いよいよクリスマスイブがやってきた。
緊張から異様に早く目が覚め、一時間も前には準備を終えてしまっていた。
そのまま部屋でそわそわとしながら過ごし、ようやくチャイムの音をきいて玄関を開けた。
「おはよ!あかりー!」
「おはよ、凜」
「あかり!見て!ちらちら雪降ってる!!」
「ほんとだ・・・、ホワイトクリスマスじゃん」
一番乗りは凜だった。
凜はもう何度もうちの家に来たことがあるので、慣れた感じで上がり込むと、リビングで我が家のアイドルハスキーのロウと戯れ始めた。
凜から少し遅れて、音央ちゃん、愛架ちゃんも二人いっしょにやってきた。
ロウはものすごく人懐っこいので、大勢に囲まれても嫌がるどころかむしろはしゃぎ放題って感じでしっぽをふりふり。
それに気をとられるみんなとは裏腹に、私はなんの音もならないインターフォンをぼんやり見つめる。
(・・・瀬名くん、遅いな・・・)
まだ集合時間になったばかりだから遅刻ってほどではないのだが、普段瀬名くんは女の子との約束なら30分前には着いているようなタイプなので、余計不安になる。
やっぱり今日誘ったのは迷惑だっただろうか。
誘った日は気をつかっていただけで、本当は来たくなかったのだろうか。
そう不安に駆られた瞬間、ようやくインターフォンが来客を告げた。
私は急いで玄関を開ける。
「・・・えっと・・・、遅くなってごめん・・・」
少し気まずそうに瀬名くんがそう言って、視線をそらした。
「ううん、まだ5分も過ぎてないし大丈夫だよ」
そう答えてから、ふと瀬名くんのコートに雪がうっすら積もっていることに気が付く。
「・・・歩いてきたの?」
「え・・・、いや、バスで来たけど・・・なんで?」
「だって・・・」
私は瀬名くんの肩のあたりを指さす。
瀬名くんも自分の肩に雪が積もっていることに気づいたのか、あわてて払った。
「あー・・・、えっと・・・、・・・バス停からここ来るまでに一瞬雪強くなったから・・・」
「そっか」
見た感じ今はちらちらとしか振っていないけど、雪ってすぐ強くなったり弱くなったりするし、瀬名くんもタイミングが悪かったのかもしれない。
「にしても寒そうだね、顔赤いよ。あがってあがって、中あっためてあるから」
「・・・ん、ありがと・・・」
瀬名くんも来たので、さっそくクリスマスパーティーを始めることになった。
「みんな飲み物もってるねー?じゃー行きまーす!かんぱーい!!」
凜の音頭でグラスのぶつかり合う軽やかな音が響き、それを合図にクリスマスパーティーが始まった。
「あかりー、あたしの分のチキンとってーっ!」
「味ふたつあるけどどっちにする?あ、愛架ちゃんもほしい?」
「うん。あたし辛いのがいい」
「涼我ピザわけんの下手っ!!」
「えぇ・・・そんなこと言うなら音央ちゃんがやってよ・・・」
みんな楽しく食事を進め、ピザもチキンもカルパッチョもサラダもどんどん消えていく。
「凜、いつものことだけど食べすぎ」
「ほんはほほはいお」
「飲み込んでからしゃべりなさい・・・・」
凜は口の中のものを咀嚼し、飲み込んでからもう一度、そんなことないよ、と言い直した。
そしてすぐにまたチキンを口いっぱいに頬張る。
「そんなことあるじゃん・・・、まあ残すよりはいいけどさ」
そう呆れて話しながら、ふと私の向かいに座る瀬名くんに視線をやる。
「・・・・瀬名くん」
「ん?」
「・・・今日、やっぱあんまり、誘わないほうがよかった・・・かな?」
瀬名くんは一瞬面食らった表情をして、質問を返してきた。
「え、なんで?」
「だって・・・あんまり食べてないし・・・乗り気になれなかったのかも、って・・・」
「ああ・・・これはちょっと、ごめん、今日あんまりお腹空いてなくてさ。でも誘ってくれたのは全然嫌じゃない・・・っていうかむしろ嬉しいから。気にしないでよ」
「そう・・・?」
お腹が空いていないだけならいいけど・・・。
普段瀬名くんはがつがつ食べるってほどではないけれど、並みの高校生男子くらいの食事量は普通に食べている。
その割に今日は凜どころか、私くらいの量しかまだ食べていない様子だったので気にかかっていたのだ。
(気をつかってくれてるだけで・・・ほんとは乗り気じゃない、とか、そういうのではないよね・・・?)
