休日返上で文化祭準備に追われる土日を過ごし、月曜日が来た。
吸血は一週間ぶりのはずなのに、ものすごく久しぶりな感覚がした。
「あかりちゃん、久しぶりー」
教室に姿を現した瀬名くんは、そう言って私の隣に腰かける。
「久しぶりって・・・・文化祭準備で土曜も日曜も会ったじゃん」
「そうなんだけどさ、なんかこうやって吸血すんのめっちゃ久しぶりって感じするから」
「あ、それちょうど私も考えてた」
「まじ?気が合うじゃん」
私は瀬名くんが席に着いたことを確認すると、すぐに瀬名くんに近づいた。
「なんかやる気満々じゃん。喉乾いてる?」
「だって早く終わらせて文化祭準備進めたいもん」
「えー、ここにきてまでそれー?せっかく数少ない二人きりなのにさー」
確かに、ここ最近瀬名くんと二人っきりってほとんどない。
だから吸血が久しぶりに感じるのか。
「あかりちゃんは俺とおしゃべりしたいって思わないのー?」
「まあしたいにはしたいけど・・・」
「じゃあいいじゃん、ゆっくりしよーよ」
瀬名くんがそう言ったのとほぼ同時に、私のスマホが震えた。
そして、春ちゃんからの通知。
「あ、衣装のデザイン修正したから画像送ってきてくれたみたい」
「修正するの?」
「そう、思ったよりお金がかかりそうだったから、もうちょっと装飾を減らして、刺繡とかすれば安っぽく見えないよって話したの。修正版をなるべく早く確定したいから、春ちゃんに返信だけしてもいい?」
「いいよ」
瀬名くんを待たせるまいと、大急ぎで春ちゃんの送ってくれた衣装をチェックする。
素人なのでチェックなんて言っても大したことはできないけど、一応じっくり目を通す。
瀬名くんはぼんやりそんな私を見つめていたけど、急に口をひらいた。
「やっぱだめかも」
「え?何が?」
「やっぱ待てない。今吸血してくれないなら今日はなしにするー」
「え、何々なんで急にそんなこと言い出すの・・・!?」
「10秒以内に咬みついてねー。じゅーう、きゅーう・・・」
「わかったわかった!!」
さっきまで普通だったのに急に意地悪モードを発動してきた。
発動トリガーが本当に読めない。
「はーち、なーな・・・・」
「ちょっと待っててばー!」
スマホを置いて私が瀬名くんの肩に手を添えると、やっと瀬名くんはカウントをやめてくれた。
「何急に、もう・・・・」
そう言って見下ろした瀬名くんの表情は、なんか切なげで。
いつもからかってくるときの笑顔とは、雰囲気が違った。
でもなんでそんな表情をするのかもわからなくて、つい吸血するのを忘れてじっと見つめてしまった。
「・・・・どしたの?俺に見とれてる?」
そういってほほ笑んだ瀬名くんからはもう、さっきの切なそうな表情が消えていた。
気のせい・・・だったのだろうか・・・。
「違うから・・・飲むよ」
「ん」
牙を差し込んで、血を飲み込む。
流れ込んでくる甘露に、最後の一滴まで残さずなめとる。
「あかりちゃん・・・」
「ん?」
「もう終わった・・・?」
「待ってね、まだ完全に治りきってないから・・・あと5秒待ってて」
「ううん」
瀬名くんがそっと私の背中に手をまわしてきた。
「あと50秒、こうしてて」
私は驚いて思わず一瞬だけ傷を治すのをやめてしまったが、はっとして再開する。
「・・・・な、治ったけど・・・」
「まだ20秒くらいしかたってないよ」
「・・・な、なんで急にそんなこと言うの・・・」
急にこういうことをされると心臓に悪いからやめてほしい。
だいたい瀬名くんはいつも急だ。
前だって急に抱きしめてきて、急にこのまま吸血してなんていう無茶ぶりをかましてくるし。
「・・・・なんでだと思う?」
「し、知らないよ・・・」
なんでかなんて知るわけない。
っていうか私の質問に質問で返さないでよ。
そう思っているのに、瀬名くんは答えを教えてくれない。
しびれを切らして私は瀬名くんの方を向く。
(わ、近―――――!!)
