慌てて化粧室へと駆け込んだ栞那。
心配になり後を追う。
普段からあまりお酒を飲まないタイプだから、飲みなれない日本酒に悪酔いしたのかもしれない。
「平気か?」
「……ん」
「酔い冷ましとか、胃薬とか買って来るな」
「……待って」
背中を摩っていた俺が踵を返すと、勢いよく腕が掴まれた。
「そういうの、……飲んじゃダメかも」
「え?」
「……お酒飲んじゃったけど、ダメだったかも……どうしよう…」
顔を上げた栞那は、涙目で俺に訴えかけている。
「ダメって……あ、……えっ、そうなのか?」
「分かんない。……ねぇ、そうだったらどうしよう」
思いを巡らせ、急に不安に襲われたのだろう。
栞那は泣き崩れるように俺の腕を必死に掴む。
「こんな時間だし、明日病院に行こう、……な?」
「……ぅん」
その夜、栞那はほぼ一睡もできず、俺に抱きついていた。
*
翌朝、軽い朝食を済ませた俺らは、ホテルのスタッフに教わった病院を訪れた。
「おめでとうございます。妊娠六週でニヶ月ですね」
五十代くらいの女医が、電子カルテに入力しながら笑顔を向けた。
「あのっ…」
「はい、何かご質問が?」
「……妊娠してるとは思わなくて、昨夜も数日前も飲酒してしまったんですけど、お腹の子に影響が出ますか?」
「大丈夫ですよ。大量摂取したわけじゃないですよね?」
「お銚子半分くらいです」
「今後飲酒しなければ大丈夫ですよ」
「本当ですか?」
「はい。飲酒してしまった量よりも、心的ストレスを抱えている方が胎児に悪影響を及ぼします。ご自宅は東京でしたよね?」
「はい」
「では、診療記録を纏めますので、ご自宅に近い病院で診て貰って下さい。」
「…はい」
「後は看護師の方から説明がありますので」
「分かりました」



