さあ二日目が始まった。

 今日は全体の予定としては、まず縦割り対抗が行われる。体育館では合唱が、中庭ステージではダンスが披露されるようだ。
 それと並行して、部活ごとの出店がそこかしこで開かれる。

 私は縦割り対抗は演劇を選んでいるし、部活は入っていなので今日は仕事はない。しいて言えば途中ステージの点検兼清掃で30分ほど駆り出されるくらいか。


「さーっ!!まずどこ行く!?あかり!!」


 凜は後半から出店の店番と縦割り対抗の合唱が入っているらしいので、最初の二時間ほどをいっしょにまわることになっている。


「私は・・・・あ、同じ係の先輩が縦割り対抗でダンスに出るらしいからそれは見に行きたいかなぁ・・・あとは部活に入ってる子たちの出店見に行きたいかも」


 私の言葉で、凜はうんうんと大きくうなずいた。


「あかりほんと友達増えたねぇ・・・あたしゃうれしいよぉ・・・」

「母親みたいなこと言うじゃん・・・・まあ自分ですらそう思ってるよ。文化祭始まる前の私は想像もしてなかった」

「うんうん」

「だからそれ母親」


 凜と話しながら、私たちのクラスメイトの出店をいくつかまわる。


「おいし~!このフランクフルト、夏祭りのにも負けてないよ~っ!!」

「おいしいね」


 テニス部が出していたフランクフルトに、柔道部が出していたフルーツポンチを食べ、美術部のイラスト展示を見て、手芸部のブースでキーホルダーとシュシュを作った。

 そうしてそろそろチカさんの出るダンスステージが近づいてきたので、中庭に向かった。


「あ!あたしの部活の先輩も出てんだ。ていうかあかりの知り合いっていうのはどの人?」

「えっーとチカさんは・・・ちょっと右寄りの真ん中にいる、黒髪ベリーショートの人」

「えっ!あの人!?めっちゃくちゃ美人じゃん!!」


 ダンスは全員お揃いの黒スキニーに黒いタンクトップ、それに真っ赤なブレスレットをしていて、それがチカさんにすごく似合っていた。

 縦割り対抗ダンスはジャンル不問。
 チカさんたち二組合同グループは、ロックにときどきブレイキンをまぜたようなダンスで、ほれぼれするほどかっこよかった。

 チカさんは初めて出会ったときの出会い方からしてなんとなく想像はついていたけど、すごく運動神経がよく、ブレイキンでところどころソロを務めていた。


「すごぉ・・・・あかりの知り合いの先輩ほんとすごいじゃん!」

「期待しないで、みたいなこと言ってたのにすごすぎだよね・・・・、もしかして謙遜してたのかなぁ、あ、それともチカさん的にはこれでもまだ極め足りないってことなのか・・・」

「だとしたらとんでもないけどねぇ・・・」


 チカさんのダンスを見終っておしゃべりしていると、凜が時計を見上げはっとした顔をした。


「やばっ!私そろそろ出店の店番あるから行かなきゃ!!」

「あ、合唱も出店も、瀬名くんといっしょに見に行くからがんばってねー!」

「おうとも!」


 凜は頼もしい返事とともに駆けていった。

 さて、ここからは瀬名くんがいっしょにまわってくれるとのことだが・・・・。


(瀬名くんも今別の友達とまわってるんだっけ・・・?一応連絡して、返信来るのを待つか・・・)


 そう思ってスマホを開く。


『瀬名くん、凜が店番に向かったよ。瀬名くんの都合がよくなったら返信してね』


 するとすぐさま返信が来た。


『もう都合いい。B棟一階の階段下集合で大丈夫?』

『はやっ。今友達といたんじゃないの?』

『いや、あかりちゃん以外とは特に約束してないから、そこらへん歩いてて全員仲いいなってグループを転々としてただけ。いろんな奴と話せて結構おもしろかった』


 すごい芸当だ・・・・。
 私では絶対にできない・・・。

 友達が増えてきたとはいえ、他クラスの子とまわっている人も多い文化祭では、全員知り合いのグループを何個も見つけるなんて天地がひっくり返っても私じゃ無理だ。


『じゃあとりあえず、急いでその階段下向かうね』


 基本的に文化祭で使うのは教室棟なので、B棟なんてほとんど人がいないはずだ。

 向かってみると、やはり誰もいなさそうだった。
 というか、瀬名くんすらいない。


(あれ・・・?トイレ行ってるのかな・・・・)


