瀬名くんは結局その日、眠り込んだままだった。
途中帰ろうかとも思ったが、かなり日が落ちていて、雪も積もりつつあったので、今日は泊っていくよう言われた。
私の親には、チカラさんの親御さんから話を通してもらったおかげで、すんなり外泊を許可してもらえた。
「九鬼さん、寝る場所だけど、俺は父親の部屋で寝させてもらうから、九鬼さんはリビングで・・・」
「あ・・・、あの、気にしないでください。私、瀬名くんの側にいます」
「・・・けど」
「私がそうしたいんです、お願いします」
「・・・・・わかった」
夜通し、私は瀬名くんの側にいた。
(・・・にしても・・・、やっぱりチカラさんを頼ったのは迷惑だったかな・・・)
あの時は気が動転していて考えが及んでいなかったけど、この部屋に来てはっとした。
チカラさんはもうすぐ受験だ。
机の上には参考書やら問題集やら単語帳やらが重ねてあって、それを見ると頼ってしまったことが申し訳なくなる。
今年の共通テストが何日にあるのか明確にはわからないけれど、共通テストはだいたい一月前半なので・・・たぶんあと二週間ちょっとぐらいだろう。
(・・・何かお礼、しなきゃだなぁ・・・結局瀬名くんの迎えに来てもらった上に、泊めてもらったわけだし・・・)
そんなことをぼんやり考えながら、私はいつの間にやら深い眠りに落ちていた。
体の痛みで、私は目を覚ました。
時計を見ると、朝の5時過ぎをさしていた。
(・・・こ・・・この姿勢のまま寝落ちてた・・・)
べッドの横に座り込んで寝落ちていたせいで、背筋と足が痛い。
瀬名くんはまだ寝ている。
静かに体を起こし、伸びをする。
しかし衣擦れの音と気配に気が付いたのか、ずっと眠り込んでいた瀬名くんが小さな声をもらした。
「・・・・ん・・」
「!」
私は驚いて瀬名くんを見やると、瀬名くんが薄く目を開けた。
「あかり、ちゃん・・・?」
ずっと眠りこけていたからか、掠れがちの声でそう言った。
「うん、おはよう、瀬名くん。ごめんね、起こしちゃって」
瀬名くんは私の言葉で、ゆっくりと窓のほうを向いた。
カーテンの隙間から、朝日が差し込んでいる。
「・・・きょう、クリスマス・・・・?」
「あ・・・・、そうだね、確かにそうだ」
昨日からいろいろあって失念していたけど、今日は日付変わって12月25日、クリスマスだ。
「・・・・ねぇ、あかりちゃん、はさ・・・」
瀬名くんが、ゆっくり、でも昨日よりもずっとはっきりした様子で話し始めた。
「サンタの存在、いつまで信じてた・・・・?」
「サンタさん・・・?」
思わぬ質問に一瞬戸惑う。
自分の記憶を掘り起こしてみるけれど、はっきりといつ信じなくなったのかは覚えていなかった。
「うーん・・・・、たぶん小学校三年生とか四年生とか・・・かな。周りの子がね、サンタクロースはいないって言い始めて、はじめはそんなわけないって私も言い返してたんだけど、そうすると周りの子からお子ちゃまだとかそんな風にからかわれちゃってさ」
「あはは・・・、小学生だもんね・・・」
「まあそれが嫌で、本当はいるって信じてたんだけど、人前では信じてないって言うようになって。そうしてる内にいつの間にかいるって思わなくなっていったっけなぁ・・・」
私の話を、小さく、けれど優しく微笑みながら聞く瀬名くん。
「瀬名くんは?いつ信じなくなったか覚えてる?」
「うん・・・」
瀬名くんは天井を見上げながら、とつとつと語りだす。
「明確に覚えてるよ、小6のときだ。俺は柄にもなく小5までサンタの存在、信じててさ・・・・。それまではクリスマスの朝、プレゼントが枕元に置いてあったんだ・・・・大していい子でもなかったんだけどね」
「・・・・」
それまでは、か。
瀬名くんの言わんとすることが想像できてしまった。
「でも・・・小6のクリスマスは、プレゼントなかった・・・。それまでの人生で一番いい子に過ごしてたつもりだったんだけど」
チカラさんの話だと、瀬名くんがご両親を亡くしたのは小5のときのことだったと言っていた。
亡くなったのが何月頃の話なのかは聞き及んでいないが、きっとクリスマスはまだいっしょに過ごせていたんだろう。
だけど次の年の瀬名くんにプレゼントを贈る人は・・・。
私は言うべき言葉が見つからなくて目を伏せたが、なぜか瀬名くんはどことなく嬉しそうに話を続けた。
「だからずっとクリスマスなんて嫌いだった。・・・・けど、小5のクリスマス以来・・・初めて、ほしいものが枕元にあった」
「・・・・?」
不思議そうにする私を見つめ、瀬名くんがとびきりの笑顔を浮かべた。
「昨日、あかりちゃんに会いたいって言ったら・・・会えた」
「!」
瀬名くんは嬉しそうに私の手を取った。
「来てくれて・・・ありがと・・・、あかりちゃん・・・」
そう言って笑う瀬名くんは、私が今まで見た瀬名くんの中で、一番嬉しそうだった。
