次の日に配られた台本を読んでみると、劇の制限時間との兼ね合いで、ありがたいことに私も瀬名くんもセリフがないようだった。
おかげで演劇の方は最低限通しの合わせにさえ出れば問題ないとのことだったので、クラスの出し物に専念できそうだ。
「瀬名くん回転率考えるとコスプレ衣装増やしたほうがいいと思うんだけどー」
帰宅部の人でも縦割り対抗で忙しい人が増え、結局毎日みたいに参加しているのは私と瀬名くんくらいになった。
「今何があったっけ?」
「メイドと和装とセーラー服、学ランくらいかな」
「和装、セーラー服、学ランは全部クラスの人がもってたやつだからもうちょっと費用割いてもよさそうだね。あと 二、三着用意してみる?」
「用意するなら何がいいだろう……」
「ネタ系ほしくない?」
「何それ思い浮かぶの?」
「んー……筋肉Tシャツとか?」
「あははっ!それいいかも」
その場にいた人にも意見を聞き、筋肉Tシャツと海賊の衣装とチャイナ服を入れることになった。
筋肉Tシャツはネット注文をし、チャイナ服と海賊は作ることに決まったので、また買い足しに行かなければならなくなった。
「にしても・・・、作るとなるとやっぱ手芸部の子の手助けがいるよね・・・、メイド服も絶対春ちゃんいなかったらむりだったし」
春ちゃんっていうのは手芸部の部員のこと。
うちのクラスで唯一の手芸部員。頼りになる存在だ。
私の言葉に瀬名くんがうなずいた。
「部活との兼ね合いもあるだろうし頼むなら早めに頼んでおいた方がいいよねー、今から行っちゃう?」
「手芸部って家庭科室で活動してるんだもんね。ごみ捨てついでに行ってみよっか」
私と瀬名くんは連れ立って教室を出た。
「ほんと廊下の隅々まで文化祭って感じだよねぇ・・・・」
教室に入りきらない出し物の部品が廊下にたくさん並んでいたり、廊下で何か作業をしていたり。
縦割り対抗の練習する声や、吹奏楽部とか軽音部の文化祭に向けた合奏が聞こえてきて、廊下ぜんぶ文化祭一色って感じ。
「うわー、三組のクオリティーやば」
「ほんとだ・・・・」
廊下に並ぶ部品から、他クラスの出し物を予想しながら家庭科室に向かった。
「あ、春ちゃんいた」
私は春ちゃんに向かって小さく手をふる。
でも春ちゃんは気づかない。
私は少し大きくもう一度手を振る。
でも春ちゃんは気づかない。
「ふ、ふふっ・・・・」
「何笑ってるの瀬名くん・・・」
「ふ、いやだってめっちゃ一生懸命な顔して呼んでんのに全然気づいてもらえてないから・・・・」
「笑ってないで瀬名くんも気づいてもらう努力してよ・・・!!」
こそこそ話していると部員の一人がこちらに気づいてくれて、その人を通じて春ちゃんを呼んでもらうことができた。
「どうしたのぉ?」
おっとりした性格の春ちゃんは、のんびり歩きながら私たちのもとにやってきた。
追加のコスプレとして、海賊の衣装とチャイナ服を作りたいから手伝ってほしいことを伝えた。
「いいけど・・・、でも二着どっちもわたしが指揮とるとミスが出そうな気がするけどだいじょうぶ・・・・?わたしほんとにおっちょこちょいでさ・・・・」
「もちろんミスしたからって責めるつもりはないけど・・・!!でも春ちゃんにばっかり負担が行くのはだめだよね・・・春ちゃん以外に裁縫得意な子いないかあたってみる」
「ありがとー。一応今日の夜デザインとかは仕上げて連絡するねぇ」
にこにこしてそう言ってくれた春ちゃんに感謝しながら、ごみ捨て場に向かう。
「春ちゃん以外に裁縫得意な子かー・・・、瀬名くん知らない?」
「えー、知らないなぁ・・・」
二人して頭を悩ませていると、ふと前を横切った女の子に気が付く。
「・・・・あ、綾野さん・・・!!」
綾野ひまわりさん。
最初に凜から連絡先を聞いて、私が連絡した子たちのうちの一人。
結局あの後まだ一度も音沙汰なく、教室にも顔を出していない。
「・・・・九鬼さん・・・」
「あ、あのっ・・・綾野さん、放課後は忙しい・・・ですか?」
