さあ、五日目。
文化祭最終日。
長く忙しかった文化祭準備期間、それを出し切った楽しい文化祭期間。
それももう、今日で終わりだ。
「まずいね・・・」
「うん」
「どうにかしてこの状況を打破しないと・・・」
そんな中、私のクラスは一つの問題に直面していた。
それは、来客数が足りないこと。
来客数は文化祭実行委員にかけあえば、すべてのクラスの今までの来客数を公開してくれる仕組み。
それによると、現在私たちのクラスは上から4位。
いいといえばいいけど、優勝を目指すなら正直トップスリーに入りたいところ。
「あかりー、何かいい案ないのー?」
音央ちゃんが私そう聞いてきた。
今私は、もともと凜とまわる予定だった時間を、宣伝にあてている。
というのも凜に急用が入ってしまったからなんだけど、代わりにクラスの友達たちと文化祭をまわりつつ宣伝しているのだ。
「いい案って言われたってなー・・・もう今からじゃ衣装足したりはできないし・・・」
「ほんとそれな、っていうか聞く前に自分で考えろっての音央」
いっしょにまわっているうちの一人、愛架ちゃんがそうつっこんだ。
今は四人でまわっていて、もともと音央ちゃん、愛架ちゃん、ののちゃんというよく一緒にいる三人に混ぜてもらった形。
「ののはちゃんと考えてるよ!」
「お、ののちゃんなにかひらめいた?何々?」
私が期待のこもったまなざしを向けると、ののちゃんはえっへんって感じで胸を張った。
「自撮りしてる人にまず、写真撮りましょうかって話しかけるの。そんでカチューシャとか渡して写真撮ってあげるの。これを出張サービスってことにして評価カード書いてもらえばこっちの勝ち!」
「・・・・意表を突いた素敵な案だけどなんかずるさが否めない・・・」
私のつっこみに、えー、とむくれるののちゃん。
いやでも普通にアウトな気がする。実行委員にバレたら何を言われるか・・・。
なんて考えていた私とは対照的に、音央ちゃんはノリノリ。
「あはは!やっぱ天才じゃん、のの!よっしゃそうと決まれば今すぐやろー!すみませー・・・」
「待って待って音央ちゃん!!たぶんそれアウトだからー!!」
行動力の塊のような音央ちゃんを必死になだめすかし、どうにか二人を説得して、そのこずるい案を却下した。
「えー?でもじゃあどうすんのさー」
「んー、そうだなぁ・・・」
私は必死に頭を回転させる。
けどひらめきなんてそう簡単に降ってくるものではない。
悩みながら廊下を歩いていたその時。
少し先に、人込みに囲まれる瀬名くんの姿を発見した。
私といっしょではないので、当然うさぎバージョンではない。
「・・・あ!」
瀬名くんを見た瞬間ひらめいた。
私は三人に少し待っておくよう伝え、瀬名くんのもとへ向かう。
ただでさえ人が混み合う文化祭だけど、瀬名くんの周りは一層混み合っている。
もみくちゃになりながらどうにか瀬名くんの前に躍り出ると、瀬名くんが私に気づいて目を丸くした。
「瀬名くん!お願いがあるんだけど!!」
「あかりちゃんから話しかけてくるなんて珍しいじゃん、どうしたの?」
「客寄せパンダになってくれない!?」
「・・・・ん?」
瀬名くんがわけがわからないといった表情で固まった。
「実はね、今音央ちゃんたちと宣伝しながら文化祭まわってたんだけど、そのときにね――――」
「あ、ちょ、ちょっと待って」
早く話したいのに瀬名くんにストップをかけられた。
「・・・音央ちゃんたちとまわってたって・・・音央ちゃんと愛架ちゃんとののちゃん?」
「そうだけど。でもそれは今重要じゃなくて・・・」
「凜ちゃんは?凜ちゃんとまわるっていうから俺あかりちゃんとまわるの諦めたのに」
ああもう、話が進まない。
重要なのはそこじゃないのに、なぜかよくわからないところにこだわる瀬名くん。
「凜ちゃんとまわる時間以外は俺とまわろって約束したじゃん」
「もとは凜とまわる予定だったけど、凜に急用が入っちゃったの」
「なら別に俺を誘ってくれればいいじゃん・・・」
すねている、っていうか不機嫌?