抱きしめられているような姿勢なので当たり前だけど、瀬名くんの方を見てその近さを実感した。
けどよく考えるといつもこの距離感で吸血しているわけで、そう考えると改めて恥ずかしくなってくる。
「どしたの、そんな見て」
瀬名くんが私の視線に気づいて、こっちを向く。
「ちっ!?!?近いから!!!」
一歩間違えばキスするぞ!?と心の中で激しく突っ込みながら顔を真反対にぎゅいんっと勢いよく向けた。
「せ、瀬名くんが答えないから見てたんじゃん・・・!!っていうかもう50秒くらいたったでしょ・・・!?は、離してよ・・・!」
「まだだよー、まだ25秒」
「なわけないじゃん!!さっき20秒だったのにこの間に5秒しかたってないとかどんな世界!?」
「あははっ嘘嘘。もう1分以上たってる」
「やっぱそうじゃん!」
瀬名くんはまた笑って、そうしたあと名残惜しそうに私の背中に添えた手を離してくれた。
「からかってごめんね?」
からかったって表情じゃないじゃん、って心の中でつぶやいた。
瀬名くんは普段は飄々としているくせに、たまにさみしそうな、切なそうな表情をする。そしてこうやって柄にもなく甘えてくる。
その理由はわからないけれど、そんな瀬名くんを放ってはおけないって思ってしまう。
「・・・・デザインはさ、直接話し合って確定させるのがいいよね」
「・・・ん、何急に」
「だから今はしばらく瀬名くんとおしゃべりしようかなー・・・って」
空き教室行こ、と誘って立ち上がった私に、遅れてついてくる瀬名くん。
「・・・・ほんと、あかりちゃんって俺を沼らせるのがお上手だねー」
「何、なんで?」
「なんでも」
「答えになってないし」
瀬名くんは答えてくれなかったけど、いつもの表情に戻っていた。
それを見ると、やっぱり瀬名くんには笑っていてほしいなって、そう思った。
文化祭まで、あと6日。
吸血は一週間ぶりのはずなのに、ものすごく久しぶりな感覚がした。
「あかりちゃん、久しぶりー」
教室に姿を現した瀬名くんは、そう言って私の隣に腰かける。
「久しぶりって・・・・文化祭準備で土曜も日曜も会ったじゃん」
「そうなんだけどさ、なんかこうやって吸血すんのめっちゃ久しぶりって感じするから」
「あ、それちょうど私も考えてた」
「まじ?気が合うじゃん」
私は瀬名くんが席に着いたことを確認すると、すぐに瀬名くんに近づいた。
「なんかやる気満々じゃん。喉乾いてる?」
「だって早く終わらせて文化祭準備進めたいもん」
「えー、ここにきてまでそれー?せっかく数少ない二人きりなのにさー」
確かに、ここ最近瀬名くんと二人っきりってほとんどない。
だから吸血が久しぶりに感じるのか。
「あかりちゃんは俺とおしゃべりしたいって思わないのー?」
「まあしたいにはしたいけど・・・」
「じゃあいいじゃん、ゆっくりしよーよ」
瀬名くんがそう言ったのとほぼ同時に、私のスマホが震えた。
そして、春ちゃんからの通知。
「あ、衣装のデザイン修正したから画像送ってきてくれたみたい」
「修正するの?」
「そう、思ったよりお金がかかりそうだったから、もうちょっと装飾を減らして、刺繡とかすれば安っぽく見えないよって話したの。修正版をなるべく早く確定したいから、春ちゃんに返信だけしてもいい?」
「いいよ」
瀬名くんを待たせるまいと、大急ぎで春ちゃんの送ってくれた衣装をチェックする。
素人なのでチェックなんて言っても大したことはできないけど、一応じっくり目を通す。
瀬名くんはぼんやりそんな私を見つめていたけど、急に口をひらいた。
「やっぱだめかも」
「え?何が?」
「やっぱ待てない。今吸血してくれないなら今日はなしにするー」
「え、何々なんで急にそんなこと言い出すの・・・!?」
「10秒以内に咬みついてねー。じゅーう、きゅーう・・・」
