突然だけど、吸血鬼って聞くと何を思い浮かべるだろうか。

 太陽光で死ぬとか、蝙蝠と深いかかわりがあることとか、十字架やにんにくが苦手とか。
 そういうイメージはいっぱいあるだろうけど、たぶん真っ先に浮かぶのは・・・・。


 名前の通り、血を吸うこと。


 私は元祖の吸血鬼じゃないので、血を吸わなくても生きていける。
 ただ、吸血衝動はある。

 飲まなくても生きていけるけど、飲みたくてたまらなくなるときがあるって感じだ。


「うーん・・・・、成り立ちとかどこにかいてあるのー・・・・?」


 今は体育の時間。
 そして私は恒例のレポート作成中。レポートって言っても教科書に載っている内容をまとめなおすだけの簡単なものだけど。

 苦労しながらレポートを進めるも、飽きてシャーペンを手放す。


「・・・・はあ・・・、私もこんなんより体育したい・・・・」


 吸血鬼は怪力なので、私も筋力には自信がある。そのおかげか、向き不向きはあってもどのスポーツもそこそここなせる。
 だからこそ、体育に参加できないことがこの上なく悔しい・・・・。


「いいなー・・・楽しそう・・・・」


 窓の外で体育をする同級生たちを見て、ため息をつく。
 ただどれだけ羨ましがっても、窓の外では夏を間近に控えた強い日差しがふり注いでいる。


「やばいぐらい暑そー・・・・」


 ほんと、やばいぐらい暑そうだ。
 見ているこっちまで喉が渇くくらい・・・・。


「・・・・・」


 ぼーっと外を眺めていた私の喉が、ごくりと音を立てる。


「やばっ・・・」


 慌てて目をそらすが、もう遅い。

 吸血衝動って、意識するとどんどん膨らんでいく。

 まるで、空腹感みたいに。
 お腹空きそう、って意識したとたんお腹空いてくるみたいに。

 喉乾いたかも、って意識したとたん――――


 血が、飲みたくなるみたいに。


(・・・・・っ!血が・・・飲みたい・・・・!!)


 ぎゅっと目をつむり、別のことを考えようとするのだが、血を飲みたいって感情で頭がいっぱいになる。

 荒い息をしながら、我慢しようと唇をかむ。


(よかった・・・一人の時で・・・・・)


 必死に耐えようと力を入れすぎて、唇から血が出てきた。
 痛いけど、正直気にならない。

 吸血衝動が出てるときは興奮状態になってるからかもしれない。


「・・・・・ぅ、・・・・・っ!」


 どうにか体育の時間が終わるまでに止めなければ。
 でも止めないと、とあせるばかりで、むしろあせればあせるほど衝動はおさまらない。


(血・・・・飲みたい・・・・!!けどだめ・・・っ!気持ち、おさえなきゃ・・・!!!そう、そうだ、とにかく気休めでも血を・・・・!!)


 あせりと、衝動と。

 荒波みたいな気持ちにせかされて。

 近づく足音にも気づかないまま、私は牙をむきだして自分の青白い腕に咬みついた。 


 そのまま、吸い付くと、自分のまずい血液が口に流れ込んでくる。
 そしてそれを、ごくりと飲み込んだ瞬間―――――。


「あかりちゃん・・・・?」