クリスマスを間近に控え、私たちは冬休みに突入した。
今年のうちの学校の冬休みは、12月23日から。
冬休みに入るころには町はクリスマスモード一色になっていて、赤と緑のイルミネーションやら大きなツリーやらが町を華やげていた。
私が今いる服屋も例外ではなく、楽しそうなクリスマスソングが絶え間なく流れている。
「んー・・・、ちょっとこれは・・・狙いすぎ感が・・・」
私は試着室を出るなり、そうこぼした。
「いやもうそのくらいでいいんだって!あかりは性格が消極的な分、服ぐらい積極的じゃなくてどうすんの!」
試着室の前で私を待ち構えていた音央ちゃんはそう言い放って、別の服を私に押し付けてきた。
「はい、こっちも試着して!」
「は、はぁい・・・・」
その圧に押されるまま、私はまた試着室のカーテンを閉めた。
(・・・これもまた・・・ふりふりすぎるっていうか・・・・)
着こなせるか不安になるほどのかわいらしいお洋服に若干戸惑いつつ、言われた通り試着する。
「き、着たよ・・・?」
「うーん、さっきののほうが良かったかなぁ・・・でも一番最初に着たやつもよさげだったよねー」
私を上から下まで眺めまわしつつ、音央ちゃんが悩み顔を作る。
「・・・・っていうか音央ちゃん・・・、さっきも言ったけど・・・さ、ね、狙いすぎ、っていうか・・・なんていうか・・・・」
「この程度、狙いすぎの内に入んないよ!涼我の周りにはもっとぶっりぶりだったり露出まみれの女がはびこってんだからね!」
「そ、そうは言っても・・・・」
普段シンプルで清楚な雰囲気の洋服を好んで着ている身としては、どうしてもかわいらしい服を着ることに恥ずかしさ、というか抵抗感のようなものを感じてしまう。
見る分には素敵だと思うけど、自分が着るのはちょっとハードルが高い、みたいな・・・。
「せっかく涼我との遊ぶんだから!こういう時に普段見せられない私服でアタックしなくてどうすんの!」
「うっ・・・・」
そう、今日は冬休みに入って一日目、12月23日。
明日のクリスマスイブ、勉強会のメンバーでクリスマスパーティーを開くことになった。
今回は瀬名くんのおうちではなく我が九鬼家で開催予定。
それが決まった瞬間、音央ちゃんから個人チャットでショッピングのお誘いがきたのである。
「やっぱさ、招かれる側は普通の私服を着るしかないけどさ、招く側ってずっとおうちにいるわけだし、ちょっとラフな家着とかそういうのを見せられるチャンスなわけじゃない?それを逃すなんてありえないから!」
音央ちゃんはなぜか私以上に張り切って私の家着を選別してくれた。
結局小一時間ほどかけ、薄手な生地の白ワンピースに、もこもこ素材のパーカーを重ね着することに決定した。
会計を済ませ店を出る。
店内のクリスマスソングが聞こえなくなると同時に、クリスマスカラーの街並みに包まれる。
「・・・今日は買い物付き合ってくれてありがとう、音央ちゃん」
「どういたしましてだけど、誘ったの私だしあかりがお礼言うことないよ。やりたくてやってるからさ」
そう言って音央ちゃんはにこっと笑った。
「・・・・ねぇ」
私はその笑顔を見て、今日一日、いやあのダブルデートの日からずっと聞きたかったことを口に出した。
「・・・答えたくなかったらいいんだけど・・・・、その、どうしてこんなに音央ちゃんは私のこと、後押ししてくれるの・・・?音央ちゃんだって瀬名くんのこと・・・」
「それはあかりだってそうでしょ?あかりだってほんとは涼我のこと気になってたのに、私の応援してくれてたでしょ?」
「でもそれは・・・」
それとこれとは話が違う・・・気がする。
私の場合、自分の恋心にまだはっきり気づいてなかったって言うのもあるし、気づいていたとしても「私も瀬名くんのことが好き」って言いだせるほど私はまっすぐな性格じゃないから。
納得しきれない私を見て、音央ちゃんは小さくうつむいた。
「・・・ほんとのこと言うとね、そりゃ複雑な気持ちがないわけじゃないよ。こうやってあかりと二人きりのときは純粋にちゃんと後押しできてるけど、涼我とあかりがいっしょにいるの見たら、やっぱりちょっと辛いし」
「・・・うん」
でもじゃあ、なおさらどうして?
