それ以降、私と瀬名くんは、何も話さなくなった。
あいさつすらも。
そして、私と瀬名くんが話さなくなって、一週間が過ぎようとしていた。
「お・・・終わんない・・・」
「もー家で進めておかないからでしょー?」
「耳が痛い・・・」
昨日今日と、来週に期末テスト控えようやく部活が休みになった凛と、放課後も教室で勉強しているのだ。
凜は勉強会で半分くらいテスト課題を終わらせていたのだが、その後平日は部活に追われ、結局それ以降ほぼ進めていなかったらしい。
おかげで今ひいひい言いながら宿題を進めている。
「地理A課題多すぎー!園田先生出しすぎー!!」
「まあそれはわかる・・・」
嘆く凜をなだめつつ、私も自分の勉強に取り掛かる。
私は早くから取り掛かっていたし、なにより帰宅部なこともあって課題自体はもう終わっているが、社会と理科はもう一周くらいしておかないと気が済まない。
「・・・凜ちゃん、落ちたよ」
「ん?」
隣から声をかけられた。
横を向くまでもなく、声の主は瀬名くん。
だからこそ私はそちらを向くことなく、黙々をシャーペンを走らせる。
「あー・・・ありがとっ!」
「うん、じゃあまた明日」
「バイバーイ!!」
瀬名くんが立ち去ったあと、凜は私のほうに向きなおる。
「これあたしに渡されたけど・・・たぶんあかりの、だよね?」
凜の手にあったのは私の消しゴムだった。
そんな気はしたけど。
そしてたぶん瀬名くんも、この消しゴムが凜のじゃなくて私のだってわかっていたはずだ。
だけど凜に渡した。
だけど私は訂正しなかった。
「・・・もう・・・まだ喧嘩してんのー?」
「・・・・凜は気にしなくていいから。さ、続きしよ続き」
だって・・・もう今更、どうやって接すればいいかわからない。
こじれるってほんと、こういうことだ。
私がため息をついたとき、教室の扉があいた。
「あっ!あかりんちょーどいいところにぃ」
「ん、ののちゃん」
ののちゃんが跳ねるように近づいてきた。
その後ろには、音央ちゃんと愛架ちゃんの姿もある。
「あかりんここ教えてっ!」
「うん、いいよ」
ここ一週間くらい、ののちゃんはよく私に勉強を教わりに来る。
「・・・で、ここで余弦定理を使うのね。余弦定理覚えてる?」
「えーっとぉ・・・・cosθ=2ab分のぉ・・・・分のぉぉ・・・」
「a²+b²−c²」
「そぁだそれ!!」
「でそれを当てはめてみると・・・」
私の解説を一生懸命聞くののちゃん。
それを後ろから愛架ちゃんがのぞきこんだ。
「いやぁ、ほんと、ののがんばってんねぇ。これが愛の力ってわけだ」
にやにやしながらそう言う愛架ちゃん。
愛の力?と私と凜が不思議そうに目を合わせたのを見て、音央ちゃんが説明してくれた。
「のの、彼氏と勝負してんの。合計点で負けたほうが相手の言うことなんでも一つ聞く、ってね」
「いっ言わないでよ!音央ち!」
ののちゃんが赤くなりながらそう抗議した。
どうやらののちゃんはその影響でこの一週間くらい、勉強にしっかり向き合っているみたいだ。
「そんでののは、ペアルックが苦手な矢崎君に、おそろいの靴買おう!ってお願いするんだって~」
「だから言わないでよ!愛!」
今度は愛架ちゃんに抗議するののちゃん。
「じゃあ矢崎くんに負けちゃったら代わりにあたしらが慰めたげるよーっ、遊び行こっ!」
「リンリンーっ!!あ、でも勝っても遊びには行きたいぃ!」
「かわいいこと言ってくれるじゃーんっ!行きましょうっ!!」
テスト終わりに遊びの約束・・・なんか、友達っぽい・・・!
