを見ると、確かにボタンがひとつ落ちそうになっていた。
[生徒B]
「すみません、委員長! 見落としていました」
[???]
「気を付けて」
委員長……?
こ、この人はこの前の "風紀委員長" !
私がぶつかっちゃった人だ、超気まずいんですけどー!
[朝蔵 大空]
「じゃ、じゃあ私はこれで」
[風紀委員長]
「…………待ちなさい」
風紀委員長に再び呼び止められてしまう私。
[朝蔵 大空]
「ひっ、な……なんですか?」
先輩もしかして、まだ私に怒ってるのかな。
[朝蔵 大空]
「それって……」
[風紀委員長]
「俺の机にあったけど」
先輩の手に持たれているのは、私が失くした……失くされたと思っていた"地図帳"。
[朝蔵 大空]
「え! あ、ありがとうございます」
私は風紀委員長から自分の地図帳を受け取る。
[朝蔵 大空]
「あ、あの」
私は何か言ってみようと考える。
[風紀委員長]
「……もう行っても良いぞ」
[朝蔵 大空]
「は、はい!」
私は地図帳を胸に抱えたまま、校舎の中へと走っていく。
地図帳見つかって良かった……。
あの先輩、怖い人かなって思ってたけど、良い人だったかも?
風紀委員長……名前なんて言うのかな?
あとで里沙ちゃんに聞こっと。
……。
[???]
「おはよー! 岬ーー!」
ひとりの男子生徒が、風紀委員長の花澤岬に声を掛ける。
[???]
「ひとりとか、マジ寂しかったんですけどー」
[花澤 岬]
「しょうがないだろ、風紀の仕事があったんだから」
[???]
「ひとりにしないでよ〜」
[花澤 岬]
「だから……」
話の通じない相手の男に、花澤は呆れの表情を見せる。
[???]
「オレも風紀入れば良かったー、岬とはなんでも一緒が良いし!」
[花澤 岬]
「大悟が風紀……?」
花澤に対して異常なほど懐いているこの男の名前は古道大悟。
[古道 大悟]
「てーかオレに内緒で委員会で彼女とか作んなよ?」
[花澤 岬]
「か、かか彼女なんてっ……」
『彼女』と言う単語を聞いた瞬間、花澤は激しく動揺する。
[古道 大悟]
「まーぁ岬に彼女が出来る訳無いかぁ、どがつくほどの真面目だし……まぁ、岬のそう言う所が、オレはイイと思ってんだけど」
[花澤 岬]
「かかかか彼女とかっ、ば、馬鹿だろお前」
[古道 大悟]
「……そんな動揺するとは思わなかったわごめん」
……。
[先生]
「今日作るのはクッキーです♪」
2年生全員での調理実習の時間。
[永瀬 里沙]
「大空はクッキー作った事ある?」
[朝蔵 大空]
「あるよー」
うちのお母さん料理得意だし、お菓子作りとかよく私も一緒になってやったりしている。
この前はカヌレ作った。
[嫉束 界魔]
「よーし、でっかいの作るぞー!」
[大空&里沙]
「「!!?」」
クッキーで『でっかいの作る』って何?
[SFC会員A]
「きゃー!♡ 嫉束く〜ん頑張って〜!」
[SFC会員B]
「応援してるよ〜♡」
クッキー生地を捏ねる嫉束くんはまるで見せ物だ。
嫉束くんの回りにはたくさんの観客達が集まっている。
[永瀬 里沙]
「いや、クッキー作れよ」
[朝蔵 大空]
「ま、まあ私達は気にせず作業進めよ」
ジャーーン!!♪
[嫉束 界魔]
「見て、見て吉鬼。 勇者の剣」
[笹妬 吉鬼]
「あ、ああ良いと思うよ」
嫉束くんはクッキー生地で剣を作っている。
へぇ嫉束くん意外とそう言うの好きなんだ?
