「…………わかった」


 中志津くんはキレイなしおりをひとつ作り上げてから立ち上がった。

 そしてまだ困惑してる男の子の元へと歩いていく。


「いってらっしゃい! なっ、なきしづくん!」


 私はありがとうの気持ちを込めて中志津くんに手を振った。

 すると中志津くんが振り返って私を見る。
 

「キョン」


 急に中志津くんが自分のあだ名を言った。


「……?」

「キョンでいいよ」

「え、あっ……えっと……キョン……?」

「うん」


 ふ、と微笑んだ中志津くん……キョンは、「じゃ」と言って教室の外へと消えていった。

 
「なぁ、キョン! どういうこと⁉︎ キョンが女子といんのなんて初めて見たんだけど! しかもあの、つっ、つつつつ」

「多分スギが思ってるようなことはないよ」


 廊下からする二人の声が、遠くなっていく。


 ……よかった、変な誤解はされずに済みそう。
 
 また中志津くんの株を下げてしまうところだった……

 じゃ、なくて、キョン……キョン……。


「……キョン」


 クラスメイトの男の子を苗字以外で呼ぶの、(しん)以外では初めてだ。

 ……これってもしかして


「……友達……?」


 ……ってことで、いいのかな。


 口にしてみたら胸にワッとくすぐったいような、嬉しい気持ちが込み上げて、無意識に口角が上がってしまう。


 ……はやく(しん)に報告したいな。