「・・・あ、えっと・・・」
私は初対面の人との会話が苦手だけど、どうやらこの感じだと綾野さんも苦手みたい。
見かねた瀬名くんが助け舟に入ってきた。
「ひまわりちゃん、であってるよね?相変わらず出し物の準備が人手不足でさー、よかったら来てくれない?」
「あー・・・えっと、はい・・・」
「お、それは来てくれるってことでいいの?」
「あ、えっ、いや、そのっ」
ふと私は綾野さんのリュックにぶら下がったぬいぐるみに気が付く。何かわからないけどたぶんアニメのキャラだ。
何個もぶら下がってるけどぬいぐるみを見ていると、もしかしてと一つ思い至った。
「綾野さん・・・!も、もしかしてだけどこのぬいぐるみ自作・・・?」
「え、あ・・・」
戸惑った様子の綾野さんだったけど、こくんとうなずいた。
「今私たちコスプレの衣装作ろうと思ってて・・・!でも手芸部の子が一人しかいないんだよね・・・!綾野さん、裁縫とか得意なら、て、手伝ってほしい・・・・です!!」
「コ、コスプレ衣装・・・・って、何作るんですか・・・?」
初めて話に食いついてきてくれた。
この機会を逃すまいと私は話を続ける。
「チャイナ服と海賊の衣装・・・!ど、どうかな・・・?む、無理にとは言わないけど・・・・」
綾野さんは少しためらっていたようだけど、小さくうなずいた。
「て・・・、手伝います・・・」
「ほんとですか・・・!?じゃあ教室行こう・・・!!」
「え・・・、あの、その手に持ってるの、捨てなくていいんですか・・・?」
「あ」
そう言われてやっと気づいた。
瀬名くんが声を殺して笑っていたけど、無視して綾野さんと話しながらゴミ捨て場に向かう。
「綾野さん、手伝ってくれてありがとう。今の進捗は・・・」
「・・・あ、知って、ます・・・」
「・・・ん?」
「・・・・実は・・・、何回か、教室に顔を出そうと思ったんですけど・・・・、は、派手な人ばっかりだったから入っていきにくくて・・・」
うつむいて赤面しながら、綾野さんは言った。
「じゃあ今会えて本当に良かったです。綾野さんの優しさを、無駄にせずに済んだから」
「・・・!」
みんな忙しいし、みんなそれぞれに事情がある。
それでも着実に着実に、協力してくれる人が増えてきている。
文化祭一週間を切れば、最終下校が延びるので部活をしている人も参加できるようになる。
少しづつ、寄り集まって、寄り集まって、束になっていく。
結束ってまさにこういうことだ。
文化祭まで、あと9日!!
おかげで演劇の方は最低限通しの合わせにさえ出れば問題ないとのことだったので、クラスの出し物に専念できそうだ。
「瀬名くん回転率考えるとコスプレ衣装増やしたほうがいいと思うんだけどー」
帰宅部の人でも縦割り対抗で忙しい人が増え、結局毎日みたいに参加しているのは私と瀬名くんくらいになった。
「今何があったっけ?」
「メイドと和装とセーラー服、学ランくらいかな」
「和装、セーラー服、学ランは全部クラスの人がもってたやつだからもうちょっと費用割いてもよさそうだね。あと 二、三着用意してみる?」
「用意するなら何がいいだろう……」
「ネタ系ほしくない?」
「何それ思い浮かぶの?」
「んー……筋肉Tシャツとか?」
「あははっ!それいいかも」
その場にいた人にも意見を聞き、筋肉Tシャツと海賊の衣装とチャイナ服を入れることになった。
筋肉Tシャツはネット注文をし、チャイナ服と海賊は作ることに決まったので、また買い足しに行かなければならなくなった。
「にしても・・・、作るとなるとやっぱ手芸部の子の手助けがいるよね・・・、メイド服も絶対春ちゃんいなかったらむりだったし」
春ちゃんっていうのは手芸部の部員のこと。
うちのクラスで唯一の手芸部員。頼りになる存在だ。
私の言葉に瀬名くんがうなずいた。
「部活との兼ね合いもあるだろうし頼むなら早めに頼んでおいた方がいいよねー、今から行っちゃう?」
「手芸部って家庭科室で活動してるんだもんね。ごみ捨てついでに行ってみよっか」
