テスト期間は着々と過ぎていき、テストがもう三日に迫ったある日のことだった。
近頃は徐々に寒くなってきて、休憩時間中も教室で過ごす人がほとんどになってきた。
授業の合間も、たいていの人は教室で友達としゃべっているか、自分の席でテスト勉強に追われるか。
私もその日は、自分の席で一人机に向かっていた。
「涼我、藤先生が怒ってたよ」
私の隣に座っていた瀬名くんに向けて、音央ちゃんが話しかけるのが聞こえた。
「え、まじ?なんで?」
「昨日委員会さぼったでしょ?」
「うわっ、バレてんの?」
「そう、今までの集まり全部来なかったのに、昨日だけはなんか顔出してきてさー」
「まじかタイミング悪」
「でも安心して、涼我お腹痛くて帰ったことにしておいていてあげたから。お礼は?」
「あはは、ありがとう音央ちゃん」
私は気にしないように気にしないようにと念じていたけど、そう思えば思うほど二人の会話が耳についた。
私がぎゅっとシャーペンを握りなおしたとき、ちょうどクラスメイトの男子が声をかけてきた。
「九鬼さん、なんか呼ばれてるよ」
「え?」
「なんか三年の・・・名前わかんないけどミスコンとミスターコンどっちも三位だった人。が、なんか九鬼さんいるか、って」
そういってクラスメイトの彼は教室の入り口を指さした。
私がそちらを向いたのに気づき、外にいたチカラさんが会釈をしてきた。
「あっ・・・うん、今行くね。ありがとう!」
教えてくれた子にお礼をいい、私は急いで教室を出た。
「お久しぶりです、チカラさん」
「ああ」
チカラさんと話すのは、勉強会の日以来だった。
「それで・・・どうしたんですか?急に」
「昨日これが、俺の部屋に落ちていて」
そう言って見せてくれたのは、私が勉強会の日につけていたヘアピンだった。
「あっ!これ・・・探してたんです・・・!」
「やっぱり九鬼さんのものだったのか。俺の部屋に入るのなんて親と妹くらいだからな。それ以外でってなるとあの日に九鬼さんが落としたって可能性以外なかったから」
「ありがとうございます・・・!気に入ってたので、なくしたのかと思って結構ショックだったんです」
本当はしっかり探したかったのだが、もしこれで瀬名くんの家に落としていたとしたら回収するのが気まずすぎる。
そう思って探すのはあきらめていたのだが・・・まさかチカラさんの家で落としていたとは。
「そういえばチカラさん、妹さんいるんですね」
「ああ、今小学三年生だ」
「えっ!結構年離れてるんですね・・・!六歳、七歳差くらいですよね」
「そうだな。いやもう、年離れてるとかわいくてな・・・」
「ふふ、チカラさん面倒見よさそうですもんね」
少しそのあと雑談して、そろそろお別れしようかというときに、チカラさんは小さな声で話を振ってきた。
「・・・あの、この前会ったとき・・・、君の頼みはすべて聞くって話した、よな」
「あ・・・、はい」
「何か困りごとがあれば言ってくれ。主に・・・アレに関しては相談する人もいないだろうし・・・」
吸血に関してのことを、チカラさんがほのめかしてきた。
人前なので、直接的に言葉にはしないが。
「・・・大丈夫です、今のところ問題はなさそうですし」
「まあそれならいいんだが・・・学園祭までは週に一回・・・だったわけだろう?それが急になくなるってことは・・・その、この間みたいなことになるかもしれないから」
「・・・そう、ですね・・・」
確かに、瀬名くんとの吸血がなくなってから、もうそろそろ三週間が経とうとしていた。
その間、一度チカラさんの血を飲みはしたが・・・次にいつ吸血衝動が来るのか自分でもわからない。
「・・・でもチカラさんに迷惑はかけられないので。チカラさんは三年生ですし」
今は受験で忙しいはず。