なぜ急にそうなったのかはよくわからないけど、そんな場合じゃないのに。
「もう、とりあえずそれは一旦気にしないでよ、大事なのはそこじゃないから・・・!」
「俺にとっては大事」
「・・・・・」
そんな事言われたって、と思って黙り込む私に、瀬名くんは一つため息をついて続きをうながしてきた。
「・・・まあいいや、それで、お願いって?」
「あのね、昨日の時点で私たちのクラスの来客数が4位なんだって。私たちの出し物の内容は生徒を狙いにしてるから、先生審査だとポイントが稼ぎにくいと思うんだ。だから来客数と来客の評価で稼がなきゃいけない」
「うん」
「そのために力を借りたいわけですよ・・・・・ミスターコン一位の瀬名くんに」
瀬名くんはすでに若干察したような顔をした。
「・・・・俺に一体何をさせる気なの?」
「まあ・・・今日に限り来客は瀬名くんとのツーショットが撮れる・・・っていうキャンペーンを・・・」
「・・・・・・」
瀬名くんが黙り込んでしまったので、やはり客寄せに使われるのは不服だったかと不安になる。
けれどそれは杞憂だったようだ。
「まあいいけど」
「ほんと・・・!?ありがとう!」
思わず飛び上がって喜ぶ私を見て、瀬名くんは大きなため息をこぼした。
「あかりちゃんってほんと人たらしだね」
「?・・・よくわからないけどこの人数に囲まれてる瀬名くんに言われてもなぁ・・・」
私は瀬名くんと、待たせていた音央ちゃんたちといっしょに教室に戻った。
教室の中は見た感じ繁盛しているようだったけど、まだまだ足りない。
戻る途中で見た三年一組のクラスはとんでもない長蛇の列ができていた。三年一組は人力ジェットコースターをやっていて、昨日の時点で来客一位だったはず。
「瀬名くん、はいこれ!」
私はペアカチューシャの片割れを瀬名くんに渡して、ぽんと肩をひとつ叩いた。
「期待してる!ミスターコン優勝者!!」
「・・・はあ・・・」
瀬名くんはやれやれって感じでため息をついた。
けどその割に、仕事をはじめると想像以上の働きをしてくれた。
さすがのコミュ力で場をまわし、瀬名くんといっしょにツーショットを撮った子たちはみんな最高評価をつけた評価カードを残していってくれた。
うわさがうわさを呼び、学園祭が始まって一時間もする頃には「一年二組の出し物ではあの瀬名くんとツーショットが撮れるらしい」という話題がそこかしこで飛び交っていた。
うちのクラスの前には他クラスを圧倒するくらいの人が並んでいて、さばいてもさばても回らないくらいの盛況ぶりだった。
「ミスターコン一位!瀬名 涼我とのツーショット!!今がラストチャンスです!あと2分で受付終了しまーす!!」
滑り込みで現れる女の子たちを列に並ばせ、約一時間半のツーショットは終了した。
最後にすでに並んでいる数十人をさばききると、瀬名くんはげっそりした感じでしゃがみこんだ。
「つっ・・かれた・・・・」
はーーーっと大きく息をついた瀬名くんに、私はあらかじめ屋台で買っておいたジュースを手渡す。
「お疲れ瀬名くん。瀬名くんのおかげですっごい繁盛してた!来客数絶対一位だよ!評価カードも最高評価ばっかだったし、ほんとに優勝できちゃうかも・・・!!」
「そりゃよかった・・・にしてもあかりちゃん人づかい荒い・・・・」
「うっ・・・そ、それはごめん」
ハイテンションから一転して神妙な感じで頭を下げると、瀬名くんはむーっと唇をとがらせてみせた。
「俺の苦労をごめんのたった三文字で済ませちゃう気?」
「う・・・はい、えっと・・・・なんでもします・・・・」
「ほーん、なんでも?」
私の言葉を待っていたかのように、瀬名くんがニヤッとした。
たぶんこれは・・・はめられたかもしれない。
「じゃーあ、後夜祭いっしょ過ごそ?」
後夜祭って言うのは、学園祭最終日の夜にあるイベントのこと。花火を見たり、実行委員による企画があったり。この学際期間で一番盛り上がるっていっても過言じゃないらしい。
「・・・・それだけでいいの?」
「いいよ」
「私は構わないけど・・・凜に許可取らなきゃ返事できないや。もともとは凜と過ごす予定だったし・・・」
「凜ちゃんには俺から言う」
「えっ」
「凜ちゃんがいいよって言ってくれたら俺と過ごす、それでいい?」
