落胆していたところに入江さんが唐突に言って、「え?」と入江さんを見る。
 

「車に。 赤っぽい色のなんかで書いてたでしょ」

「あ……あー……れはー、えっと……クレヨン、です」

「ぶぶー」

「⁉」

「不正解」


 そう言って入江さんがポケットから取り出したのは、光沢あるスティック状のもの。


「正解はこちら、ジャネルのリップスティック28番、シャーベットローズです」


 そう言って入江さんがカポッと蓋を取って繰り出したリップの先は、ぐちゃぐちゃになっていた。


「え……っ」


 車の落書きはこの、入江さんの口紅でされたってこと……?

 驚く私に、入江さんがふ、と口角をあげた。


「バカだね。 犯人かばうなんて」


 入江さんは口紅をしまうとフイッと私から離れた。


「安心して。 ちゃんとあとで自首するから。 じゃあね」


 そう言って背中を向けて、歩き出す。

 ぐちゃぐちゃな口紅の様子からしても、入江さんの言うように、落書きに入江さんの口紅が使われているのは本当なんだと思う。

 でも……


「違うよね?」


 私の声に、入江さんが足を止めた。


「入江さんじゃないよね? どうして嘘つくの?」