[巣桜 司]
 「わーーん!」



 あ、司君が泣いてる。



[巣桜 司]
 「わーん!うわーん!うぁーん!」


[狂沢 蛯斗]
 「こーらっ!!負けたからって泣くんじゃありません!みっともないでしょう!」



 8人でやったジャンケンでは結局、巣桜が負けてしまった。


 一方、里沙が嫉束と笹妬、そして刹那に個別に話をしている。



[永瀬 里沙]
 「と、こんな感じで進めるんだけどー♪どうかな、3人(がた)?」


[嫉束 界魔]
 「……なんか、思ってたのと違った」


[刹那 五木]
 「おれも……」



 あからさまにやる気を無くしている嫉束と刹那。



[笹妬 吉鬼]
 「え、"アレ"本番マジでやんの?」



 話を聞いて汗をかき始める笹妬。



[嫉束 界魔]
 「知らないよ、やるんじゃない?」


[刹那 五木]
 「いやぁ、あの部分要る?って感じだよね」


[笹妬 吉鬼]
 「えぇ……俺そう言うキャラじゃないんだけど」


[嫉束 界魔]
 「あんなの男子から卒業するまでいじられるよ」



 里沙にバレないように、ヒソヒソと小さな声で話しだす嫉束と笹妬と刹那。



[永瀬 里沙]
 「ちょっとちょっとー?一度やると決めたなら、後からやっぱ無しって言うのは許されない、分かってるよね?」



 そんなセリフを笑顔で言った後、里沙は3人の事を睨む。



[嫉束&笹妬&刹那]
 「「「は、はい……」」」



 里沙の圧に肯定をするしかない男3人であった。



[笹妬 吉鬼]
 「……?」



 ふと入口の方を見つめだす笹妬。





 ドドドドド……。





[木之本 夏樹]
 「……!」


[文島 秋]
 「ん?どうした、木之本」





 ドドドドドっ。





[木之本 夏樹]
 「いや……なんか聞こえないか?」


[文島 秋]
 「えっ?」





 ドドドドド!!





 無数の足音のようなものが聞こえてくるようだった。



[文島 秋]
 「はっ……!何か、来る!」


[一同]
 「「「「!?!?」」」」



 体育館の扉が勢い良く開けられ、たくさんの女子生徒達が中にゾロゾロと入って来る。



[朝蔵 大空]
 「えっ!」



 うわうわうわ!なんか大勢で来たよぉ!?



