【ごめん!今日遅くなりそう。夕飯一緒に食べる約束してたのにごめん。僕の分はいりません。戸締りしっかりね!】

 ……そういえば彩人くん、大学院生になって思ったより忙しくなったって言ってたなぁ。

 私はりょーかいっ!と敬礼する猫のスタンプを返して、スマホを閉じた。

 鍵を開けて中に入ると、静かすぎる部屋にバタン、とドアが閉まる音だけが響き渡った。

 私は首元のネックレスチェーンを撫でた。


「……ただいまー」


 そう呟いて、返事のない部屋の電気をパチンパチン、とつけた。


 ……私は、わけあって一人暮らしをしている。


 私の帰宅後のルーティーンは決まってる。

 まず買ったものを冷蔵庫にしまって、洗濯物を取り込んで、掃除機をかけて今日の宿題を片付ける。

 そして動物の癒し動画を見ながら洗濯物を畳んで、少し早めの夕食づくりに入る。

 今日のメニューは適当に野菜を入れたコンソメスープと、レタスサラダと、和えるだけの簡単パスタ。

 出来上がったそれを机に並べて座って眺めて「上出来じゃん?」と独り言をこぼしてから、私は手を合わせた。


「いただきまー……」


 と、フォークを手に持った時、スマホが振動して画面を光らせた。

 今度はお父さんからだ。

【元気ですか?お父さんは元気です。元患者さんが朝どれ野菜を分けてくれました】

 とうもろこしやジャガイモをもって、異国の子供たちに囲まれながら無邪気に笑うお父さんの写真が添付されている。

 その姿はすっごく楽しそうで、嬉しそうで。

 お父さんが一番子供みたいだなって笑いがこぼれた。