「奥様は本当に素晴らしい人ですよね。仕事に対しても真面目で、対応力も抜群にいい。この先、家庭に入ってしまわれるのが惜しいとさえ思える人材です」
「……それで?」
「単刀直入に申し上げます。海外プロジェクトの現地スタッフとして、彼女を連れて行きたい」
「……お断わりします」
「それは、会社としての判断ですか?それとも、夫として個人の判断ですか?」
この男は何がしたいんだ?
俺と璃子さんを引き離したいだけ?
璃子さんの営業能力は社長である父親も認めている。
これまで多くの実績を残して来ているし、人柄も申し分ない。
英語もフランス語も話せ、海外出張も安心して任せられる人材だ。
けれど、だからと言って『連れて行きたい』という提案を鵜呑みにはできない。
そもそも、国内担当だからこの案件を受けたであろう彼女が、海外のスタッフとして渡欧したいと言うだろうか?
挙式も控え、新婚旅行も控えている。
それらは予定通り行ったとして、その先の生活拠点を俺と離ればなれになって単身赴任で海外に行くとは思えない。
だって、俺らは散々話し合った。
璃子さんの体調を最優先にして、結婚後は仕事は二の次にすると。
その延長戦に二人の子宝も授かれるように足並みを揃えると誓ったのだから。
「彼女は何て言いましたか?」
「……」
「戸崎さんの申し出は会社として素晴らしい判断だとは思いますが、彼女は貴方について行くことはないでしょうね」
「……自信がおありのようで」
「はい、ありますよ。夫婦ですから」
独身最後の大仕事として、今回の仕事を引き受けた。
けれど、これからは体調を気遣う約束をしてくれたから……。
「彼女、酔うとハグ魔になるんですね」
「ッ?!!」