複雑な気持ちがあるなら、辛い気持ちがあるなら、どうして私の恋を応援してくれるんだろう。
そんな私の疑問に答えるかのように、音央ちゃんは続ける。
「それなのに私があかりのこと応援してるのは・・・、罪滅ぼし・・・と、自己満足、かな」
「罪滅ぼしと自己満足・・・?」
「私、自分の恋を叶えたい一心で、ズルいこと、いっぱいしちゃった。今は、あかりにも涼我にも申し訳ない気持ちでいっぱい・・・、せめて私なりに・・・その罪滅ぼしがしたくて・・・」
それが、罪滅ぼし。
「それと、自己満足だけど、もう一つは涼我のため。涼我が心を開ける相手が、一人でも二人でも増えてほしいから。私がそうなれたら最高にうれしかったけどさ、私じゃ力不足だったみたい。でもあかりなら・・・涼我の特別な存在になれる気がする。もしそれがかなって、涼我が幸せになれたら・・・私も幸せ」
それが、自己満足。
好きな人の幸せを願うって・・・それって当たり前のようでいて、苦しいほど難しいことだ。
音央ちゃんの言葉は優しさに満ちていて、私は言葉に詰まった。
「・・・私、音央ちゃんにそんな風に言ってもらえるほどの人じゃないよ・・・・、瀬名くんのこと、何も知らないし、瀬名くんと知り合ってまだ一年にも満たないし・・・、瀬名くんが心を許せるほどの存在に、なれる自信なんかない・・・」
「そんなことない!」
音央ちゃんはまっすぐに私を見つめる。
「あかりのよさは友達として私もよくわかってる。そんできっとそれは涼我にだって伝わってる。涼我、あかりと話すときすごく楽しそうだもん・・・、こっちが妬けちゃうぐらいね。告白だって、涼我は誰の告白も受けないってことで中学から有名だったんだよ?それなのにあかりの告白は保留にしてるってことは、きっと踏ん切りがつかないだけであかりの告白を受け入れたいって、ほんとはそう思ってるからだよ」
音央ちゃんはそう言って私を励ましてくれるけど・・・。
私はやっぱり自信なんてもてそうにもなかった。
音央ちゃんと同じように、私も友達として音央ちゃんのよさをわかっている。
まっすぐで、正直で、瀬名くんをことを心から大切に想っていて・・・。
そんな音央ちゃんですら力不足だっていうのなら・・・私じゃきっと・・・。
「・・・音央ちゃんはさ、瀬名くんの過去のこと、知ってるの?」
心を開ける相手が、一人でも二人でも増えること。
それが瀬名くんの幸せ。
そんな風に言うからにはきっと、音央ちゃんも瀬名くんの過去を知っているのだろう。
「・・・うん、前に涼我から教えてもらった。そう聞いてくるってことは、あかりも知ってるんだよね・・・?」
「知ってる。・・・けど、瀬名くんから聞いたわけじゃなくて・・・・、チカラさんから聞いたの」
私は思わず唇を噛んだ。
「・・・瀬名くんからは、何も聞いてない」
「・・・・」
「・・・きっと瀬名くんにとって私は・・・、まだ信頼できるほどの存在じゃないんだよ・・・、本人の口から過去のことを聞いた音央ちゃんのほうが、よっぽど信頼されてる・・・」
こんなこと言われたって、音央ちゃんはきっと困るだろうけれど、私は思わずそんなことをこぼしてしまった。
告白したあの日から、一日また一日と、時間がたつほど不安になる。
早く答えを知りたい、早くこのもやもやから解放されたいって気持ちと、振られるくらいならいっそこのままでって気持ちと。
自分の中でいろんな思いが生まれて、ぐちゃぐちゃな心はもうどうしようもなくなってしまいそうだった。
「・・・私の場合はさ、涼我と出会ったとき、居場所がなくて悩んでたときだったの。涼我は私のこと励ますために、自分もそうだよって伝えるために、自分の過去の話をしてくれたんだ」
音央ちゃんが私の手を握った。
「あかりが今不安な気持ちなのはよくわかってる。自信なくす気持ちもわかる。でもあかりが思ってる以上に、涼我はあかりのこと特別に感じてると思う」
「・・・そう、なのかな・・・」
「絶対そう。私を誰だと思ってんの、涼我に恋して三年目の女だからね?」
音央ちゃんは朗らかに笑って、私の手をもう一度強く握った。
「あかりなら大丈夫!」
「・・・・うん・・・・、ありがとう、音央ちゃん」
