「あっ、部活は? いいの?」

「んー」


 私の質問に中志津くんは濁った返事をして、さっそく作業に取り掛かる。


 ……中志津くんってほんとにいい人だ。

 今までクールでとっつきにくい人っていうイメージだったけど、ガラッとそのイメージが変わった。

 穏やかで、優しい。

 

『今頃何してんだろうな、ほんと』



「……」



 中志津くんはきっと、(しん)のことが心配で心配で、仕方ないはず。

 そんな(しん)と私は、一緒に暮らしている。

 思えば今まで、(しん)が人間に戻るために私が何か行動したことってなかった。

 それどころか(しん)にずっといて欲しい、なんて自分本位なこと考えて……。

 自分のていたらくに気分が落ち込む。


 ……ううん、今からでも遅くないよね。

 中志津くんや(しん)を待ってる人たちのためにも、(しん)がはやく人間に戻れるようになにか手伝えること、探そう。



 そのとき、廊下を誰かがパタパタと走ってくる音がした。


「おーいキョーン! おせぇぞってコーチがー……!」


 扉から顔を出したのは中志津くんと同じ剣道着姿の男の子。

 男の子は私と目が合うと、その目を大きく見開いた。


「え⁉ つ、つつつき、……え⁉」


 男の子は中志津くんと私を交互に見て口をパクパクさせている。


 ……ん?

 この男の子、どこかで……?


「……あっ」


 前に下駄箱のところで、顔を真っ赤にして大きな挨拶をしてくれた男の子だ!