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「美味しいっ!」
「アプフェルシュトュルーデルというウィーンのアップルパイです」
「甘さ控えめで美味しいです」
再び離陸したプライベートジェット。
スタッフさんが用意してくれたのは、恐らく彼がさっき空港で指示した洋菓子だと思う。
『ウィーンの』と言ってたから。
珈琲がテーブルに置かれ、スタッフが踵を返したのを見届け、彼の席へと。
「どうした?」
彼の膝の上にちょこんと座って、腕を首に巻き付けて。
「さっきはごめんなさいっ。アップルパイを手配して下さってありがとうございますっ」
彼が気分を害したのは言うまでも無くて。
多忙の中、旅行に連れ出してくれただけでも有難いのに、こんな風に尽くしてくれる事が何よりも嬉しくて。
この気持ちをすぐにちゃんと伝えないと後悔しそうだもの。
彼は次から次へと私を喜ばしてくれる。
だから、その時にちゃんと感謝の気持ちを伝えないと、どんどんと感謝の気持ちが貯金されてしまうから。
腰に回された手は、優しく私を包み込む。
痛みを帯びない事が何よりの証拠で。
彼が怒ってないというバロメーター。
だから、私は素直に彼に体を預けた。
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到着したのはスロベニア共和国。
南ヨーロッパに位置していて、首都にあるリュブリャナ空港に降り立った私達は、手配されている車数台で北上した。
「今日はもう遅いから、ホテルに泊まるだけだから」
「……はい」
彼に任せておけば大丈夫。
初めて訪れた土地で右も左も分からないし。
何語なのかも分からないんだもん。
彼から離れたらきっと速攻で迷子になる。
隣りに座る彼の手を無意識にぎゅっと握っていた。



