「……キョン。いま目開けたら殺す」

 心が腕を組んで静かな声で言った。

 その背中は、さながら武士。

「背中向けてるからよくない?」

「ダメ。すべての穴という穴を閉じろ」

「えぇ?めんど……てか一応いま、俺が凛の暫定彼氏なんですけど」

「は?とにかく目を閉じろ。そして息を止めろ。出来なければ俺の手で止める。息の根を。」

「もう殺しにきてるじゃん」


 思わず「フフッ」と笑ってしまう。

 二人の会話を聞いていたら、不思議と気持ちが落ち着いてきていた。

 なんか、たこパの時みたいで、楽しい。

 またこんな風に過ごせるときがくるなんて。

 私は口角を下げられないままリボンを取り出した。
 

 ……それにしてもこの制服、とてもきれいに畳まれている。

 きっと紗英が持ってたはずだから、もっとクシャクシャになっててもいいはずなのに……紗英、私に返すつもりで持ってたのかな。
 
 今、紗英はどうしてるんだろう。

 私が猫になったことを、心と響が知ってたってことは……紗英から聞いたってことだよね。

 結局二人の関係は、どうなったんだろう。



「……紗英とは、別れた」

「……!」
 

 心がそう呟いたタイミングで、響のスマホが鳴った。

 
「……あ、入江? そう、今マルマル公園。来れる?……うん、うん……」


 セイラと話してるらしい響が、受け答えしながらその場を離れる。