 そう思って、念のため連絡を入れようとした矢先、背後から瀬名くんに呼ばれた。


「あかりちゃん」

「あ、瀬名く―――――――」


 振り返ってスマホを取り落とした。

 私の背後に立っていたのはでっかいうさぎの着ぐるみだったから。

 あまりの衝撃で開いた口が塞がらない。


「・・・・はぇ・・・・?」

「あかりちゃん、俺だよ俺」


 そう言って着ぐるみが頭部を外すと、中から瀬名くんが出てきた。


「・・・・な、なんでそんなん着てるの・・・・?」

「だって目立たないようにしろっていうから」

「逆に目立つよ!!っていうかどこからもってきたのそれ・・・・」

「演劇部の友達から部活の備品をこっそり借りた」

「そこまでして!?」


 開いた口はふさがったけど、今度は笑いが止まらない。

 そこまでする!?っていうおかしさもあるけど、何よりまんまるなうさぎのボディーに瀬名くん整った顔が乗っているアンバランスさがおかしすぎた。


「あ、あはははっ!!せっ・・・瀬名く・・・!!とっ、とりあえず・・・ふ、ふふっ!!頭!!頭被って・・・!!じゃないと笑い死ぬ・・・・っ!!」

「いやそこまで笑われると恥ずかしい・・・」


 そういいながら瀬名くんは言われた通り頭を被った。

 私は深呼吸をしてこみあげてくる思い出し笑いを蹴散らしたあと、瀬名くんに向きなおる。


「・・・・とりあえず・・・・それ被ってるともっと目立つから脱いでくれる・・・?」

「えー、わざわざこのために借りてきたのにぃ」

「策がある、なんて言ってた時点から嫌な予感はしてたけど、まさかここまでとは・・・・」

「まあそこまで言うなら一旦脱ぐけどさ・・・、たぶん後悔するよ?」

「?」


 私は瀬名くんの意味深な言葉にひっかかりを覚えつつも、ノーマルな状態にもどった瀬名くんとともに教室棟に戻った。

 そして瀬名くんの言っていた意味がわかった。


「あ、瀬名じゃん。あとで出店きてー!待ってるからねー!!」

「涼我くーん!!いっしょまわりたいって思ってたのにどこ行ってたのー!!」

「瀬名くん明日は空いてるー?」

「お、涼我。なんかおごってあげよっかー?」


 行く先々で話しかけられる・・・・。

 さっき瀬名くんがいろんなグループを転々としていたって話していたけど、これなら瀬名くんから話しかけなくたって自然と転々とするわってくらいの勢いで話しかけられていた。
 瀬名くんが数メートルごとに知り合いと遭遇するもんだから、一向に教室棟から出られない。


