週末が明け、いよいよ月曜日になった。

 私はいつも通りの早朝の道を、ぼーっとしながら歩いていた。


(言わなきゃ・・・・今日中でもう吸血は終わりにしようって)


 結局、昨日はずっともんもんとこのことばかりを考えていて、気づけば一日が終わっていた。
 その割に瀬名くんに言うための覚悟はまだはっきりしてなくて、言わなきゃ、言わなきゃって言う焦りだけが降り積もっていた。


「・・・はぁ・・・」

「うわ〜、盛大なため息」

「わっ!」


 突然後ろから声をかけられて振り返る。

 そこにはまさに今私の思考のほとんどを占めていた人物・・・瀬名くんがいた。


「・・・・」

「ん?どしたん、怒らないの?びっくりさせないでよ〜って」

「・・・・別に」

「・・・・?」


 瀬名くんは不思議そうに私をのぞきこんだ。

 たけど私はその瀬名くんの視線から逃れるように歩き出す。


「わ、置いてかないでよー、あかりちゃん」

「・・・・」


 学校についたら、言う。
 こんな誰が通るかわからないところで吸血の話をするわけにはいかないから。

 心の中でそうつぶやいて自分を納得させつつ、重い足を動かして学校に向かった。


 教室には、いつも通り誰もいなかった。

 無言で教室に入る私に続いて、瀬名くんも入ってくる。


「なんかこうやって二人で来るの変な感じだなぁ。いっつもはあかりちゃんが待っててくれるからさ」

「・・・・」

「・・・あかりちゃん」


 私は瀬名くんの言葉に返事を返すことも忘れて、ぼーっと席についた。

 瀬名くんは心配そうに隣の席にやってきた。


「・・・大丈夫?なんかあった?」

「・・・・」


 瀬名くんの顔をちらっと見ると、心配そうな表情が目に飛び込んできた。
 その表情を見ていると、余計この関係をやめよう、なんて言い出しづらくて、ぱっと下を向いた。


「・・・あの」

「ん?」

「瀬名くんに・・・、話が、あって・・・」

「うん」


 私はなかなか話出せずにいたけれど、瀬名くんはじっと私が話し出すのを静かに待っていてくれた。


「・・・あの、吸血の、ことなんだけど・・・」

「うん」

「これからは、さ・・・その」

「うん」

「えっと・・・だから・・・」


 私は覚悟を決めて視線をあげた。

 だけど瀬名くんをまっすぐに見据えてしまうと、やっぱり言い出せなくなってしまう。

 この、毎週月曜日の朝、朝日に照らされて柔らかくほほ笑む瀬名くん。
 私だけしか知らない瀬名くん。

 この瞬間がなくなるなんて、やっぱり嫌だ。


「・・・・なんでもない」

「え?」

「なんでもない!それより人が来る前に終わらせちゃおう?」


 私は引きつったような笑みを見られないよう、慌てて立ち上がった。


「あかりちゃん・・・?」


 心配そうな瀬名くんの顔がまともに見れなくて、私はすぐに瀬名くんの首筋に口を寄せた。

 そしてためらいを消すように咬みついた。

 瀬名くんは小さく身じろぎしたが、すぐに私に体を預けてきた。

 私はほんの数滴だけ血を飲むと、すぐに牙を抜いた。
 そして傷を治すために舌で傷口を抑える。


「・・・あかりちゃん、飲む量少なくない?」


 瀬名くんにそう言われたけれど、そのまま傷を治しきって、私は身を離そうとした。
 でも、その瞬間、瀬名くんに腕を掴まれる。


「ねぇ」

「・・・・」

「どうしたの、やっぱなんか変だよ、今日」


 本当は今すぐにだってすべてを話したい。

 だけどそうしてしまえばきっと瀬名くんは、気にしないでって、俺は大丈夫って、そう言って私を許してしまう。

 ますますこの関係を、終わらせたくなくなってしまう。


「・・・・ほんとに、なんでもないから」


 でもそう思っていても、結局別れを切り出すことすらできないで、瀬名くんを突き放すことしかできなかった。


「・・・そっか」


 瀬名くんはそれ以上追求してくることはなくて、ただ寂しそうに笑った。