【瀬名くんside】
最悪だ。
ほんと、最悪。
あかりちゃんの負担になりたくないから、ずっと取り繕ってたのに。
こんな形で本心をぶつけてしまうなんて。
ださいし、申し訳ないし、情けないし。
「・・・瀬名くん、あたしたちがいない間に何があったの・・・?」
「・・・・・」
正直もう取り繕って笑って話す気分になんてさらさらなれなかったけど、そうもいかない。
俺はだれにも聞こえないくらいの小さなため息をついて、切り替える。
「・・・・俺のせいだよ。ちょっときつくあたった」
「え、瀬名くんが・・・?」
「そう。ほんとごめんね、空気壊しちゃって。あかりちゃんにはちゃんと謝っておくからさ、みんなは気にしないで大丈夫」
まあそう言ったって気にしないわけにはいかないだろうけど。
「・・・うーん、瀬名くんもあかりも疲れてたのかもねぇ」
空気をかえるように、凜ちゃんがそう言った。
「あかり、保育園のときなんか、あたしが夏祭りで連れまわりすぎて疲れて泣いてたもん」
「保育園の時は話別でしょ!ってかそのエピソードは凜のせいじゃね?」
凜ちゃんのちょっとずれた発言と、それに対する愛架ちゃんの突っ込みで、ちょっと空気が緩んだ。
凜ちゃんはこういうの、ほんとうまい。
「てかせっかくのマスが覚めちゃうからさ!先に食べない!?あたしこれ買ったときから食べたくてそわそわしてたんだよね~!!」
凜ちゃんはそう言うと、立ち尽くす俺たちを置いて着席し、買ってきたものを袋から取り出す。
「・・・・ん、そうだね。このままでいてもしょうがないし、とりあえず食べよっか」
「だねっ」
愛架ちゃんとののちゃんもそう言って凜ちゃんに続き、少し遠慮がちではあるが笑顔を見せた。
凜ちゃんも、いつも通り・・・どころか、少しオーバーなくらいに笑って見せている。
カラ元気、かもしれない。
そりゃそうだ。
この中であかりちゃんと一番親しいのは凜ちゃんなんだ。
なのにこうやって先陣きって空気変えて。
(・・・いやむしろ、だからこそかな)
きっとあのままの空気が続けば、自分のせいで空気を壊した、ってあかりちゃんは気に病む。
それを、長い付き合いの凜ちゃんはよくわかっているのかもしれない。
だから心配を押し殺して、カラ元気で笑っているんだ。
俺は心の中で凜ちゃんに感謝を述べると、俺も席に着いた。
「ってかこの中でモック派俺だけじゃんかー」
「ほんとじゃん!オセロなら瀬名くんもマス派だっ!」
「ちょ、俺の好み勝手にねじまげないでよ凜ちゃん」
ふと、まだ音央ちゃんが立ち尽くしているのに気づく。
「音央ちゃん、おいで、お昼にしよ」
「・・・うん」
俺の呼びかけで、音央ちゃんもためらいつつ席に着いた。
「いただきまーすっ!!」
元気よく挨拶をして凜ちゃんが食べ始めると、ののちゃんや愛架ちゃんもそれに続いた。
「待って、これやばっ、うまっ!!」
「それ買おうかののも迷ったぁ・・・一口ちょーだい?」
「かわいい顔したって・・・あげちゃう!!どうぞ!!」
「わぁい!優しいリンリンだーい好き!」
「かわいい顔したって・・・これもあげちゃう!!」
「わぁい!」
茶番を繰り広げる凜ちゃんとののちゃんに、愛架ちゃんが冷静に、何やってんの、と突っ込んだ。
だけどそれをしり目に、音央ちゃんはどこか浮かない顔をする。
「・・・どしたん?音央ちゃん」
「・・・・」
音央ちゃんは空気を壊さないためか、俺にだけ聞こえるようにつぶやく。
「普段・・・涼我って自分の感情表に出さないから、さ・・・、何があったのか知らないし、それはあかりにとってかなりショックなことだったんだろうけど・・・、同じくらい、涼我にとっても、ショックだったんじゃないの?」
「・・・・」
「だから・・・涼我・・・、大丈夫?」
音央ちゃんが心配そうな視線を、俺に投げかけてきた。
俺はいつも通りの笑顔を顔に張り付けた。
「大丈夫だよ」
「・・・そっか」