学園祭以前まで凜以外の友達がいなかった私は、思わず瞳を輝かせた。
「テスト終わってすぐ行きたい!」
「ごめぇん・・・うちのブラック部活はテスト終わったその日から部活再開・・・」
「まじか!つらっ・・!」
「じゃあ来週の土曜?」
「あたしは空いてるー!」
私も予定は入っていないのでそう伝え、愛架ちゃん、ののちゃんも空いているとのことだった。
だが、音央ちゃんが言いにくそうに小さく手を挙げた。
「あー・・・ごめん、あたし予定入れちゃった・・・」
「あっ!そっか、その日音央ちはデート♡の予定だもんねっ?」
さっきの仕返しとばかりにののちゃんはにやにやしてそう言った。
「デート楽しみだねぇ音央ち!」
「もういいってー!」
音央ちゃんがデート。
それって相手はたぶん・・・。
私を一瞥した愛架ちゃんが、ののちゃんをたしなめる。
「のの、もういいでしょ。それより遊びの予定たてよ」
「・・・あ。うん、そうだねっ!」
ののちゃんも愛架ちゃんの言わんとすることに気が付いたのか、突然その話をやめた。
気をつかってくれているのが逆にあからさますぎてバレバレだった。
(やっぱ相手は瀬名くんかぁ・・・)
別に、だからどうということはない。
音央ちゃんが瀬名くんのこと好きっていうのは最初からわかっていたことだった。
なら音央ちゃんが瀬名くんとデートできるってことを、本当は心から祝福しなければいけない。
(・・・そう、友達がうれしいことは、私だってうれしいに決まってる・・・)
私は自分にそう言い聞かせた。
心の中に立ち込める、薄い暗雲を打ち消すように。
だいたい私は、うれしい以外の気持ちを抱いていい立場じゃない。
瀬名くんの彼女でもなければ、ましてや近頃は瀬名くんの友達とすら言えるような関係じゃない。
(・・・そう、今もやっとしたのは、私が音央ちゃんの友達だから!音央ちゃんがとられちゃうって思ってさみしかっただけ・・・!)
きっとそうだ。
だってそうじゃなきゃだめだ。
私はもう、瀬名くんと関わらないって、決めているんだから。
「・・・というかみんなっ、テスト終わりの遊びの予定より、まずはテスト勉強でしょー?」
私は切り替えるようにそう言って笑って見せた。
「えぇー!?あかり昨日からスパルタすぎぃ・・・あたし死んじゃう・・・」
「それは凜が宿題終わってないからでしょ!凜の残りの量的に死ぬ気で進めなきゃ終わんないからね?」
「うぐっ・・・が、がんばります・・・」
凜がさっきとは一転、突然魂が抜け落ちような表情で問題集に向かいだす。
それを見て、私と音央ちゃんが思わず笑う。
そしてあまりにも同じタイミングで笑い出すもんだから、私と音央ちゃんは顔を見合わせてまた笑ってしまった。
あいさつすらも。
そして、私と瀬名くんが話さなくなって、一週間が過ぎようとしていた。
「お・・・終わんない・・・」
「もー家で進めておかないからでしょー?」
「耳が痛い・・・」
昨日今日と、来週に期末テスト控えようやく部活が休みになった凛と、放課後も教室で勉強しているのだ。
凜は勉強会で半分くらいテスト課題を終わらせていたのだが、その後平日は部活に追われ、結局それ以降ほぼ進めていなかったらしい。
おかげで今ひいひい言いながら宿題を進めている。
「地理A課題多すぎー!園田先生出しすぎー!!」
「まあそれはわかる・・・」
嘆く凜をなだめつつ、私も自分の勉強に取り掛かる。
私は早くから取り掛かっていたし、なにより帰宅部なこともあって課題自体はもう終わっているが、社会と理科はもう一周くらいしておかないと気が済まない。
「・・・凜ちゃん、落ちたよ」
「ん?」
隣から声をかけられた。
横を向くまでもなく、声の主は瀬名くん。
だからこそ私はそちらを向くことなく、黙々をシャーペンを走らせる。
「あー・・・ありがとっ!」
「うん、じゃあまた明日」
「バイバーイ!!」
瀬名くんが立ち去ったあと、凜は私のほうに向きなおる。
「これあたしに渡されたけど・・・たぶんあかりの、だよね?」
凜の手にあったのは私の消しゴムだった。
そんな気はしたけど。
そしてたぶん瀬名くんも、この消しゴムが凜のじゃなくて私のだってわかっていたはずだ。
だけど凜に渡した。
だけど私は訂正しなかった。
「・・・もう・・・まだ喧嘩してんのー?」
「・・・・凜は気にしなくていいから。さ、続きしよ続き」
だって・・・もう今更、どうやって接すればいいかわからない。
こじれるってほんと、こういうことだ。