「わかったわかった!!」
さっきまで普通だったのに急に意地悪モードを発動してきた。
発動トリガーが本当に読めない。
「はーち、なーな・・・・」
「ちょっと待っててばー!」
スマホを置いて私が瀬名くんの肩に手を添えると、やっと瀬名くんはカウントをやめてくれた。
「何急に、もう・・・・」
そう言って見下ろした瀬名くんの表情は、なんか切なげで。
いつもからかってくるときの笑顔とは、雰囲気が違った。
でもなんでそんな表情をするのかもわからなくて、つい吸血するのを忘れてじっと見つめてしまった。
「・・・・どしたの?俺に見とれてる?」
そういってほほ笑んだ瀬名くんからはもう、さっきの切なそうな表情が消えていた。
気のせい・・・だったのだろうか・・・。
「違うから・・・飲むよ」
「ん」
牙を差し込んで、血を飲み込む。
流れ込んでくる甘露に、最後の一滴まで残さずなめとる。
「あかりちゃん・・・」
「ん?」
「もう終わった・・・?」
「待ってね、まだ完全に治りきってないから・・・あと5秒待ってて」
「ううん」
瀬名くんがそっと私の背中に手をまわしてきた。
「あと50秒、こうしてて」
私は驚いて思わず一瞬だけ傷を治すのをやめてしまったが、はっとして再開する。
「・・・・な、治ったけど・・・」
「まだ20秒くらいしかたってないよ」
「・・・な、なんで急にそんなこと言うの・・・」
急にこういうことをされると心臓に悪いからやめてほしい。
だいたい瀬名くんはいつも急だ。
前だって急に抱きしめてきて、急にこのまま吸血してなんていう無茶ぶりをかましてくるし。
「・・・・なんでだと思う?」
「し、知らないよ・・・」
なんでかなんて知るわけない。
っていうか私の質問に質問で返さないでよ。
そう思っているのに、瀬名くんは答えを教えてくれない。
しびれを切らして私は瀬名くんの方を向く。
(わ、近―――――!!)
抱きしめられているような姿勢なので当たり前だけど、瀬名くんの方を見てその近さを実感した。
けどよく考えるといつもこの距離感で吸血しているわけで、そう考えると改めて恥ずかしくなってくる。
「どしたの、そんな見て」
瀬名くんが私の視線に気づいて、こっちを向く。
「ちっ!?!?近いから!!!」
一歩間違えばキスするぞ!?と心の中で激しく突っ込みながら顔を真反対にぎゅいんっと勢いよく向けた。
「せ、瀬名くんが答えないから見てたんじゃん・・・!!っていうかもう50秒くらいたったでしょ・・・!?は、離してよ・・・!」
「まだだよー、まだ25秒」
「なわけないじゃん!!さっき20秒だったのにこの間に5秒しかたってないとかどんな世界!?」
「あははっ嘘嘘。もう1分以上たってる」
「やっぱそうじゃん!」
瀬名くんはまた笑って、そうしたあと名残惜しそうに私の背中に添えた手を離してくれた。
「からかってごめんね?」
からかったって表情じゃないじゃん、って心の中でつぶやいた。
瀬名くんは普段は飄々としているくせに、たまにさみしそうな、切なそうな表情をする。そしてこうやって柄にもなく甘えてくる。
その理由はわからないけれど、そんな瀬名くんを放ってはおけないって思ってしまう。
「・・・・デザインはさ、直接話し合って確定させるのがいいよね」
「・・・ん、何急に」
「だから今はしばらく瀬名くんとおしゃべりしようかなー・・・って」
空き教室行こ、と誘って立ち上がった私に、遅れてついてくる瀬名くん。
「・・・・ほんと、あかりちゃんって俺を沼らせるのがお上手だねー」
「何、なんで?」
「なんでも」
「答えになってないし」
瀬名くんは答えてくれなかったけど、いつもの表情に戻っていた。
それを見ると、やっぱり瀬名くんには笑っていてほしいなって、そう思った。
文化祭まで、あと6日。