[永瀬 里沙]
「気にせず、って無理があるわよ」
[朝蔵 大空]
「うん……」
横で繰り広げられているものを必死に無視しながら、私は手元に集中する。
[永瀬 里沙]
「出来たクッキー、卯月くんにあげるの?」
[朝蔵 大空]
「うん! 美味しいの作るからね!」
私は向かいの調理台に居る卯月くんと目を合わせる。
すると、卯月くんがさりげなく頷いてくれた。
[朝蔵 大空]
「里沙ちゃんは部活の人達に渡すんでしょ?」
[永瀬 里沙]
「そうね。 あっ、原地くんに渡す分は、"大空先輩から"って言う体で渡しとくから♪」
そう言って里沙ちゃんは可愛くウィンクした。
[朝蔵 大空]
「原地くんって誰だっけ」
[永瀬 里沙]
「あんた酷すぎる」
[先生]
「ええ、みなさーん、そろそろ本気でやりましょー」
全員が先生の言葉に『はーい』と返事する。
やっとみんなが調理台に向かった。
[永瀬 里沙]
「1組の男子グループはアレ何やってる訳?」
[巣桜 司]
「きゃ! あれは怪しい粉では!!」
な!
ついにこの学校から犯罪者が!
[刹那 五木]
「プロテイン入れちゃいました」
[1組男子A]
「入れろー! 入れろー! 全部入れろー!」
[1組男子B]
「やはり筋肉、筋肉は全てを解決する」
[朝蔵 大空]
「え〜!?」
クッキーにプロテインなんて聞いたことなーい!
[狂沢 蛯斗]
「1組男子と3組女子は精神年齢低すぎません?」
[文島 秋]
「2組もそんなに変わらないと思うよ?」
[2組男子A]
「えーい!」
[2組男子B]
「あ、おい! 投げてくんなよ!」
男子達がクッキー生地を雪合戦の如く飛ばし合う。
[2組女子A]
「きゃあー! 最低〜!!」
[2組女子B]
「ちょっと! 髪に付いたんですけどー!」
女子達は走って逃げ回る。
[先生]
「あばばば……」
バタンっ!
[朝蔵 大空]
「あっ……先生倒れた」
[永瀬 里沙]
「楽しそうじゃない! 私もまぜなさい!」
[朝蔵 大空]
「こ、怖いよ……」
いつも盾になってくれる里沙ちゃんが居なくなって私の体は震える。
[木之本 夏樹]
「……っ!」
[朝蔵 大空]
「ぶるぶる……」
[木之本 夏樹]
「おいお前ら! いい加減にしろ!!」
木之本くんがこの争いを止めようと一歩踏み出す。
つるんっ。
[木之本 夏樹]
「おわっ!?」
床に落ちていたクッキー生地に足を滑らした木之本くんが私の方に突っ込んで来る。
[朝蔵 大空]
「え……きゃー!」
[木之本 夏樹]
「う、うわーー!!!!!」
調理室の人間全員の視線がこちらに集まる。
[2組男子C]
「こいつはやべぇ……おい見ろ! 木之本が女子押し倒して襲ってるぞ!」
[2組男子D]
「つ、ついにこの学校から性犯罪者が!!」
[文島 秋]
「おい木之本! 片思い拗らせすぎだろ!」
ワー!
キャー!
[朝蔵 大空]
「……///」
[木之本 夏樹]
「///」
私と木之本くんは恥ずかしすぎて、お互いどうしたら良いのか分からなくなっている。
[笹妬 吉鬼]
「見つめ合ってる?」
[嫉束 界魔]
「げー!」
[狂沢 蛯斗]
「いつまでくっ付いてるんですか! 離れなさい!!」
私の上に覆いかぶさっている木之本くんが狂沢くんの手に寄って退かされる。
──そこから先の記憶は私には無い。
そして放課後、私達2年2組は連帯責任として調理室の掃除をする事となった。
[朝蔵 大空]
「ごめんね卯月くん、結局チョコ作れなくて……」
[卯月 神]
「し、仕方無いですよ。 とても作れるような状況ではなかった事ですし、あと作ろうとしてたのはクッキーでしょう?」
[朝蔵 大空]
「あれ? そうだっけ、なんか色々あって覚えてないや!!」
ガララ……。
雑談しながら掃除の仕上げをしていると、誰かが調理室の扉を開けた。
[???]
「ガキ共ちゃんとやってるー?」
!!?