一抹の不安を覚えつつ、クリスマスパーティーは盛り上がったまま進んでいく。
ある程度料理を食べ終えたところで、ケーキ作りをすることになった。
「えーっと・・・60g?フィーリングで大丈夫かぁ!」
「こらこらこら!!」
はかりもせず小麦粉を投入しようとする凜を、慌てて愛架ちゃんが止める。
「料理と違ってお菓子作りは結構分量命なんだから。めんどくさがらずにはかって」
「えー・・・はぁい・・・」
私が台所の戸棚に眠るはかりを持ってくると、凜はしぶしぶ小麦粉をはかりにかける。
「・・・・んーっと、60gだから・・・」
「ちょ、まずお皿の重さ差し引いてから!」
凜は料理なんて基本しないタイプだけど、愛架ちゃんという補助がいれば少なくとも食べられないものにはならないだろう。
私はそう無事を確信してから、リビングに戻る。
リビングでは瀬名くんが一人食事の後片付けをしてくれていた。
「わ、ごめん瀬名くん、任せきりになっちゃってて・・・!」
「ううん、俺ケーキ作りとかしたことないし、キッチンいてもたぶん役に立たないから」
私も瀬名くんを手伝い、机の上に残されたお皿を重ねだす。
「それは心配しなくていいけどね。凜も料理はからきしだから」
「あはは、そうなんだ」
「でもそのくせ張り切ってケーキ作りを主導しようとするところがまたねぇ・・・」
私の話を聞きながら、瀬名くんは控えめに笑い声をたてた。
瀬名くんは重ねたお皿を持ち上げる。
「・・・じゃ、これ洗ってくる」
「あ、うん。ありがと・・・」
瀬名くんがリビングを出てキッチンに向かったのをしり目に、私は小さくため息をついた。
(やっぱりちょっと気まずそう、だよね・・・瀬名くん・・・)
そんなことを思いつつ机を拭いていると、すぐに瀬名くんが戻ってきた。
「あれっ?どうしたの?」
「あー・・・、音央ちゃんから、食器洗いはやっておくからあかりちゃんの手伝いしろって言われちゃって・・・」
「あっ、そ・・・っか・・・」
音央ちゃんなりに二人きりにしてしてやろうという気をつかってのことだろうけど・・・、この状況じゃ何を話せばいいのかわからない・・・。
「・・・じゃ、じゃあ!私ごみまとめてるから瀬名くんは机拭くのお願いっ!」
「ん、わかった」
除菌タオルを渡して、私はパーティーで出たごみを集めにかかる。
「・・・・」
「・・・・」
お互い無言で黙々と作業する時間が一瞬流れ・・・。
何か話を振らねばと焦りつつも何も浮かばずただ口をぱくぱくさせていた私に、瀬名くんが話を振ってきた。
「・・・ずっと、答え保留にしてて、ごめん」
「!」
驚いて思わず瀬名くんを見たけれど、瀬名くんはうつむいていて、その表情は見えなかった。
でも瀬名くんの手が、除菌タオルを強く握りしめたのが目に入る。
「・・・ううん、気にしてないよ」
「・・・・」
「瀬名くんが悩んで悩んでこの期間を過ごしてくれてること、痛いほど伝わってるから。むしろこれだけ真剣に向き合ってるんだから、感謝したいくらい」
「・・・うん・・・、ごめん・・・・」
「だから謝らないでってば」
私は笑って見せたけど、やっぱり瀬名くんはまだどこか浮かない表情をしていて。
そんな彼の表情が気にかかって、思わず言いつのろうとしたが、そこでキッチンから凜が入ってきた。
「あかりー!下準備できた!オーブン使っていい?」
「あっ!うん!使い方わかる?」
「うーん・・・わからん!!」
「あはは・・・だと思ったよ・・・」
私はもう一度ちらりと瀬名くんに視線をやったけど、瀬名くんはもう何事もなかったかのように机を拭きにかかっていた。
緊張から異様に早く目が覚め、一時間も前には準備を終えてしまっていた。
そのまま部屋でそわそわとしながら過ごし、ようやくチャイムの音をきいて玄関を開けた。
「おはよ!あかりー!」
「おはよ、凜」
「あかり!見て!ちらちら雪降ってる!!」