私がため息をついたとき、教室の扉があいた。
「あっ!あかりんちょーどいいところにぃ」
「ん、ののちゃん」
ののちゃんが跳ねるように近づいてきた。
その後ろには、音央ちゃんと愛架ちゃんの姿もある。
「あかりんここ教えてっ!」
「うん、いいよ」
ここ一週間くらい、ののちゃんはよく私に勉強を教わりに来る。
「・・・で、ここで余弦定理を使うのね。余弦定理覚えてる?」
「えーっとぉ・・・・cosθ=2ab分のぉ・・・・分のぉぉ・・・」
「a²+b²−c²」
「そぁだそれ!!」
「でそれを当てはめてみると・・・」
私の解説を一生懸命聞くののちゃん。
それを後ろから愛架ちゃんがのぞきこんだ。
「いやぁ、ほんと、ののがんばってんねぇ。これが愛の力ってわけだ」
にやにやしながらそう言う愛架ちゃん。
愛の力?と私と凜が不思議そうに目を合わせたのを見て、音央ちゃんが説明してくれた。
「のの、彼氏と勝負してんの。合計点で負けたほうが相手の言うことなんでも一つ聞く、ってね」
「いっ言わないでよ!音央ち!」
ののちゃんが赤くなりながらそう抗議した。
どうやらののちゃんはその影響でこの一週間くらい、勉強にしっかり向き合っているみたいだ。
「そんでののは、ペアルックが苦手な矢崎君に、おそろいの靴買おう!ってお願いするんだって~」
「だから言わないでよ!愛!」
今度は愛架ちゃんに抗議するののちゃん。
「じゃあ矢崎くんに負けちゃったら代わりにあたしらが慰めたげるよーっ、遊び行こっ!」
「リンリンーっ!!あ、でも勝っても遊びには行きたいぃ!」
「かわいいこと言ってくれるじゃーんっ!行きましょうっ!!」
テスト終わりに遊びの約束・・・なんか、友達っぽい・・・!
学園祭以前まで凜以外の友達がいなかった私は、思わず瞳を輝かせた。
「テスト終わってすぐ行きたい!」
「ごめぇん・・・うちのブラック部活はテスト終わったその日から部活再開・・・」
「まじか!つらっ・・!」
「じゃあ来週の土曜?」
「あたしは空いてるー!」
私も予定は入っていないのでそう伝え、愛架ちゃん、ののちゃんも空いているとのことだった。
だが、音央ちゃんが言いにくそうに小さく手を挙げた。
「あー・・・ごめん、あたし予定入れちゃった・・・」
「あっ!そっか、その日音央ちはデート♡の予定だもんねっ?」
さっきの仕返しとばかりにののちゃんはにやにやしてそう言った。
「デート楽しみだねぇ音央ち!」
「もういいってー!」
音央ちゃんがデート。
それって相手はたぶん・・・。
私を一瞥した愛架ちゃんが、ののちゃんをたしなめる。
「のの、もういいでしょ。それより遊びの予定たてよ」
「・・・あ。うん、そうだねっ!」
ののちゃんも愛架ちゃんの言わんとすることに気が付いたのか、突然その話をやめた。
気をつかってくれているのが逆にあからさますぎてバレバレだった。
(やっぱ相手は瀬名くんかぁ・・・)
別に、だからどうということはない。
音央ちゃんが瀬名くんのこと好きっていうのは最初からわかっていたことだった。
なら音央ちゃんが瀬名くんとデートできるってことを、本当は心から祝福しなければいけない。
(・・・そう、友達がうれしいことは、私だってうれしいに決まってる・・・)
私は自分にそう言い聞かせた。
心の中に立ち込める、薄い暗雲を打ち消すように。
だいたい私は、うれしい以外の気持ちを抱いていい立場じゃない。
瀬名くんの彼女でもなければ、ましてや近頃は瀬名くんの友達とすら言えるような関係じゃない。
(・・・そう、今もやっとしたのは、私が音央ちゃんの友達だから!音央ちゃんがとられちゃうって思ってさみしかっただけ・・・!)
きっとそうだ。
だってそうじゃなきゃだめだ。
私はもう、瀬名くんと関わらないって、決めているんだから。
「・・・というかみんなっ、テスト終わりの遊びの予定より、まずはテスト勉強でしょー?」
私は切り替えるようにそう言って笑って見せた。
「えぇー!?あかり昨日からスパルタすぎぃ・・・あたし死んじゃう・・・」
「それは凜が宿題終わってないからでしょ!凜の残りの量的に死ぬ気で進めなきゃ終わんないからね?」
「うぐっ・・・が、がんばります・・・」
凜がさっきとは一転、突然魂が抜け落ちような表情で問題集に向かいだす。
それを見て、私と音央ちゃんが思わず笑う。
そしてあまりにも同じタイミングで笑い出すもんだから、私と音央ちゃんは顔を見合わせてまた笑ってしまった。

