【瀬名くんside】
いつも通り、ホームルームが終わって教室を出ると、数人の女子が俺のもとによって来た。
「瀬名くーん!今日はいっしょ帰ろうよー!」
「え待ってずるい!私もー!!」
「最近できたクレープのお店寄っていこーよー」
俺はその子たちに対して、いつも通り笑いかける。
「いいよ」
基本的に俺は下校をだれかといっしょにしているけど、大体は教室を出てすぐ寄ってきた子と帰る。それが一番平等だから。
俺が歩き出すと、みんな嬉しそうにしながら俺の横をついてくる。
「ねぇ瀬名くん!次のテスト終わったらさー、遊びに行かない?」
「さんせー!!あたしも行きたーい!」
「それならテストがんばれるっ」
「カラオケ行きたい!」
楽し気に話すのを聞いて俺は静かに微笑んだ。
こういうノリでした約束は大体自然消滅するって知っているから、軽く受け流しておけばいい。
「ちなみに瀬名くんはどこ行きたい?」
「俺?俺はー・・・」
適当に何か答えようとしたところでふと校門のあたりに立っている人物と目が合う。
(え、あれって凜ちゃんの弟の・・・!?)
俺は、なんで彼がここにいるのかわからなくて、驚きで一瞬固まった。
それに気づいた女の子たちが俺を振り返る。
「どーしたの?涼我」
「なんかあったん?」
俺はその言葉ではっとして、慌てて取り繕うような笑みを浮かべた。
「や・・・なんでもない」
そう言って歩き出す。
そのまま、何事もなかった感じで校門をくぐろうとしたその時。
「あの」
まさかの向こうから話しかけてきた。
「俺、天野 海です。天野 凛の弟です。お願いがあるんですけど・・・」
「・・・はあ」
こいつ、よく俺に平然と話しかけられるな、って心の中で突っ込んだ。
凜ちゃんの弟が何か言おうと口を開きかけたとたん、俺の周りにいた女子が彼に興味を示した。
「瀬名くんこの子だれー?」
「知り合い?」
「てか中学生?よね?かわいいー」
女子高生の圧に耐えられなかったのか、凜ちゃんの弟は「あ、え、あ・・・あの・・・」とたじたじな状態。
なんというか、見るからに女慣れしていないタイプ。
正直助ける義理なんてないけど、さすがにかわいそうになって助け舟を出した。
「あー・・・、みんなごめん。俺今日この子と帰る約束してたんだった。ほんとごめんなんだけど、いっしょに帰るってのなしにしていい?」
凜ちゃんの弟は、まさか俺から助け船が出されるとは思ってもみなかったのか、驚愕の表情でこっちを見てきた。
(その表情やめろって・・・嘘がバレるだろーが・・・)
俺はそう心の中で思ったけど、俺のセリフで女子たちの関心が彼から俺のほうへ一気に向いたのでバレなかった。
「えー?いっしょに帰れるって言ったじゃんー・・・」
「嘘つきー、瀬名くんのばかぁ」
「てか別にこの男の子いっしょでもいいよ?」
「え、それなー。普通にかわいいし」
話の雲行きが怪しくなってきた。
これはどうにかしなければ。
「あー・・・、どうしても二人だけで話したいことがあって」
どうにかこれでごまかせるかと思ったけど、さすがに弱いかもしれない。
俺は少し悩んだ挙句、口を開く。
「こいつの・・・海の恋愛相談!だから今日はこっち優先していい?」
海の恋愛相談、という話が出た瞬間、凜ちゃんの弟が真っ赤になって咳払いをした。
やっぱりあかりちゃんがらみっていうのは図星か・・・。
「明日またいっしょに帰ろ?なんなら俺教室まで迎え行くし」
この一言が決め手になった。
俺は基本的に教室を出てすぐ、最初に寄って来た子と下校するので、俺自ら迎えに行くっていうのはかなりのレア。
この一言を聞いたとたん、女の子たちは不満そうだった表情を一転させて、上機嫌で帰っていった。
「ふー・・・」
彼女らが立ち去る背中を見送り、俺はやれやれって感じでため息をついた。
「なんか・・・手慣れてますね、女性の扱い」
「・・・そう?」
今更だけど俺はこの子とどんな顔して話せばいいんだろう。
正直二人きりで話すのは初めてだし、しかも・・・。
(一応・・・恋敵、に、なるんだよな・・・?)
