彼は結婚指輪をしていない。
年齢的にも見た目的にも結婚しててもおかしくないけど。
個人的な事情を知ろうとは思わない。
けれど、色目で見られてるのなら、断らねば…。
「そないに牽制せんでええよ」
「っ」
「そないにようさんついてる指輪してたら、彼氏持ちだって誰でも分かるわ」
「……」
「ラブラブなん?」
「……はい」
「おぉ~羨ましいわ」
「戸崎さんは恋人、いないんですか?」
「今は、ね」
「……そうなんですね」
戸崎さんは少し寂しげな目をした。
出向で来ているから、週末寂しい想いをしていると思ったのだろう。
口説くというよりも、気遣いに近い声掛けなのかもしれない。
グイグイしつこい感じに口説いている人とは雰囲気がちょっと違う。
私も営業職で食べて来ているから、あしらい方は熟知している方だ。
「白井さん、食器の一覧ファイル、今週末まででいいですか?」
「はい、週末までで大丈夫です」
デザイン課の菊間 有里(三十一歳)が申し訳なさそうに頭を下げる。
今回のプロジェクトではオリジナリティも出すため、食器類や店舗スタッフの制服など、既製品ではなく完全オリジナルで勝負することになっていて、だからこそ膨大な時間が必要なのだ。
*
昼休みにプロジェクトのスタッフ数人と近場の飲食店で昼食をとる。
「白井さん、ご結婚は?」
「いえ、まだです」
「ご予定は?」
「……来月末に」
「えぇぇっ?!そんな大事な時期に、大阪に来てちゃあかんで!」
普段標準語を話してるスタッフも、気を抜くと大阪弁になるらしい。
戸崎さんはオールタイム大阪弁だけど、こういう会話自体、営業の勉強になるなぁ。