[杉崎 アンジェリカ]
 「失礼致します!!」



 有象無象(うぞうむぞう)の中にひとり、存在感を放った女子生徒が居た。



[大空&里沙]
 「うわっ!?」


[嫉束 界魔]
 「うげっ……」


[笹妬 吉鬼]
 「あっ」



 大空と里沙、嫉束と笹妬は知っている顔が現れてそれぞれリアクションを取る。



[永瀬 里沙]
 「あ、あれは3組のモンスター!」


[朝蔵 大空]
 「SFC副クラブ長の杉崎アンジェリカさん!?」


[大空&里沙]
 「「こわーい!!」」



 大空と里沙は互いに身を寄せ合う。



[杉崎 アンジェリカ]
 「そこで抱き合っている女子!」



 杉崎が抱き合う大空と里沙を指さす。



[朝蔵 大空]
 「ひっ!」


[永瀬 里沙]
 「な、何よ?大空が怖がるから辞めて?」



 それに里沙は大空を守りつつ負けずに睨み返していく。



[杉崎 アンジェリカ]
 「私達の嫉束君を勝手に使わないでもらいたい!」



 周囲からは女性の声で「そうよ!そうよ!」と聞こえてくる。



[永瀬 里沙]
 「なんであんた達の許可が必要になんのよ?」


[嫉束 界魔]
 「そ、そうだそうだー!もっと言えー」



 里沙の意見に賛同するように、嫉束が遠くから野次を飛ばす。



[男子一同]
 「「「…………」」」



 こう言う時にまったく頼りにならない男子達は隅の方でただ傍観(ぼうかん)している。



[杉崎 アンジェリカ]
 「嫉束君は我々3組の人間のはずです、ですから……」


[永瀬 里沙]
 「あ、あんたらの所は何やってんのよ?」


[杉崎 アンジェリカ]
 「メイド(アンド)執事喫茶です!」


[朝蔵 大空]
 「またベタな……」



 それってどこの学校も文化祭でひとクラスは絶対やってるやつだよね。



[永瀬 里沙]
 「くだらな」



 里沙がボソッと呟く。



[杉崎 アンジェリカ]
 「ムッ……くだらなくなどない!」



 それが杉崎に聞こえてしまう。



[永瀬 里沙]
 「いやまあ別に良いと思うけど。舞台の間だけ借してくんない?」


[杉崎 アンジェリカ]
 「ダメです」



 即答の杉崎。



[永瀬 里沙]
 「なんでよ!」


[永瀬 里沙]
 (て言うか、さっきから(だんま)りの男共がムカつくー!)



 男子達は壁などにもたれ掛かったりしてこちらの様子をただ眺めているだけである。



[永瀬 里沙]
 「ちょっと嫉束!」


[嫉束 界魔]
 「は、はい……!」



 里沙の呼び掛けに返事をする嫉束。



[永瀬 里沙]
 「あんたの本気を見せてやりなさい!」


[嫉束 界魔]
 「僕の本気?……わ、分かったよ!」



 一瞬で今からやらされる事を理解する嫉束。



[笹妬 吉鬼]
 「界魔……?」



 すると嫉束君が杉崎さんの前まで出て来る。


 見せてもらおう……今こそ、嫉束君の本気を。



[朝蔵 大空]
 「し、嫉束君まさかっ?」


[嫉束 界魔]
 「お願いします杉崎さん!」



 ど……土下座だー!どどど、土下座だー!


 あの嫉束界魔君が杉崎さんに土下座をしているー!!



[全員]
 「「「!?!?」」」


[杉崎 アンジェリカ]
 「っ……!?なるほど、嫉束君の本気は伝わりました」


[朝蔵 大空]
 「えぇ……」



 それであっさり分かっちゃうのもどうかと思うよ杉崎さん。



[杉崎 アンジェリカ]
 「承知致しました、練習頑張って下さい。では、失礼致します。解散!!」





 ドドドドドっ!!