俺自身、あかりちゃんのことが好きだという自覚はあるけど、だからって付き合おうなんて思ってない。
好きだからこそ・・・これ以上踏み込むことがためらわれる。
ありのままの俺を、受け入れてもらえる自信がないから。
(・・・くそ)
嫌な記憶がよみがえりそうになって、すぐに俺は記憶にふたを閉じた。
ただ、だからってこの子に「はいどうぞ」って譲れるほど、あかりちゃんへの想いが軽いわけじゃない。
「あの、そんでお願いなんすけど・・・」
「・・・凜ちゃんなら部活中だからたぶん第一体育館にいるよ。案内しよっかー?」
「いや・・・姉ちゃんに用があるわけじゃなくて」
俺ははぁっとわざとらしくため息をついた。
「わかってるよ、ちょっとからかっただけじゃん。あかりちゃんでしょ?恋愛相談だもんねー」
「あっ、ちょ、えっ・・・・」
今度は何にそんなにたじたじになっているんだ・・・。
俺が怪訝そうに見つめると、凜ちゃんの弟は顔を赤くしてうつむいた。
「・・・お、れがあかりさんのこと・・・好き・・・とか、そういうの人前で言わないでください・・・」
「・・・・」
学園祭最終日、廊下に響き渡るくらい大きい声で告白しておいて何を言っているんだ・・・。
「・・・まあいいけど。そんで何?あかりちゃん呼んで来いって?」
「そうです」
「・・・・」
俺はふーん、って感じの顔して頷いた後、間髪入れずに返した。
「やだ」
凜ちゃんの弟は苦虫をかみつぶしたみたいな顔で俺を見つめてくる。
「・・・なんでですか?」
「なんでも」
「・・・あかりさんのこと、好きだからですか?」
「さー?どうだろうねー?」
軽い俺の返しを聞いて、口の中の苦虫が増えたようだ。
「真面目に答えてください」
「なんで?別に答える義理ないっしょ、君あかりちゃんの彼氏でもなんでもないじゃん」
「・・・・・そうですね」
凜ちゃんの弟は悔し気にそうつぶやいた。
思ったより素直な性格をしているようだ。
「じゃあもういいです、自分で探します」
そうしなよー、と言いかけて思いとどまる。
今日、帰り際にあかりちゃんと凜ちゃんが話しているのが耳に入った。
そのとき確か、あかりちゃんは教室で勉強してから帰るって言っていた。
(つまりこのまま行くと、あかりちゃんとこの子は教室で二人きりになるわけだ)
その結論に至った瞬間、俺は凜ちゃんの弟の腕を掴んだ。
「やっぱ待って。気が変わった」
「は?」
「連れてきてあげるから待ってなよ」
「はぁ・・・?」
不本意だけどな、と心の中で付け足しておいた。
口には出さなかったけど。
いつも通り、ホームルームが終わって教室を出ると、数人の女子が俺のもとによって来た。
「瀬名くーん!今日はいっしょ帰ろうよー!」
「え待ってずるい!私もー!!」
「最近できたクレープのお店寄っていこーよー」
俺はその子たちに対して、いつも通り笑いかける。
「いいよ」
基本的に俺は下校をだれかといっしょにしているけど、大体は教室を出てすぐ寄ってきた子と帰る。それが一番平等だから。
俺が歩き出すと、みんな嬉しそうにしながら俺の横をついてくる。
「ねぇ瀬名くん!次のテスト終わったらさー、遊びに行かない?」
「さんせー!!あたしも行きたーい!」
「それならテストがんばれるっ」
「カラオケ行きたい!」
楽し気に話すのを聞いて俺は静かに微笑んだ。
こういうノリでした約束は大体自然消滅するって知っているから、軽く受け流しておけばいい。
「ちなみに瀬名くんはどこ行きたい?」
「俺?俺はー・・・」
適当に何か答えようとしたところでふと校門のあたりに立っている人物と目が合う。
(え、あれって凜ちゃんの弟の・・・!?)
