文化祭の最後の一週間。

 それはまさに戦場だった。
 授業間の休憩すら何かしらの準備や話し合いにあてられ、授業中は疲れと睡魔に命を削ぐ勢いで抗う。
 放課後や昼休みは言わずもがなで奔走した。

 こうして苦労に苦労を重ねた準備期間が過ぎ去り―――――。


 今日は待ちに待った文化祭!!


 私は月曜日とはいえど係の集まりがあるので今日は吸血はなし。


「おはようございます、チカさん」

「あ・・・、ああ、おはよう」

「・・・?」


 準備期間に集まったとき以来、久しぶりに会うチカさんは、なぜかよそよそしかった。


「どうしました・・・?体調でも悪いですか?・・・あ、このペットボトルの水、買ったばっかりなのでよかったら・・・・」

「あ、いや・・・大丈夫だ。気にしないでくれ」

「・・・・はい」


 私に気を使って空元気にふるまっているのかと思いきや、ステージ設営が始まるとすごい活躍で機材を運搬していた。


「すごいですねぇ、チカさん。男の子より力あるんじゃないですか・・・!?」

「あっ、えっ、いやそこまでではないぞ・・・!!」

「?」


 やっぱりよそよそしい・・・いやこれは慌てているほうか・・・?

 よくわからないけど私も係の仕事をこなさなければならない。
 チカさんの態度が気になりつつも運搬を終え、係のリーダーから合格をもらって解散となった。


 係の仕事をしていたからか、いつもは私より後に登校してくる瀬名くんがもうすでに席にいた。


「おはよう瀬名くん」

「ん、おはよ。今日から文化祭だから、約束通り絶対楽しませるから覚悟しててね?」

「楽しませるって言っても・・・今日はどうしようもないでしょ」


 5日間ある文化祭のうち、一日目は開祭式と各部活の発表を見るだけなので、自由にまわることができないのだ。


「まー、そうだけどさー、みんなもうすごいテンションだから」

「あはは、そうだよね。どこもかしこもすごい熱気だった」


 校門を入ってすぐから様々な装飾や、出店を出すためのテントが設営されており、校内に入れば各教室の前はクラスの出し物に向けた華やかな飾りつけがしてある。
 生徒たちも各クラスのクラスTシャツを着ているため、廊下中に色があふれかえっている。
 そしてなによりそれを着る生徒たちはみんなテンションマックスで、ぎりぎりまで準備に追われる声やどこをまわるかを話す騒ぎ声が絶え間ない。


「ちなみにあかりちゃん、文化祭中凜ちゃんとはどのくらいいっしょにいる予定?」

「凜は部活の方の出店にも、合唱の方にも、クラスの出し物にもそれぞれ顔を出さなきゃいけないみたいだから、それの合間を縫って2日目から5日目までそれぞれ一時間とか二時間くらいしかいっしょにはまわれないかなぁ」

「じゃあ残り時間は俺とまわれるわけだ」

「まあ・・・そうなるね・・・・っていうかちゃんと目立たないようにするんだよ?」

「わかってるって」


 本当にわかっているのかどうなのか・・・・。

 まあでも楽しそうな瀬名くんの様子を見ていると、まあいっかって思ってしまう。


 その日はやはりいっしょにまわれる時間はなくて、体育館で出し物を見て終わった。


 だけど吹奏楽部や軽音部、ダンス部、演劇部などが発表をする中、自分の友達がステージに上がっているのを見ると、すごく盛り上がるってことが初めてわかった。

 そしてクラスの中にこんなにたくさんの友達を作れたのは、瀬名くんのおかげ。

 近くにいなくても、いっしょに、まわれなくても、瀬名くんのおかげで最高にたのしい。


 そう思った瞬間、今すぐ瀬名くんのもとに駆け寄って、ありがとう!!って、瀬名くんが今私を楽しませてるんだよ!!って、伝えたいなって思ったの。