「……はぁ――……」

 意図せず大きなため息が漏れた。

 やだな、やだな。

 絶対みんなに気を遣われる。

 きっと一人佇む私に対して、おい誰か声かけろよって空気になる。

 うぅ……想像しただけで泣きそう。

 
 憂鬱な気持ちのままスーパーで買い物を終えた私は、自宅玄関の前に立った。

 鞄のポケットから家のカギを取り出して、改めて扉を見つめる。


 ……今日もこの扉の先に、いる。


「……フー……」


 軽く深呼吸をして気持ちを整えてから、扉を開ける。


「ただい……っ」


 私は〝ま〟を飲み込んだ。

 眼前に迫る高くジャンプした猫ちゃんと目があったからだ。


 ボフンッ!
 

 夏宮くんが、変身した勢いのまま私に抱きついた。
 

「おかえり!」


 ……全裸で。


「ッ 「はい飲んで!」

 叫ぼうとしたところをすぐさま夏宮くんの大きな手で塞がれて、私は言われるがまま〝キャー〟を飲み込んだ。

「っしゃー、やっぱ人の姿の方が落ち着くなー」

 そう言ってあっさり私から離れた夏宮くんは、部屋の真ん中に行って気持ちよさそうに伸びをする。全裸で。

「なっ、なっつみやくん!はや、はやく!はやく着て……っ!」

 心臓の音がダッシュした後と同じくらい速く大きくなってる私と反対に、何事もなかったかのように「あっ、ごめんごめん」と平謝りした夏宮くんは、とても晴れやかな顔でお父さんの服に身を包んだ。

 数時間ぶりに人間に戻れたことがよっぽど嬉しいみたいだ。

「あーっ、人間最高」