瀬名くんとの月曜日を二、三回過ごしたころ。
 季節は夏真っ盛り。

 太陽光に弱い私にとっては、絶望的な頃合い。


「あかり~大丈夫か~?生きてるか~?」


 うだるような暑さで、自分もぐったりしながら下敷きをうちわ代わりにする凜が、そう聞いてきた。


「・・・・もうだめ・・・、日陰にいてもなお・・・・この暑さ・・・・」

「早く教室涼しくなってくれー・・・・」


 つい最近やっとエアコンの使用許可がおりたのだが、今は移動教室から戻ったばかりでエアコンが効いておらず、教室がまるでサウナ。


「うわー、あかりちゃんも凜ちゃんもぐったりしてるねー」


 隣の席に女の子と話しながら瀬名くんが戻ってきた。
 なぜかこの暑さでも余裕そうだ。


「逆になんでそんなに瀬名くんは元気そうなの・・・・?」

「俺さっきまで隣のクラスで涼んでたからさー。二組めちゃくちゃ冷えてたよ」

「二組の担任って・・・・ああ、山本先生か」

「そ、山さんめっちゃ暑がりだからエアコンの設定温度勝手にいじってるんだって」

「それありなの?」

「いやほんとはなし」

「だめじゃん」


 思わず笑うと、凜が驚いたように私と瀬名くんを交互に見つめる。


「あかりと瀬名くんっていつの間にそんなに仲良くなったの?」

「・・・・まあ、隣の席だから。話す機会多くて自然と・・・・ね?」


 私がそういって瀬名くんの方を向くと、同調して瀬名くんもうんうんうなずく。


「瀬名くんは絶対あかりとは合わなそうって思ってたけどそうでもなかったんだー」

「いやむしろ話してみるとめっちゃおもしろいことがわかった。俺とあかりちゃんはめちゃくちゃ合う」

「そうなんだよね!あかりは人見知りだけどおしゃべりは下手じゃないんだよ!私も常日頃そう思ってた!」

「いやほんとそれ。もっと早くに仲良くなってればよかったってくらい」

「でしょでしょ!うわ、瀬名くん見る目ある~!」


 なぜか私のギャップをテーマにそんなに盛り上がれるのかはわからないけど、仲良くなった経緯を深ぼりされなくてよかった。
 吸血に関しては私と瀬名くんの秘密、だから。

 瀬名くんと凜はひとしきり意気投合したのか、瀬名くんは満足そうに他の子との会話に戻っていった。


「いやー、まさかあかりと瀬名くんが仲良くなれるとはねぇ・・・。驚きすぎて暑さ忘れたわー」

「エアコンが効いてきただけじゃないかな・・・・」

「あ、ていうかだったら瀬名くんも誘って夏休み遊ばない?」


 凜、夏休みって気が早いよ・・・、とつっこみかけたけど、案外そうでもない。

 あとまた二、三回月曜日を過ごせば夏休みだ。

 夏休みって気がつけば目前なのに気が付けば終わってる気がする。
 通り雨みたいな存在だ。


「私はいいけど・・・なんで急に?」

「だってあかり今まで私以外と休みの日に遊んだりしてないでしょ?まあ普通に日中出歩くのが嫌だってだけかもしれないけど」

「う、まあそうだね・・・・」

「だからまあ、せっかく瀬名くんと仲良くなれたんだし遊んだほうがいいかなって。あかりからは絶対誘わなさそうだし」

「う、まあそうだね・・・・」


 いろいろと図星をついてくる。
 さすが長い付き合いなだけある。


「じゃああかりから誘っといてよ、隣なんだし誘う機会くらいあるでしょ?」

「え、言い出しっぺの凜が誘うんじゃないの?」

「あかりのために瀬名くんを入れるんだから誘うとこもあかりがやるべきだと思わない?」

「・・・・・うーん・・・、まあ一理ある・・・」


 若干納得しかけたところで、じゃあよろしく、とだけ言い残して自分の席に戻っていく凜。

 普段はチャイムギリギリまで席につかないタイプなのにこういう時は早いのが天野 凜という人間である・・・。


(隣の席なんだし誘う機会くらいあるでしょ、かー・・・)


 隣の席だし、最近仲がいいとはいえ、瀬名くんはたいてい誰かと話している。そしてその八割が女子。
 そこで割って入るなんてとてもできないし、そうでなくても教室で瀬名くんを誘うなんてハードルが高すぎる。女の子に人気な彼を遊びに誘ったことが誰かの耳に入ると厄介な気がするから。


(人がいないとこで誘うってなるとやっぱり――――――)