ガ、ガキ共ですって?
[永瀬 里沙]
「うわ、大物来た」
[文島 秋]
「土屋先輩、何か?」
部屋に突然入って来た人物に文島くんが応対する。
[土屋と言う男]
「お前らがサボってないか見に来てやったんだよー、感謝してよね」
[文島 秋]
「はぁ」
この学校の生徒会のひとり、3年の土屋遊戯先輩。
校長の実の息子ってだけで強い権力を持った気になっている無礼者で生意気な奴……と有名だが。
ちっちゃくてロリ可愛い男の子として人気で、失礼な発言もその愛らしい容姿で許されている。
[文島 秋]
「別に、帰って頂いて大丈夫ですよ。 クラス委員長の僕が見ていますし、もうすぐ終わるところだったので」
[土屋 遊戯]
「はぁ、うっざー」
負けるな! 文島くん!!
[土屋 遊戯]
「……?」
よし、ちゃっちゃと掃除終わらせて漫画の続き読まなきゃ……。
私は手を早く動かす。
[土屋 遊戯]
「ねぇねぇねぇ」
[朝蔵 大空]
「!? ……な、なんですか」
まさかまさかの、土屋先輩は次に私に話し掛けてきた。
[土屋 遊戯]
「ちょっと君、着いて来てよ」
[朝蔵 大空]
「え……」
逆らったら面倒臭そう、でも大人しく着いて行っても面倒臭そう。
[土屋 遊戯]
「ねぇ早くして〜、ぼくを待たせないで」
[朝蔵 大空]
「は、はい」
私は何も言い返さずに、土屋先輩の後ろを歩く。
連れてこられたのは、美術倉庫の部屋の前。
[朝蔵 大空]
「あの?」
[土屋 遊戯]
「いいよ、入って」
な、何これ!?
私は目の前の光景に驚いた。
[朝蔵 大空]
「こ、ここはなんですか?」
[土屋 遊戯]
「え? ぼくの部屋だけど?」
[朝蔵 大空]
「校内に自分の部屋があるんですか!?」
[土屋 遊戯]
「当たり前じゃん、ぼく校長の息子だもん」
[朝蔵 大空]
「当たり前……ではないと思います」
だってこの部屋、冷蔵庫やらキッチンやら、テレビとか高級そうな絨毯とかもあるし!
[土屋 遊戯]
「はいはい、そう言うツッコミは別に求めてないから。 君と漫才やるつもりは全く無いんですけど」
土屋先輩が部屋の扉を閉めた。
[朝蔵 大空]
「えと、私もう帰って良いですか?」
[土屋 遊戯]
「ダメ」
[朝蔵 大空]
「ダメ……ですか」
[土屋 遊戯]
「じゃ、スカート脱げ」
つづく……。
「ふわぁあ……」
今日も私は登校する、まだ残暑が酷い。
日焼け止めはまだまだ欠かせない。
そんなに私の肌を照りつけてくんなよ。
[生徒A]
「おはようございまーす!」
[生徒B]
「おはようございます!」
がやがやがや……。
[朝蔵 大空]
「……?」
校門前まで来ると、恐らく風紀委員だろうか、朝の挨拶運動的なのを行っていた。
[嫉束 界魔]
「……はい?」
[生徒C]
「すみません……あの、その髪はちょっと」
あれ、嫉束くん?
風紀委員に捕まってるみたいだけど、大丈夫なのかな?
[嫉束 界魔]
「え? 地毛ですよ?」
嫉束くんは、綺麗なホワイトカラーの髪をしているよね。
[生徒C]
「あ、いや……そう言うパーマ的なのは校則で禁止されてます……」
うお……。
今日の嫉束くん、なんか髪の毛凄い。
でもフワフワしててソフトクリームみたいで美味しそう?
