「…………出てって」


 (しん)はやっぱり、何も言わない。
 
 
「出てって‼‼‼」


 私の大きな声で、部屋がビリビリと揺れた。

 こんなに大きな声を出したのは生まれて初めてかもしれなかった。

 喉にトゲトゲした何かを飲み込んだような痛みが走る。

 
「……」


 ボフンッ。


 猫になった(しん)と、目が合う。

 そのビー玉みたいな目からは人らしさが消えていて、変身した拍子に魂が抜けちゃったんじゃないかと思うくらい無機質で、恐怖すら覚えた。



「……」


 そして(しん)は、何も言葉を発さないままキッチンの方へ足を向ける。


「……」


 あんなにずっといて欲しいって、行かないでって思ってたはずの(しん)が、

 今まさに、出て行こうとしている。


「っ……」

 
 俯いて動けないでいる私の耳に、カラカラと窓が開く音がした。

 何かに駆り立てられてヒュッと息を吞んだ私は、顔をあげる。

 
「っ、(しん)!」

 
 そう叫んだ時にはもう


 そこにはもう誰も、誰もいなかった。