みんなが帰ってから一時間ほど、瀬名くんは眠り込んでいた。
私は彼のために何かしてあげたかったけれど何もできることが思い浮かばず、ただ隣に座り込んでいた。
「・・・・ぅ・・・・」
そうして一時間を過ごしていると、ようやく瀬名くんが瞼を震わせた。
ゆっくりと、彼の瞳がひらかれる。
「・・・母さ・・・ん・・・?」
寝ぼけているのか、焦点の定まらない瞳が私をとらえ、かすれた声でそう呟いた。
私はなるたけ優しく瀬名くんの手を握る。
「瀬名くん、体調はどう?」
私の呼びかけで少し意識を戻したのか、私の手を握り返してきた。
「・・・あかりちゃん」
「うん」
「・・・体調・・・、よく、ない・・・、頭痛い・・・・からだ・・・重・・・あと寒い・・・」
ひたすら思ったことをそのまま口に出しているのか、普段より幼げに話す瀬名くん。
「寒い?布団追加する?」
「ん・・・」
私は追加の布団と、水を一杯もってリビングに戻る。
「瀬名くん、水飲んで。体起こせる?」
「・・・飲ませて」
「へっ!?あっ、うんっ、わ、わかった・・・」
緩慢な動きで起き上がろうとする瀬名くんに手を貸し、どうにか体を起こして水を飲ませた。
そして、寒いのかまたすぐに布団に潜り込む。
「瀬名くん、自分の家まで帰れそう?」
「かえれない・・・」
「・・・私も付き添う。それじゃ無理かな?」
「かえれない・・・」
瀬名くんの答えに、私は頭を抱える。
他の友達なら親御さんに連絡するという手があるのだが、瀬名くんの場合そうはいかない。
大人ならこういう時車をつかえるんだけど・・・、どうすればいいんだこういう時って。
「えーっと・・・そうだな・・・、じゃあそうだ、私の親に送ってもらえないか頼んでみるよ。仕事おわってからになっちゃうけど・・・それならいいかな?」
「かえれない・・・」
瀬名くんが子供のように大きく首を振った。
そして私の手にぎゅっと抱き着く。
「・・・・かえりたく、ない・・・」
そう呟いた瀬名くんは震えていた。
何かにおびえるように、何かを恐れるように。
そんな彼を見ていると、私も安易に帰るよう言えなくなってしまった。
「・・・・帰りたくないの?」
「うん・・・」
「・・・でもずっとここにいるってわけにはいかないし・・・」
私としてはこのまま泊って行ってもらっても構わないのだが、同い年の男の子を泊めるとなると親もすんなり了承はしてくれないだろう。
「・・・あ、そうだ」
そういえば以前瀬名くんが貧血で倒れたとき、チカラさんの親御さんが病院まで送ったとのことだった。
それにチカラさん曰く瀬名くんはチカラさんのおうちに泊まることもあるらしいし。
瀬名くんの保護者の代わりにといっては何だが、現状瀬名くんのお迎えに来れるとしたらチカラさんの親御さんくらいしか思い浮かばない。
「ど・・・、どこに・・・」
「スマホとってくるだけだよ、電話してくるね」
瀬名くんは不安げな瞳を揺らしつつ、ためらいがちに私の腕を離した。
(・・・もしかして・・・、一人になるのが怖い、のかな・・・)
その様子を見てふとそう気づく。
一瞬で机の上に放置してあったスマホを回収し、すぐに瀬名くんの隣に戻る。
すると瀬名くんの表情が、ほっとしたように緩んだ。
「大丈夫、隣にいるからね」
安心してほしくてそう伝えると、私はスマホを開き、チカラさんに電話してみる。
しばらく、静かな部屋にコール音だけが響く。
そして何コールめか鳴ったのち、チカラさんは電話に出た。
『・・・もしもし?九鬼さんか?』
「あっはい!もしもし!」
『どうかしたか?急に電話なんて・・・』
「あ、はい、あの、どうかしてますね・・・・。私っていうか、瀬名くんなんですけど」