と、言えば聞こえは良いだろうか。
[嫉束 界魔]
「はっ? これ、天パです! 今日は寝癖も酷かったんです!!」
[生徒C]
「す、すみません!」
風紀委員の子が嫉束くんに頭を下げる。
[狂沢 蛯斗]
「おやおや……なんなんですかぁ、貴方その頭。 みっともなーい」
[巣桜 司]
「……ぷ」
狂沢くんが嫉束くんを揶揄するように側を通り過ぎる。
その裏では巣桜くんが笑いを必死に堪えているように見える。
[嫉束 界魔]
「はぁ〜!? うるさいんですけどお?」
[狂沢 蛯斗]
「こっち来なくて良いですよ」
[嫉束 界魔]
「そーゆー、生意気な事言うと。 エビくんの髪の毛全部抜き取って、将来エビくんはハゲ確定です!」
そう言って嫉束くんは、狂沢くんの頭髪を引っ張る。
強く引っ張りすぎて狂沢くんの両目が上に伸びている。
痛そう……。
[狂沢 蛯斗]
「痛い痛い痛い」
何あれ、怖っ。
[生徒B]
「服装チェック、御協力お願いします!」
[朝蔵 大空]
「あ……」
私の出番が回って来た。
私は姿勢を揃えて、その場で静止する。
[生徒B]
「特に問題は無かったです、ありがとうございました」
[朝蔵 大空]
「はい!」
私はその場を立ち去ろうと歩き出す。
[???]
「そこに止まって」
[朝蔵 大空]
「……? は、はい」
声のした方を振り返ると、背の高い眼鏡の先輩がこちらに歩いて来ていた。
[???]
「スカートのボタンが取れそうだ」
[朝蔵 大空]
「へ?」
自分の履いているジャンパースカートを見ると、確かにボタンがひとつ落ちそうになっていた。
[生徒B]
「すみません、委員長! 見落としていました」
[???]
「気を付けて」
委員長……?
こ、この人はこの前の "風紀委員長" !
私がぶつかっちゃった人だ、超気まずいんですけどー!
[朝蔵 大空]
「じゃ、じゃあ私はこれで」
[風紀委員長]
「…………待ちなさい」
風紀委員長に再び呼び止められてしまう私。
[朝蔵 大空]
「ひっ、な……なんですか?」
先輩もしかして、まだ私に怒ってるのかな。
[朝蔵 大空]
「それって……」
[風紀委員長]
「俺の机にあったけど」
先輩の手に持たれているのは、私が失くした……失くされたと思っていた"地図帳"。
[朝蔵 大空]
「え! あ、ありがとうございます」
私は風紀委員長から自分の地図帳を受け取る。
[朝蔵 大空]
「あ、あの」
私は何か言ってみようと考える。
[風紀委員長]
「……もう行っても良いぞ」
[朝蔵 大空]
「は、はい!」
私は地図帳を胸に抱えたまま、校舎の中へと走っていく。
地図帳見つかって良かった……。
あの先輩、怖い人かなって思ってたけど、良い人だったかも?
風紀委員長……名前なんて言うのかな?
あとで里沙ちゃんに聞こっと。
……。
[???]
「おはよー! 岬ーー!」
ひとりの男子生徒が、風紀委員長の花澤岬に声を掛ける。
[???]
「ひとりとか、マジ寂しかったんですけどー」
[花澤 岬]
「しょうがないだろ、風紀の仕事があったんだから」
[???]
「ひとりにしないでよ〜」
[花澤 岬]
「だから……」
話の通じない相手の男に、花澤は呆れの表情を見せる。
[???]
「オレも風紀入れば良かったー、岬とはなんでも一緒が良いし!」
[花澤 岬]
「大悟が風紀……?」
花澤に対して異常なほど懐いているこの男の名前は古道大悟。
[古道 大悟]
「てーかオレに内緒で委員会で彼女とか作んなよ?」
[花澤 岬]
「か、かか彼女なんてっ……」
『彼女』と言う単語を聞いた瞬間、花澤は激しく動揺する。
[古道 大悟]
「まーぁ岬に彼女が出来る訳無いかぁ、どがつくほどの真面目だし……まぁ、岬のそう言う所が、オレはイイと思ってんだけど」
[花澤 岬]
「かかかか彼女とかっ、ば、馬鹿だろお前」
[古道 大悟]
「……そんな動揺するとは思わなかったわごめん」
……。
[先生]
「今日作るのはクッキーです♪」
2年生全員での調理実習の時間。
[永瀬 里沙]
「大空はクッキー作った事ある?」
[朝蔵 大空]
「あるよー」
うちのお母さん料理得意だし、お菓子作りとかよく私も一緒になってやったりしている。
この前はカヌレ作った。
[嫉束 界魔]
「よーし、でっかいの作るぞー!」
[大空&里沙]
「「!!?」」
クッキーで『でっかいの作る』って何?