 杉崎さんのその合図でまた音を立てながら体育館から出て行くSFCの軍団。


 そして静まり返ってしまう体育館。



[永瀬 里沙]
 「なんなの」



 ……。



[永瀬 里沙]
 「はいはーい!今日はここまで、皆んな練習お疲れ様〜」



 里沙ちゃんすっかり監督面だなぁ、まとめてもらってるから助かるけどね。



[朝蔵 大空]
 「お疲れ様でーす」



 大空はそれだけ言って、里沙と体育館を後にした。



[嫉束 界魔]
 「ふぅ……疲れたけど楽しかったよね」


[笹妬 吉鬼]
 「ん、まあまあ」



 その後もちらほらと生徒が体育館から帰って行く。



[刹那 五木]
 「ちょっとー」



 帰ろうとした嫉束達に刹那が声を掛ける。



[笹妬 吉鬼]
 「……?」


[嫉束 界魔]
 「なにー?」


[刹那 五木]
 「腹減らない?せっかくだし王子(この)メンツで飯行こうよ!」



 刹那が王子メンバーを集めて食事に誘う。



[嫉束 界魔]
 「えっ……///」


[笹妬 吉鬼]
 「お、おう」


[刹那 五木]
 「……来ない?」



 刹那はわざとそう聞いてみる。



[笹妬 吉鬼]
 「あーえっと」


[嫉束 界魔]
 「行く行く!行くよ!行きます!!」


[笹妬 吉鬼]
 「…………」



 戸惑いつつも嬉しそうな嫉束と笹妬でした。



[狂沢 蛯斗]
 「えっ、ボク達もですか?」


[巣桜 司]
 「い、良いんですかぼく達なんか……」


[刹那 五木]
 「もちろんOKだよ〜、気にしないで」


[狂沢 蛯斗]
 「え?ちょっと巣桜君、今なんて言いました?ぼく"達"なんか、って!ボクに失礼だと思わないんですか!?」


[巣桜 司]
 「ふぇ!?ぼぼぼくそんな言い方しましたか?」


[文島 秋]
 「いいね、僕も今日は塾無いし。行かせてもらうよ」


[木之本 夏樹]
 「……肉食いてぇ」


[卯月 神]
 「……」   


[卯月 神]
 (面倒ですね、隙を見て逃げましょう)



 卯月は気配を消して早足で体育館から出て行こうとする。



[刹那 五木]
 「……」





 ガシっ。





[卯月 神]
 「!?」


[刹那 五木]
 「よーしじゃあ皆んなで焼肉行こうか!」



 それを刹那は案の定見逃してはくれなかった。



[卯月 神] 
 (刹那五木……この人だけは本当に油断ならない)



 卯月は完全に刹那に捕まってしまった。



[卯月 神]
 (逃げる事は……)


[刹那 五木]
 「逃げようって考えてるでしょ」


[卯月 神]
 「!?」


[卯月 神]
 (出来ないか……)



 その後も卯月は断る事も出来ず、近くの焼肉店まで皆んなで歩いて行く。



[卯月 神]
 (結局流されて来てしまった)



 団体が座れるような広い席に8人は座る。



[刹那 五木]
 「んーうま!」



 美味い肉を食べてご機嫌な刹那。



[狂沢 蛯斗]
 「……」



 狂沢はパクパクと野菜類を無言で食べている。



[刹那 五木]
 「狂沢君葉っぱしか食べてないじゃーん!お肉も食べないと大きくなれないぞっ!」



 気に掛けた刹那が狂沢に焼けた肉を食べさせようとする。



[狂沢 蛯斗] 
 「ウッ、辞めて下さい!ボクはお肉が嫌いで、出来ればお肉はあまり食べたく無いんです!」



 気付いた狂沢はそれを全力で拒否する。



[刹那 五木]
 「えっ!狂沢君ってもしかして、ヴィーガン!?」


[狂沢 蛯斗]
 「別にそこまでじゃ無いですけど……鶏肉は辛うじて食べますが」


[刹那 五木]
 「鶏肉!?鶏だね!鶏も焼いてるよ!はいあーん」



 刹那が狂沢の口に無理やり肉をねじ込む。



[狂沢 蛯斗]
 「あっ!あっつ!熱いですー!!」


[刹那 五木]  
 「あっはははっはっ!!」



 刹那は大きな声で楽しそうに笑う。



[巣桜 司]
 (あ……この人楽しんでるだけだ……)



 巣桜は狂沢の隣で静かに刹那の恐ろしさに震えた。



[木之本 夏樹]
 「ふむふがはむ……」



 そのまた隣で何も気にせず肉を(むさぼ)る木之本である。



[文島 秋]
 「君らももっと食べなよ」



 その真向かいの文島が隣の卯月達に声を掛ける。



[笹妬&卯月]
 「「……」」



 笹妬と卯月は気まずそうに文島にコクと頷く反応をする。


 
[嫉束 界魔]
 「ありがとう、なんか緊張して食べれなくて」


[文島 秋]
 「そうなの?無理しないでね」



 文島が嫉束に優しく微笑み掛ける。



[嫉束 界魔]
 「う、うん!」

 
[嫉束 界魔] 
 (文島君……だっけ?この人なんか、王子っぽい!紳士的だし!)