私は瀬名くんが何人かで集まって遊んでいる際に熱を出して倒れたこと、一人では帰れなさそうな状態で困っていることを伝えた。
『そうか、涼我が・・・』
チカラさんは何かを考えていたのか少し間をおいて、返事をしてきた。
『・・・わかった。俺の親に迎えを頼もう。涼我なら何度かうちには泊っているしうちで預かるよ。30分くらいそのまま待っててくれるか?』
「は、はい・・・、ありがとうございます・・・」
チカラさんにお礼を言って、家の向かいのスーパーに来てもらうよう頼んで電話を切った。
そして瀬名くんの肩を軽くたたく。
「瀬名くん、起きてる?」
「・・・ん」
「今から、チカラさんの親御さんが来てくれるって。今日はチカラさんのおうちに泊まっていいって」
「きょーちゃんが・・・?」
「うん。向かいのスーパーに来てくれるらしいから、そこまではがんばって行こう」
瀬名くんは私をじっと見つめた。
「・・・あかりちゃん、は・・・」
「大丈夫、私も行くから」
「・・・うん」
ようやく瀬名くんがうなずいてくれた。
私は瀬名くんが寒くないよう、家にあったありったけの防寒具をもってきて瀬名くんに着させた。
そうこうしている内に20分ほど経ち、想定より早くチカラさんから到着の連絡があった。
「行こう、瀬名くん。立てる?」
瀬名くんは重い体をどうにか起こし、歩き出す。
瀬名くんより小柄な私ではたぶん十分な支えにはなれないだろうけど、気持ちだけでもと瀬名くんの腕をとった。
ゆっくり歩き、時間はかかったがどうにかスーパーの駐車場でチカラさんの姿を発見した。
「九鬼さん、連絡ありがとう」
「いえっ、こちらこそ・・・本当にありがとうございます・・・」
瀬名くんをチカラさんに引き渡し、チカラさんの車が見えなくなるまで見送った。
(・・・瀬名くん、早く治るといいけど・・・)
心の中でそっと祈りながら、私も家に戻った。
私は彼のために何かしてあげたかったけれど何もできることが思い浮かばず、ただ隣に座り込んでいた。
「・・・・ぅ・・・・」
そうして一時間を過ごしていると、ようやく瀬名くんが瞼を震わせた。
ゆっくりと、彼の瞳がひらかれる。
「・・・母さ・・・ん・・・?」
寝ぼけているのか、焦点の定まらない瞳が私をとらえ、かすれた声でそう呟いた。
私はなるたけ優しく瀬名くんの手を握る。
「瀬名くん、体調はどう?」
私の呼びかけで少し意識を戻したのか、私の手を握り返してきた。
「・・・あかりちゃん」
「うん」
「・・・体調・・・、よく、ない・・・、頭痛い・・・・からだ・・・重・・・あと寒い・・・」
ひたすら思ったことをそのまま口に出しているのか、普段より幼げに話す瀬名くん。
「寒い?布団追加する?」
「ん・・・」
私は追加の布団と、水を一杯もってリビングに戻る。
「瀬名くん、水飲んで。体起こせる?」
「・・・飲ませて」
「へっ!?あっ、うんっ、わ、わかった・・・」
緩慢な動きで起き上がろうとする瀬名くんに手を貸し、どうにか体を起こして水を飲ませた。
そして、寒いのかまたすぐに布団に潜り込む。
「瀬名くん、自分の家まで帰れそう?」
「かえれない・・・」
「・・・私も付き添う。それじゃ無理かな?」
「かえれない・・・」
瀬名くんの答えに、私は頭を抱える。
他の友達なら親御さんに連絡するという手があるのだが、瀬名くんの場合そうはいかない。
大人ならこういう時車をつかえるんだけど・・・、どうすればいいんだこういう時って。
「えーっと・・・そうだな・・・、じゃあそうだ、私の親に送ってもらえないか頼んでみるよ。仕事おわってからになっちゃうけど・・・それならいいかな?」
「かえれない・・・」
瀬名くんが子供のように大きく首を振った。