「ほんとだ・・・、ホワイトクリスマスじゃん」
一番乗りは凜だった。
凜はもう何度もうちの家に来たことがあるので、慣れた感じで上がり込むと、リビングで我が家のアイドルハスキーのロウと戯れ始めた。
凜から少し遅れて、音央ちゃん、愛架ちゃんも二人いっしょにやってきた。
ロウはものすごく人懐っこいので、大勢に囲まれても嫌がるどころかむしろはしゃぎ放題って感じでしっぽをふりふり。
それに気をとられるみんなとは裏腹に、私はなんの音もならないインターフォンをぼんやり見つめる。
(・・・瀬名くん、遅いな・・・)
まだ集合時間になったばかりだから遅刻ってほどではないのだが、普段瀬名くんは女の子との約束なら30分前には着いているようなタイプなので、余計不安になる。
やっぱり今日誘ったのは迷惑だっただろうか。
誘った日は気をつかっていただけで、本当は来たくなかったのだろうか。
そう不安に駆られた瞬間、ようやくインターフォンが来客を告げた。
私は急いで玄関を開ける。
「・・・えっと・・・、遅くなってごめん・・・」
少し気まずそうに瀬名くんがそう言って、視線をそらした。
「ううん、まだ5分も過ぎてないし大丈夫だよ」
そう答えてから、ふと瀬名くんのコートに雪がうっすら積もっていることに気が付く。
「・・・歩いてきたの?」
「え・・・、いや、バスで来たけど・・・なんで?」
「だって・・・」
私は瀬名くんの肩のあたりを指さす。
瀬名くんも自分の肩に雪が積もっていることに気づいたのか、あわてて払った。
「あー・・・、えっと・・・、・・・バス停からここ来るまでに一瞬雪強くなったから・・・」
「そっか」
見た感じ今はちらちらとしか振っていないけど、雪ってすぐ強くなったり弱くなったりするし、瀬名くんもタイミングが悪かったのかもしれない。
「にしても寒そうだね、顔赤いよ。あがってあがって、中あっためてあるから」
「・・・ん、ありがと・・・」
瀬名くんも来たので、さっそくクリスマスパーティーを始めることになった。
「みんな飲み物もってるねー?じゃー行きまーす!かんぱーい!!」
凜の音頭でグラスのぶつかり合う軽やかな音が響き、それを合図にクリスマスパーティーが始まった。
「あかりー、あたしの分のチキンとってーっ!」
「味ふたつあるけどどっちにする?あ、愛架ちゃんもほしい?」
「うん。あたし辛いのがいい」
「涼我ピザわけんの下手っ!!」
「えぇ・・・そんなこと言うなら音央ちゃんがやってよ・・・」
みんな楽しく食事を進め、ピザもチキンもカルパッチョもサラダもどんどん消えていく。
「凜、いつものことだけど食べすぎ」
「ほんはほほはいお」
「飲み込んでからしゃべりなさい・・・・」
凜は口の中のものを咀嚼し、飲み込んでからもう一度、そんなことないよ、と言い直した。
そしてすぐにまたチキンを口いっぱいに頬張る。
「そんなことあるじゃん・・・、まあ残すよりはいいけどさ」
そう呆れて話しながら、ふと私の向かいに座る瀬名くんに視線をやる。
「・・・・瀬名くん」
「ん?」
「・・・今日、やっぱあんまり、誘わないほうがよかった・・・かな?」
瀬名くんは一瞬面食らった表情をして、質問を返してきた。
「え、なんで?」
「だって・・・あんまり食べてないし・・・乗り気になれなかったのかも、って・・・」
「ああ・・・これはちょっと、ごめん、今日あんまりお腹空いてなくてさ。でも誘ってくれたのは全然嫌じゃない・・・っていうかむしろ嬉しいから。気にしないでよ」
「そう・・・?」
お腹が空いていないだけならいいけど・・・。
普段瀬名くんはがつがつ食べるってほどではないけれど、並みの高校生男子くらいの食事量は普通に食べている。
その割に今日は凜どころか、私くらいの量しかまだ食べていない様子だったので気にかかっていたのだ。
(気をつかってくれてるだけで・・・ほんとは乗り気じゃない、とか、そういうのではないよね・・・?)
