祖母の家には幾つかの江戸切子があって、遊びに行くとよくそれで冷茶が出された。
まどかの家にあった手作りグラスを見て思い出した俺が呟いたのが発端。
90分の切子体験を満喫して店を出ると。
「廉」
「ん?」
「これ、交換しない?」
「え?」
「せっかくだし、交換しようよ」
「え、……でも、俺の、クオリティめっちゃ低いけど」
素人とは思えないまどかの作品。
最初から均等な線なんて高度の技なのに、彼女は生まれ持った才能なのか、売り物かと思えるほどの出来栄えだ。
“矢来重に星紋”、職人が刻む美しい模様を習い、それを一生懸命に注ぎ込んだものなのに。
俺のなんてクールでカッコよく見えるからという理由で、揺らぎのある“よろけ縞”という曲線的な縞模様なだけなのに。
それも、見るからにド素人が作ったと思えるほど、出来栄えなんて見るも無残なものなのに。
「お願いごと、聞いてくれるんだよね?」
「……分かったよ」
春休みに入ってすぐに、今日の誕生日デートはどうする?と話し合った時に、2学期の中間試験でのご褒美の『何でもお願いごとを1つ叶える』という約束を誕生日の日に使いたいという話になった。
そして一昨日、『誕生日の日は、私のお願いごとを叶えてね?』と言われたんだった。
彼女のお願いごとなら、毎日だって叶えてあげたい。
『別れる』以外であれば、何だって。
「でもって、これはうちで預かります」
「は?」
「小森家に来た時に、私が作ったこれ使って?」
「あー、うん、分かった」
何これ。
すっげぇ嬉しんだけど。
「とりあえず、荷物になるから俺が持っとく」
「ありがと♪」
っく~~~っっっ、可愛いすぎんぞ、その顔。
ンフッと嬉しそうな笑顔が眩しすぎて、顔が蕩けるって。
破壊力、ハンパねぇ~。