そして私の手にぎゅっと抱き着く。
「・・・・かえりたく、ない・・・」
そう呟いた瀬名くんは震えていた。
何かにおびえるように、何かを恐れるように。
そんな彼を見ていると、私も安易に帰るよう言えなくなってしまった。
「・・・・帰りたくないの?」
「うん・・・」
「・・・でもずっとここにいるってわけにはいかないし・・・」
私としてはこのまま泊って行ってもらっても構わないのだが、同い年の男の子を泊めるとなると親もすんなり了承はしてくれないだろう。
「・・・あ、そうだ」
そういえば以前瀬名くんが貧血で倒れたとき、チカラさんの親御さんが病院まで送ったとのことだった。
それにチカラさん曰く瀬名くんはチカラさんのおうちに泊まることもあるらしいし。
瀬名くんの保護者の代わりにといっては何だが、現状瀬名くんのお迎えに来れるとしたらチカラさんの親御さんくらいしか思い浮かばない。
「ど・・・、どこに・・・」
「スマホとってくるだけだよ、電話してくるね」
瀬名くんは不安げな瞳を揺らしつつ、ためらいがちに私の腕を離した。
(・・・もしかして・・・、一人になるのが怖い、のかな・・・)
その様子を見てふとそう気づく。
一瞬で机の上に放置してあったスマホを回収し、すぐに瀬名くんの隣に戻る。
すると瀬名くんの表情が、ほっとしたように緩んだ。
「大丈夫、隣にいるからね」
安心してほしくてそう伝えると、私はスマホを開き、チカラさんに電話してみる。
しばらく、静かな部屋にコール音だけが響く。
そして何コールめか鳴ったのち、チカラさんは電話に出た。
『・・・もしもし?九鬼さんか?』
「あっはい!もしもし!」
『どうかしたか?急に電話なんて・・・』
「あ、はい、あの、どうかしてますね・・・・。私っていうか、瀬名くんなんですけど」
私は瀬名くんが何人かで集まって遊んでいる際に熱を出して倒れたこと、一人では帰れなさそうな状態で困っていることを伝えた。
『そうか、涼我が・・・』
チカラさんは何かを考えていたのか少し間をおいて、返事をしてきた。
『・・・わかった。俺の親に迎えを頼もう。涼我なら何度かうちには泊っているしうちで預かるよ。30分くらいそのまま待っててくれるか?』
「は、はい・・・、ありがとうございます・・・」
チカラさんにお礼を言って、家の向かいのスーパーに来てもらうよう頼んで電話を切った。
そして瀬名くんの肩を軽くたたく。
「瀬名くん、起きてる?」
「・・・ん」
「今から、チカラさんの親御さんが来てくれるって。今日はチカラさんのおうちに泊まっていいって」
「きょーちゃんが・・・?」
「うん。向かいのスーパーに来てくれるらしいから、そこまではがんばって行こう」
瀬名くんは私をじっと見つめた。
「・・・あかりちゃん、は・・・」
「大丈夫、私も行くから」
「・・・うん」
ようやく瀬名くんがうなずいてくれた。
私は瀬名くんが寒くないよう、家にあったありったけの防寒具をもってきて瀬名くんに着させた。
そうこうしている内に20分ほど経ち、想定より早くチカラさんから到着の連絡があった。
「行こう、瀬名くん。立てる?」
瀬名くんは重い体をどうにか起こし、歩き出す。
瀬名くんより小柄な私ではたぶん十分な支えにはなれないだろうけど、気持ちだけでもと瀬名くんの腕をとった。
ゆっくり歩き、時間はかかったがどうにかスーパーの駐車場でチカラさんの姿を発見した。
「九鬼さん、連絡ありがとう」
「いえっ、こちらこそ・・・本当にありがとうございます・・・」
瀬名くんをチカラさんに引き渡し、チカラさんの車が見えなくなるまで見送った。
(・・・瀬名くん、早く治るといいけど・・・)
心の中でそっと祈りながら、私も家に戻った。