「・・・・だから言ったじゃん」


 むくれたような表情で言ってきた瀬名くんに心の中で土下座して、同じように何度も進行を阻まれながらもと来た道を帰った。


 そうしてどうにか最初の階段下にたどり着く。


「ま・・・、まさかここまでなんて・・・・」

「でしょー?ま、でも俺が目立ちすぎて逆にあかりちゃんは、目立ってなかったかもしれないけど」


 確かに、瀬名くんといっしょにいることで目立つかと思いきや、そこまで目立たなかった。
 というよりかは瀬名くんに話しかける人たちと面識がなさ過ぎてほぼ空気だった。

 一方で瀬名くんが着ぐるみを着た場合、私は着ぐるみと校内を練り歩く変な人として目立ってしまうような気が・・・・。

 とはいえあの状態では一生かかったって満足にまわれないので、着ぐるみ策に出るしかなさそうだ・・・。


「おし、着れたよー。じゃあ行こうか」


 隣を見れば着ぐるみ・・・。

 正直恥ずかしいし何ならたまにシュールすぎて笑いが止まらなくなったけど、無事教室棟を抜け、出店の方まで出ることができた。


「とりあえず凜ちゃんの出店行きたいんだったよね?」

「うん、瀬名くんは希望ある?」

「俺?俺は前半いろんな奴に連れまわされまくったからなー、今んとこ希望はないかな」


 話しながらバレー部のブースに向かう。

 それなりに繁盛しているみたいで、少し列ができていた。
 私はでかい着ぐるみとともにその列の後ろに並んだ。


「・・・・ねえ瀬名くん・・・、考えれば考えるほど不自然なんだけど・・・」

「えー、しょうがないじゃん」


 たぶん着ぐるみの中の瀬名くんは今口をとがらせている。
 まあ着ぐるみのうさぎはいつでも寸分たがわない満面の笑みを浮かべているけど。


「ていうかバレー部何売ってるの?これ」

「凜が言うにはミニパフェ売ってるって。どんな感じのパフェなんだろうね」


 そう話していると、あと一人というところで急に一人のバレー部員からグラスを渡された。

 中にはシリアルとチョコソースと生クリーム。


「・・・パフェの・・・下の層・・・?」

「もしかしてだけど、トッピング選ぶやつなんじゃない?」

「はっ!絶対そうだ!!」


 瀬名くんの読み通り、私たちの番が来て出店の中を見てみると、トッピング類がずらっと並んでいた。

 基本の金額が決まっていて、トッピングを足すほど高くつくみたい。


「おっ、あかり来てくれたんだ~!!」


 店番をしていた凜が私に気づく。

 そして私の隣のでかいうさぎに目を向けた瞬間、脳が情報を処理しきれなかったのか凜が固まった。


「―――――はっ!!びっくりしすぎて宇宙行ってた!!」

「あはは・・・、いろいろあってこんな状態なんだよね・・・」

「何があればこんなことに!?」

「それは後で話すね。とりあえず人並んでるからトッピング選んでいい?」

「あっ!うん!!」


 凜は私と瀬名くんの注文したトッピングを盛りつけている間もずっと、瀬名くん、もといでかい着ぐるみの方をチラチラ見ていた。


「じゃあ以上で」


 そう言ってお会計をしようとすると、凜に止められた。


「ちょっと待ってよあかりぃ!うちの部活無計画に企画しちゃったからこのパフェかなり売らないと赤字なんだよー!もうちょっと買ってってよぉ!」

「何やってんの・・・ちゃんと計画しないからじゃん・・・・」

「もう戻れないのに言わないでぇ・・・・。とにかくこのコスパ最悪の赤字パフェ店を救うためだと思ってさー、もっとトッピング盛ってよぉ・・・・」


 正直そこまでお腹は減っていないけど、しかたがない。
 これ以上凜と話して後ろの人を待たせるのもしのびない。


「わかったよ・・・じゃあ全種類のせる!これでいい?」

「ありがとう!!」


 凜の背後にも控えていた他の部員たちにも喝采を送られ、なぜか偉大な功績でもなした人のような気分でバレー部ブースを後にした。


「いやぁ、あかりちゃん太っ腹だねぇ、全部乗せなんて」

「い、今にもトッピングがこぼれそうだから早くどっか座って食べよ・・・!!」

「あ、この姿だと食べれないからB棟戻ろ?」

「今それ言うのぉ!?」


 私の悲痛な叫びもむなしく、今にもこぼれそうなパフェを手にどうにかB棟に戻った。


「はあ・・・・やっと座れた・・・」

「さ、食べよっか」


 二人して階段に並んで座り、パフェをほおばる。


「おいひぃ・・・!」

「ね、トッピング自由って言うの、珍しくていいね」

「まあ普通はコスパを考えて却下するからねぇ・・・」

「それはそうだね・・・」


 瀬名くんも私の言葉に苦笑をこぼした。

 まあ私たち二人は文化祭の準備期間中に毎日予算とにらめっこして胃を痛ませていたので、うちの学校のバレー部の能天気さには呆れを通り越して尊敬すら抱きそうだ。


「確かに最終的に意外と余って、装飾増やしたり個数限定で映えスイーツ用意したりしたもんね。俺らは逆にあのくらい気楽でよかったかもなぁ」

「いやあのくらい気楽だとさすがにまずいけど」

「あはは、それはそうだった」


 話しながらパフェを完食した。


「さ、こっからどうする?」

「うーん、瀬名くんは希望ないってことだし、縦割り対抗でも見にいってみる?」

「お、いいね。俺そっちは午前中ほとんど見れなかったからさー」

「私は2組合同のダンスだけ見たよ。ダンス結構盛り上がってて面白かった」

「じゃあダンス見に行ってみよ」


 その後は5組と1組と3組のダンスを見て時間を過ごした。

 ジャンル不問とは聞いていたけど、想像以上に不問だった。

 ヲタゲーを踊ってるところもあれば、Kpop風のダンスを踊っているところもあり、それに対抗してかふりっふりの衣装で地下アイドルのライブみたいなダンスをしているところもあった。

 こうして二日目の文化祭も、無事幕を閉じた。