音央ちゃんはまだ納得しきれてないような表情をしていたけど、それ以上追及してくることはなかった。
それから30分ほどかけてお昼ご飯を食べ終わり、勉強を再開した。
「・・・むぅー!ここわかんないぃ!!」
「英語かぁ・・・あかりいないから聞けないしねぇ・・・」
「・・・しょうがない・・・飛ばすか・・・」
凜ちゃんが不本意そうにページをめくった。
その時、リビングの扉が開かれた。
「!」
驚いてみんなの視線がそちらに向けられる。
だが、入ってきたのはあかりちゃんではなかった。
「・・・報告遅くなってすまない」
きょーちゃん一人だけが、部屋の中に入ってきた。
凜ちゃんが、一瞬唇を固く結ぶ。
「九鬼さんだが、今日は先に帰るとのことだ。みんなに謝っておいてくれとも言っていた」
あかりちゃんが帰った・・・。
自分がしてしまったことへの後悔がじわじわと立ち込めてきて、鬱屈とした気持ちになった。
(来週、謝んないと・・・だよな。でも・・・、どんな顔して謝ればいいんだろう・・・。あかりちゃんはもう俺の顔も見たくないかもしれない・・・)
一人考え込む俺を、きょーちゃんはじっと見つめた。
しばらくリビングに沈黙が訪れたけど、また凜ちゃんがその空気をかえようと勢いよく立ち上がった。
「まあまあみんな!あかりのことは、このウルトラスーパー最強のムードメーカー、天野 凜にお任せをっ!あかりの大好物の駅前のパン買ってお土産に渡しておくからさっ!それよりチカラさん?っでしたっけ、チカラさん、この問題教えてください!」
「ん、いいぞ」
「これです!もうあたし、英語がほんとに死んでましてー・・・」
凜ちゃんの楽し気な声がリビングに響きだすと、他のみんなもつられてまた勉強を再開する。
俺も、それに乗じてシャーペンを持ち直す。
「・・・・」
だけど俺の中では後悔やら心配やら自己嫌悪やら、いろんな感情が渦巻いていて、結局そのあと二時間あった勉強会で進んだのは、たったの三ページだけだった。
最悪だ。
ほんと、最悪。
あかりちゃんの負担になりたくないから、ずっと取り繕ってたのに。
こんな形で本心をぶつけてしまうなんて。
ださいし、申し訳ないし、情けないし。
「・・・瀬名くん、あたしたちがいない間に何があったの・・・?」
「・・・・・」
正直もう取り繕って笑って話す気分になんてさらさらなれなかったけど、そうもいかない。
俺はだれにも聞こえないくらいの小さなため息をついて、切り替える。
「・・・・俺のせいだよ。ちょっときつくあたった」
「え、瀬名くんが・・・?」
「そう。ほんとごめんね、空気壊しちゃって。あかりちゃんにはちゃんと謝っておくからさ、みんなは気にしないで大丈夫」
まあそう言ったって気にしないわけにはいかないだろうけど。
「・・・うーん、瀬名くんもあかりも疲れてたのかもねぇ」
空気をかえるように、凜ちゃんがそう言った。
「あかり、保育園のときなんか、あたしが夏祭りで連れまわりすぎて疲れて泣いてたもん」
「保育園の時は話別でしょ!ってかそのエピソードは凜のせいじゃね?」
凜ちゃんのちょっとずれた発言と、それに対する愛架ちゃんの突っ込みで、ちょっと空気が緩んだ。
凜ちゃんはこういうの、ほんとうまい。
「てかせっかくのマスが覚めちゃうからさ!先に食べない!?あたしこれ買ったときから食べたくてそわそわしてたんだよね~!!」
凜ちゃんはそう言うと、立ち尽くす俺たちを置いて着席し、買ってきたものを袋から取り出す。
「・・・・ん、そうだね。このままでいてもしょうがないし、とりあえず食べよっか」
「だねっ」
愛架ちゃんとののちゃんもそう言って凜ちゃんに続き、少し遠慮がちではあるが笑顔を見せた。
凜ちゃんも、いつも通り・・・どころか、少しオーバーなくらいに笑って見せている。
カラ元気、かもしれない。
そりゃそうだ。
この中であかりちゃんと一番親しいのは凜ちゃんなんだ。
なのにこうやって先陣きって空気変えて。
