「キョンのこと好きなの?」


 心が口を開いた。


「……え?」


 思わず開いた目を、心に向ける。

 
「中志津響のことが、好きなの?」


 心の冷たく、強い目に絡めとられて、息ができなくなる。


「〝凛〟は俺のことが好きなんだと思ってた」

「……!」


 どうして

 そんなこと言うの?


「……」

 
 どの口が言ってるのって、沸々と怒りがわいてくる。


「私、は……」


 そうだよ、あなただよ。


「私が、好きなのは……」


 いま目の前にいる、心だよ。


「……っ」


 だから悲しいよ。苦しいよ。辛くて辛くて、仕方ないよ。

 どうして心は、行っちゃったの?

 どうして何も言わずに、紗英のところに行っちゃったの?
 

 
「私が好きなのは……」



 不意に、紗英に腕を絡められる心の姿を思い出して、胸が黒いものに覆われた。



「……〝響〟だよ」



 私は蚊の鳴くような声で、そう答えた。