彩人くんが私の手を引いて、濡れふきんで私の腕についた黒鉛汚れを丁寧にふき取ってくれる。

 彩人くんのこういう世話焼きで優しいところ、昔から大好き。

 それは今でも変わらない。

 それでも今、彩人くんに対して感じるのは家族愛だけだ。

 頼りになるし、かっこいいなと思うけど、それだけ。

 その証拠に彩人くんが彼女とのノロケ話をしてきても、苦しくなることはなくなった。

 私と違って大人だと思っていた彩人くんが、自分と似ているということに気が付いたからかもしれない。



「……はい、できた」

 彩人くんがニコッと笑って、

「ありがとー」

 私もニコッと笑う。

 彩人くんが「凛はかわいいなー」と言って頭を撫でてくれるのを、私は目を細めて受け入れる。

 ……彩人くんに触られると、安心する。

 ドキドキしない。

 『家族』の彩人くんには、全然ドキドキしないんだよなぁ。