「……」

 正直、こんなみんなを騙すようなことしていいのか、まだ決めかねていた。

「まぁ、怒られたらあとで謝ろ」

 なぜか私の考えてることを察したらしく、響が言う。

「……フフッ」

 響の緊張感のなさについ笑ってしまうと、柔らかい表情をした響が手をグーパーさせて私を急かした。

「ほら」

「……」

 私はごくりと喉を鳴らして、そこに自分の右手を置く。

 緊張で少し湿ってしまう私の手を、響がキュッと握った。


「行くよ。〝凛〟」

「……うん」

 
 響は私の手を引いて、扉を開けた。


 ガラガラッ。


 すると、一斉に集まるクラスメイトの注目。

 みんながことに気付いて徐々にざわめきだす中を、響は私を連れて堂々と歩いていく。

 みんなの視線に混ざって、教室の窓際からまっすぐに寄せられる、視線。

 心の視線。

 心は瞬きすることなく、そらすこともなく、まっすぐ、まっすぐに私たちを見ている。

 その見開いた目からは驚き以外の感情は見えない。

 その隣に寄り添うのは、目も口も大きく開いて頬を紅潮させる、心の彼女。