私たちはにぎやかな街の中、二人で静かに笑い合った。
今年のうちの学校の冬休みは、12月23日から。
冬休みに入るころには町はクリスマスモード一色になっていて、赤と緑のイルミネーションやら大きなツリーやらが町を華やげていた。
私が今いる服屋も例外ではなく、楽しそうなクリスマスソングが絶え間なく流れている。
「んー・・・、ちょっとこれは・・・狙いすぎ感が・・・」
私は試着室を出るなり、そうこぼした。
「いやもうそのくらいでいいんだって!あかりは性格が消極的な分、服ぐらい積極的じゃなくてどうすんの!」
試着室の前で私を待ち構えていた音央ちゃんはそう言い放って、別の服を私に押し付けてきた。
「はい、こっちも試着して!」
「は、はぁい・・・・」
その圧に押されるまま、私はまた試着室のカーテンを閉めた。
(・・・これもまた・・・ふりふりすぎるっていうか・・・・)
着こなせるか不安になるほどのかわいらしいお洋服に若干戸惑いつつ、言われた通り試着する。
「き、着たよ・・・?」
「うーん、さっきののほうが良かったかなぁ・・・でも一番最初に着たやつもよさげだったよねー」
私を上から下まで眺めまわしつつ、音央ちゃんが悩み顔を作る。
「・・・・っていうか音央ちゃん・・・、さっきも言ったけど・・・さ、ね、狙いすぎ、っていうか・・・なんていうか・・・・」
「この程度、狙いすぎの内に入んないよ!涼我の周りにはもっとぶっりぶりだったり露出まみれの女がはびこってんだからね!」
「そ、そうは言っても・・・・」
普段シンプルで清楚な雰囲気の洋服を好んで着ている身としては、どうしてもかわいらしい服を着ることに恥ずかしさ、というか抵抗感のようなものを感じてしまう。
見る分には素敵だと思うけど、自分が着るのはちょっとハードルが高い、みたいな・・・。
「せっかく涼我との遊ぶんだから!こういう時に普段見せられない私服でアタックしなくてどうすんの!」
「うっ・・・・」
そう、今日は冬休みに入って一日目、12月23日。
明日のクリスマスイブ、勉強会のメンバーでクリスマスパーティーを開くことになった。
今回は瀬名くんのおうちではなく我が九鬼家で開催予定。
それが決まった瞬間、音央ちゃんから個人チャットでショッピングのお誘いがきたのである。
「やっぱさ、招かれる側は普通の私服を着るしかないけどさ、招く側ってずっとおうちにいるわけだし、ちょっとラフな家着とかそういうのを見せられるチャンスなわけじゃない?それを逃すなんてありえないから!」
音央ちゃんはなぜか私以上に張り切って私の家着を選別してくれた。
結局小一時間ほどかけ、薄手な生地の白ワンピースに、もこもこ素材のパーカーを重ね着することに決定した。
会計を済ませ店を出る。
店内のクリスマスソングが聞こえなくなると同時に、クリスマスカラーの街並みに包まれる。
「・・・今日は買い物付き合ってくれてありがとう、音央ちゃん」
「どういたしましてだけど、誘ったの私だしあかりがお礼言うことないよ。やりたくてやってるからさ」
そう言って音央ちゃんはにこっと笑った。
「・・・・ねぇ」
私はその笑顔を見て、今日一日、いやあのダブルデートの日からずっと聞きたかったことを口に出した。
「・・・答えたくなかったらいいんだけど・・・・、その、どうしてこんなに音央ちゃんは私のこと、後押ししてくれるの・・・?音央ちゃんだって瀬名くんのこと・・・」
「それはあかりだってそうでしょ?あかりだってほんとは涼我のこと気になってたのに、私の応援してくれてたでしょ?」
「でもそれは・・・」
それとこれとは話が違う・・・気がする。
私の場合、自分の恋心にまだはっきり気づいてなかったって言うのもあるし、気づいていたとしても「私も瀬名くんのことが好き」って言いだせるほど私はまっすぐな性格じゃないから。
納得しきれない私を見て、音央ちゃんは小さくうつむいた。
「・・・ほんとのこと言うとね、そりゃ複雑な気持ちがないわけじゃないよ。こうやってあかりと二人きりのときは純粋にちゃんと後押しできてるけど、涼我とあかりがいっしょにいるの見たら、やっぱりちょっと辛いし」
「・・・うん」
でもじゃあ、なおさらどうして?
