「これも!あとこれも食べてくださいチカラさん」
「わかったわかったわかった!ちょ、一旦待ってくれ」
私とチカラさんは非常階段の前でお昼ご飯を食べていた。
「ホタテの缶詰とレバーはたべましたね?他にもほうれん草も三品あって・・・」
「気づかいはうれしいがそんなに食べられない・・・」
「大丈夫です、私の分も含んでますから!」
チカラさんが貧血にならないよう、また私が血を飲みすぎないよう、鉄分摂取弁当を持ってきた。
「俺は普段の健康診断でも、貧血のひの字もないくらい健康体だから心配するな」
「でも・・・」
「もちろんせっかく持ってきてくれたわけだから頂くよ。ただまあ昼とはいえ、人が来ないとも限らない。先に吸血を済ませよう」
「・・・・わ、わかりました・・・」
こうやって面と向かって瀬名くん以外の人の吸血をするのは初めてだ。
勉強会の日に、切羽詰まってチカラさんの血を飲んでしまったけど、あの時はもう理性とかそんなのは残されていなかったし。
いざ面と向かって吸血をするとなると、ものすごく緊張する・・・。
「・・・緊張しているみたいだな」
「そっ・・・そりゃあ・・・」
「ふ、俺が緊張するのはわかるけど、九鬼さんは慣れたもんだろう?」
「あ、相手が変われば勝手が違いますから・・・っ!」
チカラさんに、どうしていればいいか聞かれたので、そのまま座っておくように言った。
「・・・じゃあ、あの・・・、行きますね?」
「ああ」
私は意を決してチカラさんに近づいた。
吐息がかかるほどの距離に、チカラさんがいる。
そう思うだけで異様に緊張した。
(さっとやって、さっと治して、さっと離れる・・・!)
そう自分に言いつけた後、私はチカラさんの首筋に唇をよせ・・・・。
「―――――ちょっと待った!!」
私のものでも、チカラさんのものでもない声が聞こえ、私は頭が真っ白になってそっちを向いた。
そして声の主を見つけ、驚愕で固まる。
「・・・せ、瀬名くん・・・?」
声の主は瀬名くんだった。
私とチカラさんは思わぬ第三者の登場で固まる。
くっついた状態のまま。
「・・・凜ちゃんに」
瀬名くんが話し始めた。
その表情はなんだか・・・不機嫌そう・・・?
「わがまま言って来いって言われたからとりあえず思ってること言う」
「・・・はい?」
どういうこと?と聞き返そうとしたら、突然瀬名くんがずんずんと近づいてきた。
戸惑う私とチカラさんをにらみつけると、ばりっと二人を引きはがした。
「きょーちゃんとあかりちゃんがくっついてんの嫌」
「・・・・はぁ」
「あかりちゃんが俺に頼ってくんないの嫌」
「・・・えっと・・・?」
「俺のこと苗字で呼ぶくせにきょーちゃんのこと名前で呼ぶの嫌」
「・・・・え、えぇ・・・?」
「凜ちゃんの弟とデートすんの嫌」
「きゅっ・・・急に話とぶじゃん・・・!」
「凜ちゃんの弟のこと名前で呼ぶのも嫌」
「・・・・えぇ・・」
瀬名くんは私の腕をつかんだ。
そして少し強引に自分のほうを向かせる。
「俺以外の奴から血、もらうの嫌」
「・・・!」
瀬名くんの瞳の中に、私が映り込む。
「俺だけを見ててほしいし、俺だけを頼ってほしいし、俺のことで頭いっぱいにしてほしい」
「な、え、何急に・・・」
「わがまま言いに来た」
「ど、どゆこと・・・っ!?」
俺だけを見ててほしいし、俺だけを頼ってほしいし、俺のことで頭いっぱいにしてほしい・・・って、そんなの・・・。
まるで、告白みたいじゃん・・・。
だいたい今日のついさっきまで目を合わせてすら来なかったのに。
「わ、私と話したくないんじゃなかった・・・の?」
「そんなわけないし。ていうかむしろあかりちゃんがもう俺の顔も見たくないのかと思って・・・」
「そっ、それこそそんなわけない!」
「俺のこと嫌いになったのかと思ってた。自分勝手なことばっか言っちゃったし」
「わ、私のほうが・・・一方的に押し付けるばっかで・・・」
「・・・ほんとは、ずっと仲直りしたかったし・・・ずっと離れたくなかった」
「!」
なんで?
