「いっくん、今日も帰り遅いの?」
「う~ん、たぶん遅くなる」
「そっかぁ」
「何かあるのか?」
「え?あ~別に用というほどでもないよ。ここのところゆっくり夕食一緒に食べてないから、一緒に外食でもどうかな?とか思ったんだけど」
「……ごめん。早く終われそうなら、連絡する」
「うん、分かった。お仕事頑張ってね!行ってらっしゃい」
「行って来ます」

ティーンの向けの独自の新ブランドを立ち上げるために、ここ数か月新しく構えたオフィスで仕事をしている。
キッズからレディースに移行する中間の世代。
お洒落に興味がある上、機能性でもデザイン性でも妥協を許さず、それでいて低価格で手に入れ易く、一番の売りはサイズの充実さ。

ジュニアサイズだとデザイン的にスポーツブラ的なものが一般的で、体の未発達な十代の子達には、可愛いデザインだとサイズが大きすぎるのが難点だった。
そこに目を付け、小刻みなサイズ感と充実な機能性。
それプラス、豊富なバリエーションのデザインと素材感を全面的に押し出したラインナップ。

学校の制服であるブラウスを着ていても透けない色と素材感を大事にし、試作に試作を重ねて進めている。


栞那と入籍して一年半が経った。
一年ほど前に親しい身内や友人だけを呼んで海外で挙式し、その時に新婚旅行もした。

俺のレジデンスマンションに引っ越して来た栞那は、毎日遅くに帰る俺を、自宅で仕事をしながら待っていてくれる。
それだけで十分すぎるくらい幸せだが、やはり仕事最優先では、彼女に愛想尽かされるんじゃないかと不安になる。

「三井。今日は早めに上がるぞ」
「はい、分かりました」