……一方の私。

 『心を取り返してくる』なんてそれっぽいこと言って、このざまである。

 我ながら、ポンコツすぎる。
 
 簡単に背後を取られてプスリ、じゃないんだよ!おっちょこちょいかっ!

 このままもし猫として一生を終えてしまったら、なんて残念な人生……猫生だろう。

 とにかくなにか口にしないと、この暑さ、干からびて死んでしまう。

 人間としてのプライドを捨てるんだ! 月寄凛!



「あの、すみません」



 今まさに猫なで声でそこにいた人に媚びようとしたところ。

 近くで聞き覚えのある声がして、バッと振り向いた。

 そこにいたのは、大きな、大きな男の人。


「この位の背丈で、長い黒髪の女の子、見ませんでしたか?」


 彩人くん……!