それに来年以降はもう会えない。
そうなると定期的な吸血をお願いするのは無理な話だ。
「・・・それはそうだが・・・急に全く飲まなくなるのはさすがにまずいんじゃないか?一週間に一回から、二週に一回、三週に一回って感じで徐々に減らしていくのが一番いいと思うぞ」
「まあ・・・理想を言えばそうですけど・・・」
「じゃあそうしよう。俺が来年からどうなるかはまだわからないが、とりあえず三月末くらいまでを目安に、少しづつ回数を減らせばいいだろう」
「えっ、ちょ、ほ、本気ですか・・・?」
「もちろん。俺にできることはするって約束しただろう?」
「そ、それはもちろんありがたいですけど・・・」
これ以上チカラさんに迷惑はかけられない。
勉強会の時、ただでさえあんなに迷惑をかけたのに。
「気にするな。この間も言っただろう。罪滅ぼしだ」
「・・・でも」
「こうでもしないと俺の気が晴れない」
だから頼む、となぜかチカラさんにお願いされてしまった。
正直ありがたい話だし、私としては不満なんてない。
チカラさんがこう言ってくれるなら、受け入れてもいいんだろうか。
少なくとも少しづつ回数が減るということは、瀬名くんの時みたいに貧血を起こすってことはそれほど心配ないだろうし・・・、なるべくチカラさんの時間をとらないようチカラさんの空いた時間に私が合わせて・・・。
「・・・わかり・・・ました・・・、じゃあ、あの、お願いします」
私はためらいつつ、チカラさんに頭を下げた。
「わかった。とりあえず詳しい話はまた連絡しよう」
授業開始が近づいたため、チカラさんはそう言って自分の教室に戻っていった。
私の判断は正しかったんだろうか・・・。
今更ながらに悩みながら立ち尽くしていると、次の授業の先生がやってきた。
「はーい、もうそろそろチャイムなるよー席ついてー」
「あっはい・・・!」
私はその声にはっとして、慌てて席に戻った。
近頃は徐々に寒くなってきて、休憩時間中も教室で過ごす人がほとんどになってきた。
授業の合間も、たいていの人は教室で友達としゃべっているか、自分の席でテスト勉強に追われるか。
私もその日は、自分の席で一人机に向かっていた。
「涼我、藤先生が怒ってたよ」
私の隣に座っていた瀬名くんに向けて、音央ちゃんが話しかけるのが聞こえた。
「え、まじ?なんで?」
「昨日委員会さぼったでしょ?」
「うわっ、バレてんの?」
「そう、今までの集まり全部来なかったのに、昨日だけはなんか顔出してきてさー」
「まじかタイミング悪」
「でも安心して、涼我お腹痛くて帰ったことにしておいていてあげたから。お礼は?」
「あはは、ありがとう音央ちゃん」
私は気にしないように気にしないようにと念じていたけど、そう思えば思うほど二人の会話が耳についた。
私がぎゅっとシャーペンを握りなおしたとき、ちょうどクラスメイトの男子が声をかけてきた。
「九鬼さん、なんか呼ばれてるよ」
「え?」
「なんか三年の・・・名前わかんないけどミスコンとミスターコンどっちも三位だった人。が、なんか九鬼さんいるか、って」
そういってクラスメイトの彼は教室の入り口を指さした。
私がそちらを向いたのに気づき、外にいたチカラさんが会釈をしてきた。
「あっ・・・うん、今行くね。ありがとう!」
教えてくれた子にお礼をいい、私は急いで教室を出た。
「お久しぶりです、チカラさん」
「ああ」
チカラさんと話すのは、勉強会の日以来だった。
「それで・・・どうしたんですか?急に」
「昨日これが、俺の部屋に落ちていて」
そう言って見せてくれたのは、私が勉強会の日につけていたヘアピンだった。
「あっ!これ・・・探してたんです・・・!」
