夢のような時間あっという間に終わりを告げた。
 始まる前は準備期間の長さにも、学園祭当日の長さにも驚いたけれど、終わってみれば驚くほど早かった。
 

「いやぁほんとあっという間だったねぇ・・・」


 隣で凛がしみじみとつぶやく。

 今は学園祭が終わり、土日が開けた月曜日の午前中。

 今日の午前中に片付けやら反省ならが行われ、これが終われば完全に学校は通常通りに戻る。


「なんか急に現実って感じ」

「ねー・・・・どんどん廊下から色が消えていくよぉ・・・・現実に戻っちゃうよぉ・・・」


 嘆く凛をなだめていると、音央ちゃんが近づいてきた。


「ねーあかり!あまった段ボールってどうしろって話だったっけ?」

「2、3枚だったらそのままゴミとして出しちゃっていいってことだったけど・・・結構な量あるね・・・」

「そうなんだよねー、リサイクルボックスまで出しに行くしかないかー」

「量多いし手伝うよ」

「おっ!ありがとー、あともう一人ぐらい手が空いてそうな人つかまえるか」


 凛を誘おうかと思ったけど、凛は今解体作業なので手が離せそうにない。


「あ、桜ちゃん、これリサイクルボックスまで出しに行くんだけどいっしょに来てくれない?」

「えぇ?あたしぃ?他の人でいいじゃん・・・」

「あー・・・桜ちゃん話しやすいからつい・・・」

「・・・・まあしょうがないから手伝う」


 私と桜ちゃんの会話を聞いていた音央ちゃんがけらけら笑う。


「桜ちょろすぎだろ!そんであかりも桜の扱いわかってきてんじゃん!」

「っるさい!ちょろくない!もともと手伝うつもりだったし!」

「ツンデレかよ!」


 三人で話ながらリサイクルボックスまで向かう。

 こうやって話してると、夢のような学園祭期間だったけど、夢じゃないって思える。
 夢から覚めるみたいに廊下から色が消えていくけど、夢はまだ終わらない。

 学園祭期間にできた友達は変わらず友達であり続けるし、学園祭期間にできた思い出は私の中に残っている。

 そう思うとなんだか、さみしさが消えた気がした。


「・・・よっし、任務かんりょー!」


 リサイクルボックスに段ボールを捨てると、私は係の方の片付けに向かうため二人と別れた。

 準備した箇所を片付けるよう言われているので、中庭ステージに向かう。


「あ、チカさん!」

「じゃなくてチカラだ」

「あっ・・・そうでしたすみません・・・」


 チカラさんは先に来て片付けに取り掛かっていたようだ。
 にしてもチカラさん呼びはまだ慣れない・・・・。


「今どこまで終わってます?」

「大きい機材はだいたい運び終えた。あとは細々した機材の運び出しと、ステージの解体だけだ」

「あっ、結構終わっちゃってますね・・・、今から貢献します・・・!」


 少し遅れてしまった分を取り返すべく、全力で片付けに邁進していると、案外作業はすぐに終わった。
 リーダーからも無事合格をもらえた。


「お疲れ、九鬼さん」

「チカラさんこそお疲れ様です。じゃあ私、クラスのほうの片付けがあるのでこれで———」

「あ、待ってくれ」

「はい?」

「忘れる前に伝えておきたくてな。学園祭期間が終わったら二人で会わないかって話しただろう?」

「あ」


 チカラさんのクラスの出し物に行ったとき、確かにそんな話をした。


「えっと、私に何かお話があるってことですか・・・?」

「それはそうなんだが、ちょっと学校だと話しにくいから・・・できれば休日にあって話したいんだ。今週の土曜日は予定空いてるか?」

「空いてます」

「じゃあその日、会わないか?」

「・・・・わかりました」


 学校だと話しにくいこと・・・。
 一体何を話すつもりなんだろう。

 少し引っかかりを覚えたが、土曜日になってみればわかることだ。


 しかし約束をした次の日・・・火曜日の夜。

 突然クラス全体に向けて、学級委員の人が連絡してきた。


『今週の土日のどちらかで、クラスの打ち上げを行いたいと思います。土曜日と日曜日、どちらがいいか希望を教えて下さい』


 私はもちろん日曜日に投票した。

 しかし投票の結果は土曜日が勝利。


『土曜日に打ち上げを行います。場所や時間は決まり次第連絡します』


 学級委員の人からの連絡を見て思わずため息がもれた。


(せっかくだから行きたかったけど・・・無理かなぁ・・・)


 学園祭を通じてクラスの人と仲良くなれたんだから、打ち上げだってほんとは参加したい。
 けどチカラさんとの約束が先だったし———。


(・・・チカラさんは今週末会えるかって言ってたし、日曜でもいいのかな・・・・)


 諦めがつかず、ダメ元でチカラさんに連絡してみることにした。


『チカラさん!夜遅くにごめんなさい』


 続く文章を考えていると、思ったより早く既読がついた。


『どうした?』

『実は、土曜日にクラスの打ち上げをするらしくて・・・・。チカラさんが問題なければなんですけど、会うのを日曜にしてもらえないですか・・・?』


 思い切って送信。
 またもすぐ既読がつき、しばらくして返事が帰ってきた。


『すまない。逆に俺のクラスは日曜に打ち上げなんだ』


 タイミング・・・。
 タイミングが悪い・・・。


『そうでしたか・・・!じゃあ今の提案なしでお願いします・・・!』

『あ、まっえ』


 会話を終わらせそうになった私に焦ったのか、チカラさんが妙な言葉を送ってきた。


『すまない誤字った。待ってくれ』

『はい』

『俺との約束でクラスの打ち上げに行けないのはさすがに申し訳ない。来週末にしよう』

『いいんですか?』

『もちろんだ』


 と、そんなこんなでチカラさんとの約束は延期され————。
 土曜日には、クラスの打ち上げに行くことになった。