 文島の振る舞いに関心する嫉束。



[木之本 夏樹]
 「おい!肉全然足んねーぞ!!」


[巣桜 司]
 「きゃっ!?」



 間近で木之本に大声を出された巣桜が更に怯える。



[文島 秋]
 「お前は食べ過ぎね」


[刹那 五木]
 「よし……ねぇ、ねぇ!恋バナでもしない!?」


[嫉束 界魔]
 「こ、こここ恋バナ!!?」


[笹妬 吉鬼]
 「男で集まって恋バナかよ」


[刹那 五木]
 「いやぁなんか皆んな好きな人居そうだなって思って」



 刹那が卯月の方に視線を送る。



[卯月 神]
 「……」


[刹那 五木]
 「じゃあさ、ひとりずつ好きな人の好きな所言ってこっ!名前は言わなくて良いからさ!そうだな、おれは……うーん、面白い所!じゃあ次、狂沢君!」


[狂沢 蛯斗]
 「美しい所ですね」



 狂沢は即答&堂々と答える。



[刹那 五木]
 「へー、巣桜君は?」


[巣桜 司]
 「た……頼りになる所とか?」


[狂沢 蛯斗]
 「あれ、巣桜君。君好きな人居たんですか?まさか、ボクと被ってませんよね!?そうだったら許さないですから!!」



 狂沢は巣桜に怒鳴りつける。



[巣桜 司]
 「ええ!?そそ、それは無いと思います!ごめんなさい!」


[刹那 五木]
 「あはは!君らふたりで両想いなんじゃないのー?」



 刹那は揶揄(からか)うようにそんな冗談をふたりに言う。



[狂沢 蛯斗]
 「はぁ?」



 狂沢は刹那の発言に頭に怒りマークを浮かべる。



[刹那 五木]
 「じゃあ次!木之本君!」


[木之本 夏樹]
 「お、俺は別に居ねーよ!」



 あからさまに顔を真っ赤にして慌てだす木之本。



[文島 秋]
 「何言ってんだよ、お前居るだろ」


[木之本 夏樹]
 「あ、ちょ……余計な事言うな」


[文島 秋]
 「ちなみに僕はマジで居ないんだけど……木之本の好きな子の特徴を言うなら、良い意味でナイーブな所かな。守ってあげたくなるよね。なぁ、木之本?」


[木之本 夏樹]
 「な、なんだよお前」


[刹那 五木]
 「ほらほら!居るなら言っちゃえ」


[木之本 夏樹]
 「……かっ、可愛い所だよ」


[刹那 五木]
 「あはは!凄い、なんかシンプル!……笹妬君はどう?」


[笹妬 吉鬼]
 「お、俺は……」



 返答に困る笹妬。



[嫉束 界魔]
 「吉鬼も居るよ!居る居る!多分僕と一緒!」


[刹那 五木]
 「えっ、そうなの?」


[嫉束 界魔] 
 「そっ、優しい所があの子の魅力だよ!」


[笹妬 吉鬼]
 「お前……す、素直な所があいつの良い所だと思う」


[刹那 五木]
 「良いね!おれもそう言う子好き。じゃあ最後、卯月君言ってみよー!」


[卯月 神]
 「は、はい……」


[狂沢 蛯斗]
 「好きな人って言うか、付き合ってる人ですよね」



 すかさず狂沢がそう口を挟んでいく。



[嫉束 界魔]
 「……そうなの?」



 嫉束が卯月の方を見つめる。



[卯月 神]
 「……」


[刹那 五木]
 「あれれ〜?皆んな言ったのに、君だけ言わないつもり?」



 無言の卯月を煽っていく刹那。



[卯月 神]
 「…………全部」


[刹那 五木]
 「え、なんて?」



 卯月の声が聞こえず、聞き返す刹那。



[卯月 神]
 「全部好きです……」


[刹那 五木]
 「……!!」



 刹那は卯月の答えに目を輝かせる。



[刹那 五木]
 「そっか」



 刹那は優しげな笑顔を卯月に浮かべてそう言い放った。





 「夏本番」おわり……。