[SFC会員A]
「きゃー!♡ 嫉束く〜ん頑張って〜!」
[SFC会員B]
「応援してるよ〜♡」
クッキー生地を捏ねる嫉束くんはまるで見せ物だ。
嫉束くんの回りにはたくさんの観客達が集まっている。
[永瀬 里沙]
「いや、クッキー作れよ」
[朝蔵 大空]
「ま、まあ私達は気にせず作業進めよ」
ジャーーン!!♪
[嫉束 界魔]
「見て、見て吉鬼。 勇者の剣」
[笹妬 吉鬼]
「あ、ああ良いと思うよ」
嫉束くんはクッキー生地で剣を作っている。
へぇ嫉束くん意外とそう言うの好きなんだ?
[永瀬 里沙]
「気にせず、って無理があるわよ」
[朝蔵 大空]
「うん……」
横で繰り広げられているものを必死に無視しながら、私は手元に集中する。
[永瀬 里沙]
「出来たクッキー、卯月くんにあげるの?」
[朝蔵 大空]
「うん! 美味しいの作るからね!」
私は向かいの調理台に居る卯月くんと目を合わせる。
すると、卯月くんがさりげなく頷いてくれた。
[朝蔵 大空]
「里沙ちゃんは部活の人達に渡すんでしょ?」
[永瀬 里沙]
「そうね。 あっ、原地くんに渡す分は、"大空先輩から"って言う体で渡しとくから♪」
そう言って里沙ちゃんは可愛くウィンクした。
[朝蔵 大空]
「原地くんって誰だっけ」
[永瀬 里沙]
「あんた酷すぎる」
[先生]
「ええ、みなさーん、そろそろ本気でやりましょー」
全員が先生の言葉に『はーい』と返事する。
やっとみんなが調理台に向かった。
[永瀬 里沙]
「1組の男子グループはアレ何やってる訳?」
[巣桜 司]
「きゃ! あれは怪しい粉では!!」
な!
ついにこの学校から犯罪者が!
[刹那 五木]
「プロテイン入れちゃいました」
[1組男子A]
「入れろー! 入れろー! 全部入れろー!」
[1組男子B]
「やはり筋肉、筋肉は全てを解決する」
[朝蔵 大空]
「え〜!?」
クッキーにプロテインなんて聞いたことなーい!
[狂沢 蛯斗]
「1組男子と3組女子は精神年齢低すぎません?」
[文島 秋]
「2組もそんなに変わらないと思うよ?」
[2組男子A]
「えーい!」
[2組男子B]
「あ、おい! 投げてくんなよ!」
男子達がクッキー生地を雪合戦の如く飛ばし合う。
[2組女子A]
「きゃあー! 最低〜!!」
[2組女子B]
「ちょっと! 髪に付いたんですけどー!」
女子達は走って逃げ回る。
[先生]
「あばばば……」
バタンっ!
[朝蔵 大空]
「あっ……先生倒れた」
[永瀬 里沙]
「楽しそうじゃない! 私もまぜなさい!」
[朝蔵 大空]
「こ、怖いよ……」
いつも盾になってくれる里沙ちゃんが居なくなって私の体は震える。
[木之本 夏樹]
「……っ!」
[朝蔵 大空]
「ぶるぶる……」
[木之本 夏樹]
「おいお前ら! いい加減にしろ!!」
木之本くんがこの争いを止めようと一歩踏み出す。
つるんっ。
[木之本 夏樹]
「おわっ!?」
床に落ちていたクッキー生地に足を滑らした木之本くんが私の方に突っ込んで来る。
[朝蔵 大空]
「え……きゃー!」
[木之本 夏樹]
「う、うわーー!!!!!」
調理室の人間全員の視線がこちらに集まる。
[2組男子C]
「こいつはやべぇ……おい見ろ! 木之本が女子押し倒して襲ってるぞ!」
[2組男子D]
「つ、ついにこの学校から性犯罪者が!!」
[文島 秋]
「おい木之本! 片思い拗らせすぎだろ!」
ワー!