「やっぱり九鬼さんのものだったのか。俺の部屋に入るのなんて親と妹くらいだからな。それ以外でってなるとあの日に九鬼さんが落としたって可能性以外なかったから」
「ありがとうございます・・・!気に入ってたので、なくしたのかと思って結構ショックだったんです」
本当はしっかり探したかったのだが、もしこれで瀬名くんの家に落としていたとしたら回収するのが気まずすぎる。
そう思って探すのはあきらめていたのだが・・・まさかチカラさんの家で落としていたとは。
「そういえばチカラさん、妹さんいるんですね」
「ああ、今小学三年生だ」
「えっ!結構年離れてるんですね・・・!六歳、七歳差くらいですよね」
「そうだな。いやもう、年離れてるとかわいくてな・・・」
「ふふ、チカラさん面倒見よさそうですもんね」
少しそのあと雑談して、そろそろお別れしようかというときに、チカラさんは小さな声で話を振ってきた。
「・・・あの、この前会ったとき・・・、君の頼みはすべて聞くって話した、よな」
「あ・・・、はい」
「何か困りごとがあれば言ってくれ。主に・・・アレに関しては相談する人もいないだろうし・・・」
吸血に関してのことを、チカラさんがほのめかしてきた。
人前なので、直接的に言葉にはしないが。
「・・・大丈夫です、今のところ問題はなさそうですし」
「まあそれならいいんだが・・・学園祭までは週に一回・・・だったわけだろう?それが急になくなるってことは・・・その、この間みたいなことになるかもしれないから」
「・・・そう、ですね・・・」
確かに、瀬名くんとの吸血がなくなってから、もうそろそろ三週間が経とうとしていた。
その間、一度チカラさんの血を飲みはしたが・・・次にいつ吸血衝動が来るのか自分でもわからない。
「・・・でもチカラさんに迷惑はかけられないので。チカラさんは三年生ですし」
今は受験で忙しいはず。
それに来年以降はもう会えない。
そうなると定期的な吸血をお願いするのは無理な話だ。
「・・・それはそうだが・・・急に全く飲まなくなるのはさすがにまずいんじゃないか?一週間に一回から、二週に一回、三週に一回って感じで徐々に減らしていくのが一番いいと思うぞ」
「まあ・・・理想を言えばそうですけど・・・」
「じゃあそうしよう。俺が来年からどうなるかはまだわからないが、とりあえず三月末くらいまでを目安に、少しづつ回数を減らせばいいだろう」
「えっ、ちょ、ほ、本気ですか・・・?」
「もちろん。俺にできることはするって約束しただろう?」
「そ、それはもちろんありがたいですけど・・・」
これ以上チカラさんに迷惑はかけられない。
勉強会の時、ただでさえあんなに迷惑をかけたのに。
「気にするな。この間も言っただろう。罪滅ぼしだ」
「・・・でも」
「こうでもしないと俺の気が晴れない」
だから頼む、となぜかチカラさんにお願いされてしまった。
正直ありがたい話だし、私としては不満なんてない。
チカラさんがこう言ってくれるなら、受け入れてもいいんだろうか。
少なくとも少しづつ回数が減るということは、瀬名くんの時みたいに貧血を起こすってことはそれほど心配ないだろうし・・・、なるべくチカラさんの時間をとらないようチカラさんの空いた時間に私が合わせて・・・。
「・・・わかり・・・ました・・・、じゃあ、あの、お願いします」
私はためらいつつ、チカラさんに頭を下げた。
「わかった。とりあえず詳しい話はまた連絡しよう」
授業開始が近づいたため、チカラさんはそう言って自分の教室に戻っていった。
私の判断は正しかったんだろうか・・・。
今更ながらに悩みながら立ち尽くしていると、次の授業の先生がやってきた。
「はーい、もうそろそろチャイムなるよー席ついてー」
「あっはい・・・!」
私はその声にはっとして、慌てて席に戻った。

