「俺、やることできたから遅れて行く」
 
 
 中志津くんはしれっと言って作業を続ける。
 

「えっ? おま、キョン、おま、月寄さんと、え⁉」
 

 男の子は冷汗を出して、これ以上ないくらい取り乱している。

 あ……なんか、変な風に勘違いされちゃってる……⁉


 
 『うわ、萎える……響くんの株下がったわ』



 ある日のクラスの女の子たちのヒソヒソ声と、冷たい視線を思い出した。


「……あ、あの、なかづ、中志津くん!」

「んー?」

「やっぱり手伝い、大丈夫です! 部活行ってきなよ!」


 中志津くんが顔をあげた。

 何かを見抜くようなその視線に、私は思わず目をそらす。


「……この量ひとりでやるの?」

「大丈夫だよ、私結構こういうの得意なんだ~! 部活遅れさせるのはさすがに、申し訳ないし、ただのクラスメイトのなかち、中志津くんにここまでさせちゃったら、なかちっ、ずくんのファンに怒られちゃいそうだよ……!」

 やっぱり中志津くんの名前をかみながら、『ただのクラスメイト』という部分を強調する。


「……」


 中志津くんは私の顔をじーっと見つめてくる。

 
「ほ、本当に大丈夫だから……っ、大丈夫! お気持ちだけ! フフッ」


 私は笑顔を浮かべながら心の中で中志津くんに、部活に行かれてください!と懇願する。


「……そう」

「うん! ほんとありがとう! いってらっしゃい!」