俺は、なんで彼がここにいるのかわからなくて、驚きで一瞬固まった。
それに気づいた女の子たちが俺を振り返る。
「どーしたの?涼我」
「なんかあったん?」
俺はその言葉ではっとして、慌てて取り繕うような笑みを浮かべた。
「や・・・なんでもない」
そう言って歩き出す。
そのまま、何事もなかった感じで校門をくぐろうとしたその時。
「あの」
まさかの向こうから話しかけてきた。
「俺、天野 海です。天野 凛の弟です。お願いがあるんですけど・・・」
「・・・はあ」
こいつ、よく俺に平然と話しかけられるな、って心の中で突っ込んだ。
凜ちゃんの弟が何か言おうと口を開きかけたとたん、俺の周りにいた女子が彼に興味を示した。
「瀬名くんこの子だれー?」
「知り合い?」
「てか中学生?よね?かわいいー」
女子高生の圧に耐えられなかったのか、凜ちゃんの弟は「あ、え、あ・・・あの・・・」とたじたじな状態。
なんというか、見るからに女慣れしていないタイプ。
正直助ける義理なんてないけど、さすがにかわいそうになって助け舟を出した。
「あー・・・、みんなごめん。俺今日この子と帰る約束してたんだった。ほんとごめんなんだけど、いっしょに帰るってのなしにしていい?」
凜ちゃんの弟は、まさか俺から助け船が出されるとは思ってもみなかったのか、驚愕の表情でこっちを見てきた。
(その表情やめろって・・・嘘がバレるだろーが・・・)
俺はそう心の中で思ったけど、俺のセリフで女子たちの関心が彼から俺のほうへ一気に向いたのでバレなかった。
「えー?いっしょに帰れるって言ったじゃんー・・・」
「嘘つきー、瀬名くんのばかぁ」
「てか別にこの男の子いっしょでもいいよ?」
「え、それなー。普通にかわいいし」
話の雲行きが怪しくなってきた。
これはどうにかしなければ。
「あー・・・、どうしても二人だけで話したいことがあって」
どうにかこれでごまかせるかと思ったけど、さすがに弱いかもしれない。
俺は少し悩んだ挙句、口を開く。
「こいつの・・・海の恋愛相談!だから今日はこっち優先していい?」
海の恋愛相談、という話が出た瞬間、凜ちゃんの弟が真っ赤になって咳払いをした。
やっぱりあかりちゃんがらみっていうのは図星か・・・。
「明日またいっしょに帰ろ?なんなら俺教室まで迎え行くし」
この一言が決め手になった。
俺は基本的に教室を出てすぐ、最初に寄って来た子と下校するので、俺自ら迎えに行くっていうのはかなりのレア。
この一言を聞いたとたん、女の子たちは不満そうだった表情を一転させて、上機嫌で帰っていった。
「ふー・・・」
彼女らが立ち去る背中を見送り、俺はやれやれって感じでため息をついた。
「なんか・・・手慣れてますね、女性の扱い」
「・・・そう?」
今更だけど俺はこの子とどんな顔して話せばいいんだろう。
正直二人きりで話すのは初めてだし、しかも・・・。
(一応・・・恋敵、に、なるんだよな・・・?)
俺自身、あかりちゃんのことが好きだという自覚はあるけど、だからって付き合おうなんて思ってない。
好きだからこそ・・・これ以上踏み込むことがためらわれる。
ありのままの俺を、受け入れてもらえる自信がないから。
(・・・くそ)
嫌な記憶がよみがえりそうになって、すぐに俺は記憶にふたを閉じた。
ただ、だからってこの子に「はいどうぞ」って譲れるほど、あかりちゃんへの想いが軽いわけじゃない。
「あの、そんでお願いなんすけど・・・」
「・・・凜ちゃんなら部活中だからたぶん第一体育館にいるよ。案内しよっかー?」
「いや・・・姉ちゃんに用があるわけじゃなくて」
俺ははぁっとわざとらしくため息をついた。
「わかってるよ、ちょっとからかっただけじゃん。あかりちゃんでしょ?恋愛相談だもんねー」
「あっ、ちょ、えっ・・・・」
今度は何にそんなにたじたじになっているんだ・・・。
俺が怪訝そうに見つめると、凜ちゃんの弟は顔を赤くしてうつむいた。
「・・・お、れがあかりさんのこと・・・好き・・・とか、そういうの人前で言わないでください・・・」
「・・・・」
学園祭最終日、廊下に響き渡るくらい大きい声で告白しておいて何を言っているんだ・・・。
「・・・まあいいけど。そんで何?あかりちゃん呼んで来いって?」
「そうです」
「・・・・」
俺はふーん、って感じの顔して頷いた後、間髪入れずに返した。
「やだ」
凜ちゃんの弟は苦虫をかみつぶしたみたいな顔で俺を見つめてくる。
「・・・なんでですか?」
「なんでも」
「・・・あかりさんのこと、好きだからですか?」
「さー?どうだろうねー?」
軽い俺の返しを聞いて、口の中の苦虫が増えたようだ。
「真面目に答えてください」
「なんで?別に答える義理ないっしょ、君あかりちゃんの彼氏でもなんでもないじゃん」
「・・・・・そうですね」
凜ちゃんの弟は悔し気にそうつぶやいた。
思ったより素直な性格をしているようだ。
「じゃあもういいです、自分で探します」
そうしなよー、と言いかけて思いとどまる。
今日、帰り際にあかりちゃんと凜ちゃんが話しているのが耳に入った。
そのとき確か、あかりちゃんは教室で勉強してから帰るって言っていた。
(つまりこのまま行くと、あかりちゃんとこの子は教室で二人きりになるわけだ)
その結論に至った瞬間、俺は凜ちゃんの弟の腕を掴んだ。
「やっぱ待って。気が変わった」
「は?」
「連れてきてあげるから待ってなよ」
「はぁ・・・?」
不本意だけどな、と心の中で付け足しておいた。
口には出さなかったけど。