複雑な気持ちがあるなら、辛い気持ちがあるなら、どうして私の恋を応援してくれるんだろう。
そんな私の疑問に答えるかのように、音央ちゃんは続ける。
「それなのに私があかりのこと応援してるのは・・・、罪滅ぼし・・・と、自己満足、かな」
「罪滅ぼしと自己満足・・・?」
「私、自分の恋を叶えたい一心で、ズルいこと、いっぱいしちゃった。今は、あかりにも涼我にも申し訳ない気持ちでいっぱい・・・、せめて私なりに・・・その罪滅ぼしがしたくて・・・」
それが、罪滅ぼし。
「それと、自己満足だけど、もう一つは涼我のため。涼我が心を開ける相手が、一人でも二人でも増えてほしいから。私がそうなれたら最高にうれしかったけどさ、私じゃ力不足だったみたい。でもあかりなら・・・涼我の特別な存在になれる気がする。もしそれがかなって、涼我が幸せになれたら・・・私も幸せ」
それが、自己満足。
好きな人の幸せを願うって・・・それって当たり前のようでいて、苦しいほど難しいことだ。
音央ちゃんの言葉は優しさに満ちていて、私は言葉に詰まった。
「・・・私、音央ちゃんにそんな風に言ってもらえるほどの人じゃないよ・・・・、瀬名くんのこと、何も知らないし、瀬名くんと知り合ってまだ一年にも満たないし・・・、瀬名くんが心を許せるほどの存在に、なれる自信なんかない・・・」
「そんなことない!」
音央ちゃんはまっすぐに私を見つめる。
「あかりのよさは友達として私もよくわかってる。そんできっとそれは涼我にだって伝わってる。涼我、あかりと話すときすごく楽しそうだもん・・・、こっちが妬けちゃうぐらいね。告白だって、涼我は誰の告白も受けないってことで中学から有名だったんだよ?それなのにあかりの告白は保留にしてるってことは、きっと踏ん切りがつかないだけであかりの告白を受け入れたいって、ほんとはそう思ってるからだよ」
音央ちゃんはそう言って私を励ましてくれるけど・・・。
私はやっぱり自信なんてもてそうにもなかった。
音央ちゃんと同じように、私も友達として音央ちゃんのよさをわかっている。
まっすぐで、正直で、瀬名くんをことを心から大切に想っていて・・・。
そんな音央ちゃんですら力不足だっていうのなら・・・私じゃきっと・・・。
「・・・音央ちゃんはさ、瀬名くんの過去のこと、知ってるの?」
心を開ける相手が、一人でも二人でも増えること。
それが瀬名くんの幸せ。
そんな風に言うからにはきっと、音央ちゃんも瀬名くんの過去を知っているのだろう。
「・・・うん、前に涼我から教えてもらった。そう聞いてくるってことは、あかりも知ってるんだよね・・・?」
「知ってる。・・・けど、瀬名くんから聞いたわけじゃなくて・・・・、チカラさんから聞いたの」
私は思わず唇を噛んだ。
「・・・瀬名くんからは、何も聞いてない」
「・・・・」
「・・・きっと瀬名くんにとって私は・・・、まだ信頼できるほどの存在じゃないんだよ・・・、本人の口から過去のことを聞いた音央ちゃんのほうが、よっぽど信頼されてる・・・」
こんなこと言われたって、音央ちゃんはきっと困るだろうけれど、私は思わずそんなことをこぼしてしまった。
告白したあの日から、一日また一日と、時間がたつほど不安になる。
早く答えを知りたい、早くこのもやもやから解放されたいって気持ちと、振られるくらいならいっそこのままでって気持ちと。
自分の中でいろんな思いが生まれて、ぐちゃぐちゃな心はもうどうしようもなくなってしまいそうだった。
「・・・私の場合はさ、涼我と出会ったとき、居場所がなくて悩んでたときだったの。涼我は私のこと励ますために、自分もそうだよって伝えるために、自分の過去の話をしてくれたんだ」
音央ちゃんが私の手を握った。
「あかりが今不安な気持ちなのはよくわかってる。自信なくす気持ちもわかる。でもあかりが思ってる以上に、涼我はあかりのこと特別に感じてると思う」
「・・・そう、なのかな・・・」
「絶対そう。私を誰だと思ってんの、涼我に恋して三年目の女だからね?」
音央ちゃんは朗らかに笑って、私の手をもう一度強く握った。
「あかりなら大丈夫!」
「・・・・うん・・・・、ありがとう、音央ちゃん」
私たちはにぎやかな街の中、二人で静かに笑い合った。