本当はあと30分もすれば凜と合流する予定なの、って。そのとき私が聞くよ、って。
そう答えればよかったけど、瀬名くんを見てるとなんだかそうする気にならなかった。
いや、なれなかった。
どこか凛々しいような・・・どこか覚悟をきめたような。
そんな表情をしていたから。
文化祭最終日。
長く忙しかった文化祭準備期間、それを出し切った楽しい文化祭期間。
それももう、今日で終わりだ。
「まずいね・・・」
「うん」
「どうにかしてこの状況を打破しないと・・・」
そんな中、私のクラスは一つの問題に直面していた。
それは、来客数が足りないこと。
来客数は文化祭実行委員にかけあえば、すべてのクラスの今までの来客数を公開してくれる仕組み。
それによると、現在私たちのクラスは上から4位。
いいといえばいいけど、優勝を目指すなら正直トップスリーに入りたいところ。
「あかりー、何かいい案ないのー?」
音央ちゃんが私そう聞いてきた。
今私は、もともと凜とまわる予定だった時間を、宣伝にあてている。
というのも凜に急用が入ってしまったからなんだけど、代わりにクラスの友達たちと文化祭をまわりつつ宣伝しているのだ。
「いい案って言われたってなー・・・もう今からじゃ衣装足したりはできないし・・・」
「ほんとそれな、っていうか聞く前に自分で考えろっての音央」
いっしょにまわっているうちの一人、愛架ちゃんがそうつっこんだ。
今は四人でまわっていて、もともと音央ちゃん、愛架ちゃん、ののちゃんというよく一緒にいる三人に混ぜてもらった形。
「ののはちゃんと考えてるよ!」
「お、ののちゃんなにかひらめいた?何々?」
私が期待のこもったまなざしを向けると、ののちゃんはえっへんって感じで胸を張った。
「自撮りしてる人にまず、写真撮りましょうかって話しかけるの。そんでカチューシャとか渡して写真撮ってあげるの。これを出張サービスってことにして評価カード書いてもらえばこっちの勝ち!」
「・・・・意表を突いた素敵な案だけどなんかずるさが否めない・・・」
私のつっこみに、えー、とむくれるののちゃん。
いやでも普通にアウトな気がする。実行委員にバレたら何を言われるか・・・。
なんて考えていた私とは対照的に、音央ちゃんはノリノリ。
「あはは!やっぱ天才じゃん、のの!よっしゃそうと決まれば今すぐやろー!すみませー・・・」
「待って待って音央ちゃん!!たぶんそれアウトだからー!!」
行動力の塊のような音央ちゃんを必死になだめすかし、どうにか二人を説得して、そのこずるい案を却下した。
「えー?でもじゃあどうすんのさー」
「んー、そうだなぁ・・・」
私は必死に頭を回転させる。
けどひらめきなんてそう簡単に降ってくるものではない。
悩みながら廊下を歩いていたその時。
少し先に、人込みに囲まれる瀬名くんの姿を発見した。
私といっしょではないので、当然うさぎバージョンではない。
「・・・あ!」
瀬名くんを見た瞬間ひらめいた。
私は三人に少し待っておくよう伝え、瀬名くんのもとへ向かう。
ただでさえ人が混み合う文化祭だけど、瀬名くんの周りは一層混み合っている。
もみくちゃになりながらどうにか瀬名くんの前に躍り出ると、瀬名くんが私に気づいて目を丸くした。
「瀬名くん!お願いがあるんだけど!!」
「あかりちゃんから話しかけてくるなんて珍しいじゃん、どうしたの?」
「客寄せパンダになってくれない!?」
「・・・・ん?」
瀬名くんがわけがわからないといった表情で固まった。
「実はね、今音央ちゃんたちと宣伝しながら文化祭まわってたんだけど、そのときにね――――」
「あ、ちょ、ちょっと待って」
早く話したいのに瀬名くんにストップをかけられた。
「・・・音央ちゃんたちとまわってたって・・・音央ちゃんと愛架ちゃんとののちゃん?」
「そうだけど。でもそれは今重要じゃなくて・・・」
「凜ちゃんは?凜ちゃんとまわるっていうから俺あかりちゃんとまわるの諦めたのに」
ああもう、話が進まない。
重要なのはそこじゃないのに、なぜかよくわからないところにこだわる瀬名くん。
「凜ちゃんとまわる時間以外は俺とまわろって約束したじゃん」
「もとは凜とまわる予定だったけど、凜に急用が入っちゃったの」
「なら別に俺を誘ってくれればいいじゃん・・・」
すねている、っていうか不機嫌?