途中帰ろうかとも思ったが、かなり日が落ちていて、雪も積もりつつあったので、今日は泊っていくよう言われた。
私の親には、チカラさんの親御さんから話を通してもらったおかげで、すんなり外泊を許可してもらえた。
「九鬼さん、寝る場所だけど、俺は父親の部屋で寝させてもらうから、九鬼さんはリビングで・・・」
「あ・・・、あの、気にしないでください。私、瀬名くんの側にいます」
「・・・けど」
「私がそうしたいんです、お願いします」
「・・・・・わかった」
夜通し、私は瀬名くんの側にいた。
(・・・にしても・・・、やっぱりチカラさんを頼ったのは迷惑だったかな・・・)
あの時は気が動転していて考えが及んでいなかったけど、この部屋に来てはっとした。
チカラさんはもうすぐ受験だ。
机の上には参考書やら問題集やら単語帳やらが重ねてあって、それを見ると頼ってしまったことが申し訳なくなる。
今年の共通テストが何日にあるのか明確にはわからないけれど、共通テストはだいたい一月前半なので・・・たぶんあと二週間ちょっとぐらいだろう。
(・・・何かお礼、しなきゃだなぁ・・・結局瀬名くんの迎えに来てもらった上に、泊めてもらったわけだし・・・)
そんなことをぼんやり考えながら、私はいつの間にやら深い眠りに落ちていた。
体の痛みで、私は目を覚ました。
時計を見ると、朝の5時過ぎをさしていた。
(・・・こ・・・この姿勢のまま寝落ちてた・・・)
べッドの横に座り込んで寝落ちていたせいで、背筋と足が痛い。
瀬名くんはまだ寝ている。
静かに体を起こし、伸びをする。
しかし衣擦れの音と気配に気が付いたのか、ずっと眠り込んでいた瀬名くんが小さな声をもらした。
「・・・・ん・・」
「!」
私は驚いて瀬名くんを見やると、瀬名くんが薄く目を開けた。
「あかり、ちゃん・・・?」
ずっと眠りこけていたからか、掠れがちの声でそう言った。
「うん、おはよう、瀬名くん。ごめんね、起こしちゃって」
瀬名くんは私の言葉で、ゆっくりと窓のほうを向いた。
カーテンの隙間から、朝日が差し込んでいる。
「・・・きょう、クリスマス・・・・?」
「あ・・・・、そうだね、確かにそうだ」
昨日からいろいろあって失念していたけど、今日は日付変わって12月25日、クリスマスだ。
「・・・・ねぇ、あかりちゃん、はさ・・・」
瀬名くんが、ゆっくり、でも昨日よりもずっとはっきりした様子で話し始めた。
「サンタの存在、いつまで信じてた・・・・?」
「サンタさん・・・?」
思わぬ質問に一瞬戸惑う。
自分の記憶を掘り起こしてみるけれど、はっきりといつ信じなくなったのかは覚えていなかった。
「うーん・・・・、たぶん小学校三年生とか四年生とか・・・かな。周りの子がね、サンタクロースはいないって言い始めて、はじめはそんなわけないって私も言い返してたんだけど、そうすると周りの子からお子ちゃまだとかそんな風にからかわれちゃってさ」
「あはは・・・、小学生だもんね・・・」
「まあそれが嫌で、本当はいるって信じてたんだけど、人前では信じてないって言うようになって。そうしてる内にいつの間にかいるって思わなくなっていったっけなぁ・・・」
私の話を、小さく、けれど優しく微笑みながら聞く瀬名くん。
「瀬名くんは?いつ信じなくなったか覚えてる?」
「うん・・・」
瀬名くんは天井を見上げながら、とつとつと語りだす。
「明確に覚えてるよ、小6のときだ。俺は柄にもなく小5までサンタの存在、信じててさ・・・・。それまではクリスマスの朝、プレゼントが枕元に置いてあったんだ・・・・大していい子でもなかったんだけどね」
「・・・・」
それまでは、か。
瀬名くんの言わんとすることが想像できてしまった。
「でも・・・小6のクリスマスは、プレゼントなかった・・・。それまでの人生で一番いい子に過ごしてたつもりだったんだけど」
チカラさんの話だと、瀬名くんがご両親を亡くしたのは小5のときのことだったと言っていた。
亡くなったのが何月頃の話なのかは聞き及んでいないが、きっとクリスマスはまだいっしょに過ごせていたんだろう。
だけど次の年の瀬名くんにプレゼントを贈る人は・・・。
私は言うべき言葉が見つからなくて目を伏せたが、なぜか瀬名くんはどことなく嬉しそうに話を続けた。
「だからずっとクリスマスなんて嫌いだった。・・・・けど、小5のクリスマス以来・・・初めて、ほしいものが枕元にあった」
「・・・・?」
不思議そうにする私を見つめ、瀬名くんがとびきりの笑顔を浮かべた。
「昨日、あかりちゃんに会いたいって言ったら・・・会えた」
「!」
瀬名くんは嬉しそうに私の手を取った。
「来てくれて・・・ありがと・・・、あかりちゃん・・・」
そう言って笑う瀬名くんは、私が今まで見た瀬名くんの中で、一番嬉しそうだった。

