やっぱり楽しい時間っていうのはあっという間で、気がつけば解散の時間になっていた。


「じゃあねー!あかり!また月曜日!」

「うん!」


 クラスのみんなと別れ、凛と二人になる。


「ね、凛、ちょっと寄りたいとこあって・・・先帰っててもらってもいい?」

「ん?いいけど・・・別買い物とかならいっしょ行くよ?」

「あっううんっ!えっと・・・そう、ちょっと電話!きてて!時間かかりそうだから先帰ってて!」

「そう?まあそこまで言うなら先帰ってるよ」


 どうにかうまく言い訳をつけられた。
 凛と手を振り合って別れ、安堵のため息をこぼしたとたん、後ろから話しかけられる。


「あかりちゃん」

「わっ!う、後ろから話しかけないでよ、びっくりするじゃん・・・」

「あはは、ごめんごめん」


 瀬名くんは辺りに誰もいないことを確認すると、ファミレスの駐車場に戻り、建物の裏手に回った。


「ちょうどよさげじゃない?」

「うん」


 私は建物の影に入ると、それまでさしていた日傘をたたむ。


「ほんとに大丈夫なの?吸血して・・・・」

「うん」


 瀬名くんは壁にもたれると、私が吸血しやすいように首を傾げた。

 私はためらいつつも、瀬名くんの側に寄る。
 瀬名くんの首筋に手を当て、舌で湿らせてから軽く咬みついた。


「・・・っあ、かりちゃん・・・」


 瀬名くんが痛みに耐えながら、名前を呼んできて驚いた。
 これまで吸血しながら話しかけられたことなんてなかったから。


「・・・おいし・・・?」


 どうして急にそんなことを聞いてくるのかわからなかったけど、なんにせよ口が塞がれていて答えようがない。


「・・・・ふ、オレンジジュースより、おいし・・・でしょ・・・っ?」


 私は肯定を示すために、少しだけ強く牙を食い込ませた。


「っ!」


 そしてすぐ牙を抜き、傷を舐めて治した。


「・・・ん、治った」

「・・・うん」


 瀬名くんが名残惜しげに身を離した。
 そこで私の顔を見て、なにかに気づく。


「あかりちゃん、血、ちょっとついてる」

「え?うそ」


 私がハンカチを取り出そうとしている間に、瀬名くんの手が伸びてきて、私の頰を拭った。


「血歩いてたら騒がれちゃうよ」

「ん、だよね・・・ありがとう」

「ううん、二人だけの秘密を守るためだから」


 瀬名くんはそう言って小さく笑った。 


「じゃあ・・・・また月曜日に」

「うん」


 お別れの挨拶をしたけど、瀬名くんがその場を離れないのを見て私から先に帰ることにした。

 日傘をさして日向にでて、振り返って手を振った。

 私が見えなくなるその時まで、瀬名くんはまっすぐに私だけを見つめていた。