飼い始めたイケメンがずっとくっついて離れてくれない。

「待ってください!やっぱりその子、うちの子です!」



 ……心……!


 心だ、心の声だ……!



「ケホッ、すみません!あー、その黒猫、多分、つーか絶対、俺ん家の猫です……!」


 心の必死な声に、胸が震えて、体温が上がる。

 

「あ?ほんとか?ったく、しっかりしろよ兄ちゃん!」

「すいません!」


 チャックが開けられ、私はおじさんに取り上げられて地面におろされた。
 

「ほらよ。もう離すんじゃねぇぞ!」


 おじさんはそう言い残して、再び自転車に乗り込むと、そのまま去っていく。

 もう触れられないと思っていた外気に触れて、呆然と路上で固まる私。



「…………凛?」



 心が伺うように、私を呼ぶ。



「……ニャー……」



 やっぱり猫の声しか出せない私は、涙をぽろぽろこぼす。
 


「凛だよな」



 私は必死に目で訴えながら「ニャー」と鳴く。



「うん……うん」



 それに頷いてくれる心が、しゃがんで手を広げた。



「おいで」



 そのまなざしは、



「おいで、凛……!」



 〝好きだよ、凛〟



 あのときと同じ眼差し。



「っ……」



 私は勢いよく心の元へ駆けだして、心の胸に飛び込んだ。