一抹の不安を覚えつつ、クリスマスパーティーは盛り上がったまま進んでいく。
ある程度料理を食べ終えたところで、ケーキ作りをすることになった。
「えーっと・・・60g?フィーリングで大丈夫かぁ!」
「こらこらこら!!」
はかりもせず小麦粉を投入しようとする凜を、慌てて愛架ちゃんが止める。
「料理と違ってお菓子作りは結構分量命なんだから。めんどくさがらずにはかって」
「えー・・・はぁい・・・」
私が台所の戸棚に眠るはかりを持ってくると、凜はしぶしぶ小麦粉をはかりにかける。
「・・・・んーっと、60gだから・・・」
「ちょ、まずお皿の重さ差し引いてから!」
凜は料理なんて基本しないタイプだけど、愛架ちゃんという補助がいれば少なくとも食べられないものにはならないだろう。
私はそう無事を確信してから、リビングに戻る。
リビングでは瀬名くんが一人食事の後片付けをしてくれていた。
「わ、ごめん瀬名くん、任せきりになっちゃってて・・・!」
「ううん、俺ケーキ作りとかしたことないし、キッチンいてもたぶん役に立たないから」
私も瀬名くんを手伝い、机の上に残されたお皿を重ねだす。
「それは心配しなくていいけどね。凜も料理はからきしだから」
「あはは、そうなんだ」
「でもそのくせ張り切ってケーキ作りを主導しようとするところがまたねぇ・・・」
私の話を聞きながら、瀬名くんは控えめに笑い声をたてた。
瀬名くんは重ねたお皿を持ち上げる。
「・・・じゃ、これ洗ってくる」
「あ、うん。ありがと・・・」
瀬名くんがリビングを出てキッチンに向かったのをしり目に、私は小さくため息をついた。
(やっぱりちょっと気まずそう、だよね・・・瀬名くん・・・)
そんなことを思いつつ机を拭いていると、すぐに瀬名くんが戻ってきた。
「あれっ?どうしたの?」
「あー・・・、音央ちゃんから、食器洗いはやっておくからあかりちゃんの手伝いしろって言われちゃって・・・」
「あっ、そ・・・っか・・・」
音央ちゃんなりに二人きりにしてしてやろうという気をつかってのことだろうけど・・・、この状況じゃ何を話せばいいのかわからない・・・。
「・・・じゃ、じゃあ!私ごみまとめてるから瀬名くんは机拭くのお願いっ!」
「ん、わかった」
除菌タオルを渡して、私はパーティーで出たごみを集めにかかる。
「・・・・」
「・・・・」
お互い無言で黙々と作業する時間が一瞬流れ・・・。
何か話を振らねばと焦りつつも何も浮かばずただ口をぱくぱくさせていた私に、瀬名くんが話を振ってきた。
「・・・ずっと、答え保留にしてて、ごめん」
「!」
驚いて思わず瀬名くんを見たけれど、瀬名くんはうつむいていて、その表情は見えなかった。
でも瀬名くんの手が、除菌タオルを強く握りしめたのが目に入る。
「・・・ううん、気にしてないよ」
「・・・・」
「瀬名くんが悩んで悩んでこの期間を過ごしてくれてること、痛いほど伝わってるから。むしろこれだけ真剣に向き合ってるんだから、感謝したいくらい」
「・・・うん・・・、ごめん・・・・」
「だから謝らないでってば」
私は笑って見せたけど、やっぱり瀬名くんはまだどこか浮かない表情をしていて。
そんな彼の表情が気にかかって、思わず言いつのろうとしたが、そこでキッチンから凜が入ってきた。
「あかりー!下準備できた!オーブン使っていい?」
「あっ!うん!使い方わかる?」
「うーん・・・わからん!!」
「あはは・・・だと思ったよ・・・」
私はもう一度ちらりと瀬名くんに視線をやったけど、瀬名くんはもう何事もなかったかのように机を拭きにかかっていた。