その言葉、全部、そっくりそのまま私と同じ。
私はもううれしさからなのか戸惑いからなのかわからないけど、涙があふれた。
「・・・っそ、んなのっ、わっ、わたしも・・・っ!」
泣きながらしゃべる私を見て、瀬名くんはふっと笑った。
「・・・なんだ、俺ら全部同じ気持ちだったってこと?」
瀬名くんは私の頭を、壊れ物にさわるように優しくなでた。
そして、ためらいがちに私を抱きしめた。
「・・・俺、あかりちゃんのそばにいたいです」
「・・・っうん・・・わた、わたし、も・・・っ」
「あかりちゃんが嫌だって言っても、毎日挨拶するし、話しかけるし、そばにいる。だから・・・」
瀬名くんが抱きしめていた腕を緩め、私の顔を覗き込んだ。
「覚悟、しててね?」
「・・・・っ!」
私の顔が、熱くなっていくのを感じる。
「・・・・はいはい、これ以上俺の前でいちゃついてくれるな」
チカラさんの一言で、我に返る。
そして慌てて瀬名くんを突き飛ばした。
「うぉっ!ちょ、俺の扱いが雑!」
「も、文句言わないで!」
またも掛け合う私たちに、チカラさんは苦笑した。
「・・・・涼我がさ、俺以外にそんなわがまま言ってんの初めて見たよ」
「!」
「・・・俺、ことごとく間違ってたな」
チカラさんはふーっと息を吐きだすと、私たちに向かって頭を下げた。
「余計なことした。すまない」
そして頭を上げ、私たちを交互にみつめる。
「普段本音を言えない涼我が、こんだけわがまま言える存在って、貴重だし、手放しちゃいけないと思う。正直また倒れることになるかもっていう不安もあるけど・・・・、それでも、それだけのために二人の関係を否定できないほど、二人はお互いにとって必要な存在だって感じたよ」
「・・・!」
「いろいろ口をはさんでしまって悪かったが・・・」
チカラさんは、真剣な表情で私を見つめた。
「これからは、涼我のことを頼む」
「・・・・!あ、は・・・はい・・・」
「ただし・・・くれぐれも、体に負担はかけないでやってくれ」
「そ、それはもちろんです!」
全力でそう答えると、チカラさんは満足そうに一つ頷き、今度は瀬名くんのほうを向いた。
「涼我、お前はわがままの言い過ぎで九鬼さんを困らせないこと」
「・・・・」
「おい、返事は」
「・・・はぁい・・・・」
普段の教室では見せない子供じみた態度に、思わず笑ってしまった。
思えば、瀬名くんの前で笑ったのはものすごく久しぶりだった。
こうして、私と瀬名くんの長々と続いた喧嘩が、幕を閉じたのだった。
「わかったわかったわかった!ちょ、一旦待ってくれ」
私とチカラさんは非常階段の前でお昼ご飯を食べていた。
「ホタテの缶詰とレバーはたべましたね?他にもほうれん草も三品あって・・・」
「気づかいはうれしいがそんなに食べられない・・・」
「大丈夫です、私の分も含んでますから!」
チカラさんが貧血にならないよう、また私が血を飲みすぎないよう、鉄分摂取弁当を持ってきた。
「俺は普段の健康診断でも、貧血のひの字もないくらい健康体だから心配するな」
「でも・・・」
「もちろんせっかく持ってきてくれたわけだから頂くよ。ただまあ昼とはいえ、人が来ないとも限らない。先に吸血を済ませよう」
「・・・・わ、わかりました・・・」
こうやって面と向かって瀬名くん以外の人の吸血をするのは初めてだ。
勉強会の日に、切羽詰まってチカラさんの血を飲んでしまったけど、あの時はもう理性とかそんなのは残されていなかったし。
いざ面と向かって吸血をするとなると、ものすごく緊張する・・・。
「・・・緊張しているみたいだな」
「そっ・・・そりゃあ・・・」
「ふ、俺が緊張するのはわかるけど、九鬼さんは慣れたもんだろう?」
「あ、相手が変われば勝手が違いますから・・・っ!」
チカラさんに、どうしていればいいか聞かれたので、そのまま座っておくように言った。
「・・・じゃあ、あの・・・、行きますね?」
「ああ」
私は意を決してチカラさんに近づいた。
吐息がかかるほどの距離に、チカラさんがいる。
そう思うだけで異様に緊張した。
(さっとやって、さっと治して、さっと離れる・・・!)
そう自分に言いつけた後、私はチカラさんの首筋に唇をよせ・・・・。
「―――――ちょっと待った!!」
私のものでも、チカラさんのものでもない声が聞こえ、私は頭が真っ白になってそっちを向いた。
そして声の主を見つけ、驚愕で固まる。
「・・・せ、瀬名くん・・・?」
声の主は瀬名くんだった。
私とチカラさんは思わぬ第三者の登場で固まる。
くっついた状態のまま。
「・・・凜ちゃんに」
瀬名くんが話し始めた。
その表情はなんだか・・・不機嫌そう・・・?