キャー!
[朝蔵 大空]
「……///」
[木之本 夏樹]
「///」
私と木之本くんは恥ずかしすぎて、お互いどうしたら良いのか分からなくなっている。
[笹妬 吉鬼]
「見つめ合ってる?」
[嫉束 界魔]
「げー!」
[狂沢 蛯斗]
「いつまでくっ付いてるんですか! 離れなさい!!」
私の上に覆いかぶさっている木之本くんが狂沢くんの手に寄って退かされる。
──そこから先の記憶は私には無い。
そして放課後、私達2年2組は連帯責任として調理室の掃除をする事となった。
[朝蔵 大空]
「ごめんね卯月くん、結局チョコ作れなくて……」
[卯月 神]
「し、仕方無いですよ。 とても作れるような状況ではなかった事ですし、あと作ろうとしてたのはクッキーでしょう?」
[朝蔵 大空]
「あれ? そうだっけ、なんか色々あって覚えてないや!!」
ガララ……。
雑談しながら掃除の仕上げをしていると、誰かが調理室の扉を開けた。
[???]
「ガキ共ちゃんとやってるー?」
!!?
ガ、ガキ共ですって?
[永瀬 里沙]
「うわ、大物来た」
[文島 秋]
「土屋先輩、何か?」
部屋に突然入って来た人物に文島くんが応対する。
[土屋と言う男]
「お前らがサボってないか見に来てやったんだよー、感謝してよね」
[文島 秋]
「はぁ」
この学校の生徒会のひとり、3年の土屋遊戯先輩。
校長の実の息子ってだけで強い権力を持った気になっている無礼者で生意気な奴……と有名だが。
ちっちゃくてロリ可愛い男の子として人気で、失礼な発言もその愛らしい容姿で許されている。
[文島 秋]
「別に、帰って頂いて大丈夫ですよ。 クラス委員長の僕が見ていますし、もうすぐ終わるところだったので」
[土屋 遊戯]
「はぁ、うっざー」
負けるな! 文島くん!!
[土屋 遊戯]
「……?」
よし、ちゃっちゃと掃除終わらせて漫画の続き読まなきゃ……。
私は手を早く動かす。
[土屋 遊戯]
「ねぇねぇねぇ」
[朝蔵 大空]
「!? ……な、なんですか」
まさかまさかの、土屋先輩は次に私に話し掛けてきた。
[土屋 遊戯]
「ちょっと君、着いて来てよ」
[朝蔵 大空]
「え……」
逆らったら面倒臭そう、でも大人しく着いて行っても面倒臭そう。
[土屋 遊戯]
「ねぇ早くして〜、ぼくを待たせないで」
[朝蔵 大空]
「は、はい」
私は何も言い返さずに、土屋先輩の後ろを歩く。
連れてこられたのは、美術倉庫の部屋の前。
[朝蔵 大空]
「あの?」
[土屋 遊戯]
「いいよ、入って」
な、何これ!?
私は目の前の光景に驚いた。
[朝蔵 大空]
「こ、ここはなんですか?」
[土屋 遊戯]
「え? ぼくの部屋だけど?」
[朝蔵 大空]
「校内に自分の部屋があるんですか!?」
[土屋 遊戯]
「当たり前じゃん、ぼく校長の息子だもん」
[朝蔵 大空]
「当たり前……ではないと思います」
だってこの部屋、冷蔵庫やらキッチンやら、テレビとか高級そうな絨毯とかもあるし!
[土屋 遊戯]
「はいはい、そう言うツッコミは別に求めてないから。 君と漫才やるつもりは全く無いんですけど」
土屋先輩が部屋の扉を閉めた。
[朝蔵 大空]
「えと、私もう帰って良いですか?」
[土屋 遊戯]
「ダメ」
[朝蔵 大空]
「ダメ……ですか」
[土屋 遊戯]
「じゃ、スカート脱げ」
つづく……。