なぜ急にそうなったのかはよくわからないけど、そんな場合じゃないのに。
「もう、とりあえずそれは一旦気にしないでよ、大事なのはそこじゃないから・・・!」
「俺にとっては大事」
「・・・・・」
そんな事言われたって、と思って黙り込む私に、瀬名くんは一つため息をついて続きをうながしてきた。
「・・・まあいいや、それで、お願いって?」
「あのね、昨日の時点で私たちのクラスの来客数が4位なんだって。私たちの出し物の内容は生徒を狙いにしてるから、先生審査だとポイントが稼ぎにくいと思うんだ。だから来客数と来客の評価で稼がなきゃいけない」
「うん」
「そのために力を借りたいわけですよ・・・・・ミスターコン一位の瀬名くんに」
瀬名くんはすでに若干察したような顔をした。
「・・・・俺に一体何をさせる気なの?」
「まあ・・・今日に限り来客は瀬名くんとのツーショットが撮れる・・・っていうキャンペーンを・・・」
「・・・・・・」
瀬名くんが黙り込んでしまったので、やはり客寄せに使われるのは不服だったかと不安になる。
けれどそれは杞憂だったようだ。
「まあいいけど」
「ほんと・・・!?ありがとう!」
思わず飛び上がって喜ぶ私を見て、瀬名くんは大きなため息をこぼした。
「あかりちゃんってほんと人たらしだね」
「?・・・よくわからないけどこの人数に囲まれてる瀬名くんに言われてもなぁ・・・」
私は瀬名くんと、待たせていた音央ちゃんたちといっしょに教室に戻った。
教室の中は見た感じ繁盛しているようだったけど、まだまだ足りない。
戻る途中で見た三年一組のクラスはとんでもない長蛇の列ができていた。三年一組は人力ジェットコースターをやっていて、昨日の時点で来客一位だったはず。
「瀬名くん、はいこれ!」
私はペアカチューシャの片割れを瀬名くんに渡して、ぽんと肩をひとつ叩いた。
「期待してる!ミスターコン優勝者!!」
「・・・はあ・・・」
瀬名くんはやれやれって感じでため息をついた。
けどその割に、仕事をはじめると想像以上の働きをしてくれた。
さすがのコミュ力で場をまわし、瀬名くんといっしょにツーショットを撮った子たちはみんな最高評価をつけた評価カードを残していってくれた。
うわさがうわさを呼び、学園祭が始まって一時間もする頃には「一年二組の出し物ではあの瀬名くんとツーショットが撮れるらしい」という話題がそこかしこで飛び交っていた。
うちのクラスの前には他クラスを圧倒するくらいの人が並んでいて、さばいてもさばても回らないくらいの盛況ぶりだった。
「ミスターコン一位!瀬名 涼我とのツーショット!!今がラストチャンスです!あと2分で受付終了しまーす!!」
滑り込みで現れる女の子たちを列に並ばせ、約一時間半のツーショットは終了した。
最後にすでに並んでいる数十人をさばききると、瀬名くんはげっそりした感じでしゃがみこんだ。
「つっ・・かれた・・・・」
はーーーっと大きく息をついた瀬名くんに、私はあらかじめ屋台で買っておいたジュースを手渡す。
「お疲れ瀬名くん。瀬名くんのおかげですっごい繁盛してた!来客数絶対一位だよ!評価カードも最高評価ばっかだったし、ほんとに優勝できちゃうかも・・・!!」
「そりゃよかった・・・にしてもあかりちゃん人づかい荒い・・・・」
「うっ・・・そ、それはごめん」
ハイテンションから一転して神妙な感じで頭を下げると、瀬名くんはむーっと唇をとがらせてみせた。
「俺の苦労をごめんのたった三文字で済ませちゃう気?」
「う・・・はい、えっと・・・・なんでもします・・・・」
「ほーん、なんでも?」
私の言葉を待っていたかのように、瀬名くんがニヤッとした。
たぶんこれは・・・はめられたかもしれない。
「じゃーあ、後夜祭いっしょ過ごそ?」
後夜祭って言うのは、学園祭最終日の夜にあるイベントのこと。花火を見たり、実行委員による企画があったり。この学際期間で一番盛り上がるっていっても過言じゃないらしい。
「・・・・それだけでいいの?」
「いいよ」
「私は構わないけど・・・凜に許可取らなきゃ返事できないや。もともとは凜と過ごす予定だったし・・・」
「凜ちゃんには俺から言う」
「えっ」
「凜ちゃんがいいよって言ってくれたら俺と過ごす、それでいい?」
本当はあと30分もすれば凜と合流する予定なの、って。そのとき私が聞くよ、って。
そう答えればよかったけど、瀬名くんを見てるとなんだかそうする気にならなかった。
いや、なれなかった。
どこか凛々しいような・・・どこか覚悟をきめたような。
そんな表情をしていたから。