【チカラさんside】
 カランっとシャーペンが落ちる音がして目が覚めた。


「・・・・ん」


 目の前には大量に書き込まれた問題集とノート。
 どうやら勉強道具に寝てしまったようだ。

 あともう2ヶ月ちょっとで共通テストだ。
 寝ている場合じゃない。

 俺は大きく伸びをして改めて机に向かう。

 が、眠気が払いきれず今ひとつ集中できない。


「・・・・場所変えるか・・・」


 俺は通学用のリュックに勉強道具を詰め込むと、家を出た。

 とりあえず図書館を目指すつもりだったが、おそらくこの時期の日曜日は受験生でいっぱいかもしれない。


(どうしようか・・・・)


 迷いながら、とりあえず家の近くのコンビニに入った。


「あれ、きょーちゃん」

「!」


 コンビニの入口でばったり涼我と出くわした。
 どうやら買い物を終えたところらしく、ビニール袋片手に話しかけてきた。


「なんか予定あるん?」

「いや、勉強してたんだが少し集中が切れてな・・・。場所変えようかと思って」

「うわぁ・・・日曜まで勉強とか神じゃん」

「お前も二年後にはこうなるんだぞ」

「俺まだ大学行くか決めてないしぃ」


 話しながらふと涼我のもつ袋に目が留まる。
 コンビニ弁当にお菓子に・・・、ジャンクなものが透けて見えていた。


「お前・・・、つい数日前倒れたばっかだってのにこんな食生活してのか・・・」

「えー?倒れたって言ったってただの貧血じゃんかー」

「貧血だからこそ食生活気をつけるんだろう?ったく・・・ちょっと来い」


 俺は涼我を連れて近くのスーパーに向かった。

 適当にスマホで鉄分をとれるレシピをピックアップすると、必要なものをどんどんかごに放り込んでいく。


「・・・こんなにあっても俺料理しないんだけどー」


 俺の後ろをついてくる涼我は、そんなことを言う。


「知っている。別にお前に料理なんて期待してないから安心しろ」

「・・・そう言われると逆に腹立つな・・・」


 涼我に半分払わせて、レジ袋いっぱいの荷物を涼我の家まで運んだ。


「・・・なにこれ、きょーちゃんが飯作ってくれんの?」

「そうだ」

「え、まじ!?」


 涼我が少し嬉しそうにこっちを向いた。


「てかきょーちゃんって料理できんの?」

「最近少しやっている。来年からはひとり暮らし始めるわけだしな」

「へー」

「お前は適当に座っていろ。ていうか安静にしていろ」

「安静にって・・・、大げさだなぁ」


 涼我は呆れたようにそう言ったが、素直にリビングのソファに腰掛けた。


 俺はそこから40分ほどかけてご飯を作った。
 正直炒め物は若干炒めすぎた感があったがまあよしとしよう。食べさせるのは涼我だしな。

 俺は2人分の白米と汁と炒め物をよそうと、リビングに顔を出した。


「おーい涼我、飯でき————ってなんだ、寝てんのか」


 涼我はソファの上で体を傾けて寝ていた。


「ったく・・・首痛くなるぞその姿勢・・・」


 起こすべきか迷いつつ毛布をもって近づくと、涼我が口を開いた。


「・・・なんで」

「!」


 驚いて涼我をまじまじと見たが、やはり深く眠っていた。


(なんだ、寝言か・・・)


 そう思ったのもつかの間、また涼我が寝言を言う。


「あかりちゃん・・・なんで・・・」

「・・・・」


 そうつぶやいた瞬間、涼我の目から細い涙が流れた。


「・・・ごめんな、涼我・・・」


 俺はただ、謝ることしかできなかった。