(・・・いやむしろ、だからこそかな)
きっとあのままの空気が続けば、自分のせいで空気を壊した、ってあかりちゃんは気に病む。
それを、長い付き合いの凜ちゃんはよくわかっているのかもしれない。
だから心配を押し殺して、カラ元気で笑っているんだ。
俺は心の中で凜ちゃんに感謝を述べると、俺も席に着いた。
「ってかこの中でモック派俺だけじゃんかー」
「ほんとじゃん!オセロなら瀬名くんもマス派だっ!」
「ちょ、俺の好み勝手にねじまげないでよ凜ちゃん」
ふと、まだ音央ちゃんが立ち尽くしているのに気づく。
「音央ちゃん、おいで、お昼にしよ」
「・・・うん」
俺の呼びかけで、音央ちゃんもためらいつつ席に着いた。
「いただきまーすっ!!」
元気よく挨拶をして凜ちゃんが食べ始めると、ののちゃんや愛架ちゃんもそれに続いた。
「待って、これやばっ、うまっ!!」
「それ買おうかののも迷ったぁ・・・一口ちょーだい?」
「かわいい顔したって・・・あげちゃう!!どうぞ!!」
「わぁい!優しいリンリンだーい好き!」
「かわいい顔したって・・・これもあげちゃう!!」
「わぁい!」
茶番を繰り広げる凜ちゃんとののちゃんに、愛架ちゃんが冷静に、何やってんの、と突っ込んだ。
だけどそれをしり目に、音央ちゃんはどこか浮かない顔をする。
「・・・どしたん?音央ちゃん」
「・・・・」
音央ちゃんは空気を壊さないためか、俺にだけ聞こえるようにつぶやく。
「普段・・・涼我って自分の感情表に出さないから、さ・・・、何があったのか知らないし、それはあかりにとってかなりショックなことだったんだろうけど・・・、同じくらい、涼我にとっても、ショックだったんじゃないの?」
「・・・・」
「だから・・・涼我・・・、大丈夫?」
音央ちゃんが心配そうな視線を、俺に投げかけてきた。
俺はいつも通りの笑顔を顔に張り付けた。
「大丈夫だよ」
「・・・そっか」
音央ちゃんはまだ納得しきれてないような表情をしていたけど、それ以上追及してくることはなかった。
それから30分ほどかけてお昼ご飯を食べ終わり、勉強を再開した。
「・・・むぅー!ここわかんないぃ!!」
「英語かぁ・・・あかりいないから聞けないしねぇ・・・」
「・・・しょうがない・・・飛ばすか・・・」
凜ちゃんが不本意そうにページをめくった。
その時、リビングの扉が開かれた。
「!」
驚いてみんなの視線がそちらに向けられる。
だが、入ってきたのはあかりちゃんではなかった。
「・・・報告遅くなってすまない」
きょーちゃん一人だけが、部屋の中に入ってきた。
凜ちゃんが、一瞬唇を固く結ぶ。
「九鬼さんだが、今日は先に帰るとのことだ。みんなに謝っておいてくれとも言っていた」
あかりちゃんが帰った・・・。
自分がしてしまったことへの後悔がじわじわと立ち込めてきて、鬱屈とした気持ちになった。
(来週、謝んないと・・・だよな。でも・・・、どんな顔して謝ればいいんだろう・・・。あかりちゃんはもう俺の顔も見たくないかもしれない・・・)
一人考え込む俺を、きょーちゃんはじっと見つめた。
しばらくリビングに沈黙が訪れたけど、また凜ちゃんがその空気をかえようと勢いよく立ち上がった。
「まあまあみんな!あかりのことは、このウルトラスーパー最強のムードメーカー、天野 凜にお任せをっ!あかりの大好物の駅前のパン買ってお土産に渡しておくからさっ!それよりチカラさん?っでしたっけ、チカラさん、この問題教えてください!」
「ん、いいぞ」
「これです!もうあたし、英語がほんとに死んでましてー・・・」
凜ちゃんの楽し気な声がリビングに響きだすと、他のみんなもつられてまた勉強を再開する。
俺も、それに乗じてシャーペンを持ち直す。
「・・・・」
だけど俺の中では後悔やら心配やら自己嫌悪やら、いろんな感情が渦巻いていて、結局そのあと二時間あった勉強会で進んだのは、たったの三ページだけだった。