「わがまま言って来いって言われたからとりあえず思ってること言う」
「・・・はい?」
どういうこと?と聞き返そうとしたら、突然瀬名くんがずんずんと近づいてきた。
戸惑う私とチカラさんをにらみつけると、ばりっと二人を引きはがした。
「きょーちゃんとあかりちゃんがくっついてんの嫌」
「・・・・はぁ」
「あかりちゃんが俺に頼ってくんないの嫌」
「・・・えっと・・・?」
「俺のこと苗字で呼ぶくせにきょーちゃんのこと名前で呼ぶの嫌」
「・・・・え、えぇ・・・?」
「凜ちゃんの弟とデートすんの嫌」
「きゅっ・・・急に話とぶじゃん・・・!」
「凜ちゃんの弟のこと名前で呼ぶのも嫌」
「・・・・えぇ・・」
瀬名くんは私の腕をつかんだ。
そして少し強引に自分のほうを向かせる。
「俺以外の奴から血、もらうの嫌」
「・・・!」
瀬名くんの瞳の中に、私が映り込む。
「俺だけを見ててほしいし、俺だけを頼ってほしいし、俺のことで頭いっぱいにしてほしい」
「な、え、何急に・・・」
「わがまま言いに来た」
「ど、どゆこと・・・っ!?」
俺だけを見ててほしいし、俺だけを頼ってほしいし、俺のことで頭いっぱいにしてほしい・・・って、そんなの・・・。
まるで、告白みたいじゃん・・・。
だいたい今日のついさっきまで目を合わせてすら来なかったのに。
「わ、私と話したくないんじゃなかった・・・の?」
「そんなわけないし。ていうかむしろあかりちゃんがもう俺の顔も見たくないのかと思って・・・」
「そっ、それこそそんなわけない!」
「俺のこと嫌いになったのかと思ってた。自分勝手なことばっか言っちゃったし」
「わ、私のほうが・・・一方的に押し付けるばっかで・・・」
「・・・ほんとは、ずっと仲直りしたかったし・・・ずっと離れたくなかった」
「!」
なんで?
その言葉、全部、そっくりそのまま私と同じ。
私はもううれしさからなのか戸惑いからなのかわからないけど、涙があふれた。
「・・・っそ、んなのっ、わっ、わたしも・・・っ!」
泣きながらしゃべる私を見て、瀬名くんはふっと笑った。
「・・・なんだ、俺ら全部同じ気持ちだったってこと?」
瀬名くんは私の頭を、壊れ物にさわるように優しくなでた。
そして、ためらいがちに私を抱きしめた。
「・・・俺、あかりちゃんのそばにいたいです」
「・・・っうん・・・わた、わたし、も・・・っ」
「あかりちゃんが嫌だって言っても、毎日挨拶するし、話しかけるし、そばにいる。だから・・・」
瀬名くんが抱きしめていた腕を緩め、私の顔を覗き込んだ。
「覚悟、しててね?」
「・・・・っ!」
私の顔が、熱くなっていくのを感じる。
「・・・・はいはい、これ以上俺の前でいちゃついてくれるな」
チカラさんの一言で、我に返る。
そして慌てて瀬名くんを突き飛ばした。
「うぉっ!ちょ、俺の扱いが雑!」
「も、文句言わないで!」
またも掛け合う私たちに、チカラさんは苦笑した。
「・・・・涼我がさ、俺以外にそんなわがまま言ってんの初めて見たよ」
「!」
「・・・俺、ことごとく間違ってたな」
チカラさんはふーっと息を吐きだすと、私たちに向かって頭を下げた。
「余計なことした。すまない」
そして頭を上げ、私たちを交互にみつめる。
「普段本音を言えない涼我が、こんだけわがまま言える存在って、貴重だし、手放しちゃいけないと思う。正直また倒れることになるかもっていう不安もあるけど・・・・、それでも、それだけのために二人の関係を否定できないほど、二人はお互いにとって必要な存在だって感じたよ」
「・・・!」
「いろいろ口をはさんでしまって悪かったが・・・」
チカラさんは、真剣な表情で私を見つめた。
「これからは、涼我のことを頼む」
「・・・・!あ、は・・・はい・・・」
「ただし・・・くれぐれも、体に負担はかけないでやってくれ」
「そ、それはもちろんです!」
全力でそう答えると、チカラさんは満足そうに一つ頷き、今度は瀬名くんのほうを向いた。
「涼我、お前はわがままの言い過ぎで九鬼さんを困らせないこと」
「・・・・」
「おい、返事は」
「・・・はぁい・・・・」
普段の教室では見せない子供じみた態度に、思わず笑ってしまった。
思えば、瀬名くんの前で笑ったのはものすごく久しぶりだった。
こうして、私と瀬名くんの長々と続いた喧嘩が、幕を閉じたのだった。