私と瀬名くんは連れ立って教室を出た。
「ほんと廊下の隅々まで文化祭って感じだよねぇ・・・・」
教室に入りきらない出し物の部品が廊下にたくさん並んでいたり、廊下で何か作業をしていたり。
縦割り対抗の練習する声や、吹奏楽部とか軽音部の文化祭に向けた合奏が聞こえてきて、廊下ぜんぶ文化祭一色って感じ。
「うわー、三組のクオリティーやば」
「ほんとだ・・・・」
廊下に並ぶ部品から、他クラスの出し物を予想しながら家庭科室に向かった。
「あ、春ちゃんいた」
私は春ちゃんに向かって小さく手をふる。
でも春ちゃんは気づかない。
私は少し大きくもう一度手を振る。
でも春ちゃんは気づかない。
「ふ、ふふっ・・・・」
「何笑ってるの瀬名くん・・・」
「ふ、いやだってめっちゃ一生懸命な顔して呼んでんのに全然気づいてもらえてないから・・・・」
「笑ってないで瀬名くんも気づいてもらう努力してよ・・・!!」
こそこそ話していると部員の一人がこちらに気づいてくれて、その人を通じて春ちゃんを呼んでもらうことができた。
「どうしたのぉ?」
おっとりした性格の春ちゃんは、のんびり歩きながら私たちのもとにやってきた。
追加のコスプレとして、海賊の衣装とチャイナ服を作りたいから手伝ってほしいことを伝えた。
「いいけど・・・、でも二着どっちもわたしが指揮とるとミスが出そうな気がするけどだいじょうぶ・・・・?わたしほんとにおっちょこちょいでさ・・・・」
「もちろんミスしたからって責めるつもりはないけど・・・!!でも春ちゃんにばっかり負担が行くのはだめだよね・・・春ちゃん以外に裁縫得意な子いないかあたってみる」
「ありがとー。一応今日の夜デザインとかは仕上げて連絡するねぇ」
にこにこしてそう言ってくれた春ちゃんに感謝しながら、ごみ捨て場に向かう。
「春ちゃん以外に裁縫得意な子かー・・・、瀬名くん知らない?」
「えー、知らないなぁ・・・」
二人して頭を悩ませていると、ふと前を横切った女の子に気が付く。
「・・・・あ、綾野さん・・・!!」
綾野ひまわりさん。
最初に凜から連絡先を聞いて、私が連絡した子たちのうちの一人。
結局あの後まだ一度も音沙汰なく、教室にも顔を出していない。
「・・・・九鬼さん・・・」
「あ、あのっ・・・綾野さん、放課後は忙しい・・・ですか?」
「・・・あ、えっと・・・」
私は初対面の人との会話が苦手だけど、どうやらこの感じだと綾野さんも苦手みたい。
見かねた瀬名くんが助け舟に入ってきた。
「ひまわりちゃん、であってるよね?相変わらず出し物の準備が人手不足でさー、よかったら来てくれない?」
「あー・・・えっと、はい・・・」
「お、それは来てくれるってことでいいの?」
「あ、えっ、いや、そのっ」
ふと私は綾野さんのリュックにぶら下がったぬいぐるみに気が付く。何かわからないけどたぶんアニメのキャラだ。
何個もぶら下がってるけどぬいぐるみを見ていると、もしかしてと一つ思い至った。
「綾野さん・・・!も、もしかしてだけどこのぬいぐるみ自作・・・?」
「え、あ・・・」
戸惑った様子の綾野さんだったけど、こくんとうなずいた。
「今私たちコスプレの衣装作ろうと思ってて・・・!でも手芸部の子が一人しかいないんだよね・・・!綾野さん、裁縫とか得意なら、て、手伝ってほしい・・・・です!!」
「コ、コスプレ衣装・・・・って、何作るんですか・・・?」
初めて話に食いついてきてくれた。
この機会を逃すまいと私は話を続ける。
「チャイナ服と海賊の衣装・・・!ど、どうかな・・・?む、無理にとは言わないけど・・・・」
綾野さんは少しためらっていたようだけど、小さくうなずいた。
「て・・・、手伝います・・・」
「ほんとですか・・・!?じゃあ教室行こう・・・!!」
「え・・・、あの、その手に持ってるの、捨てなくていいんですか・・・?」
「あ」
そう言われてやっと気づいた。
瀬名くんが声を殺して笑っていたけど、無視して綾野さんと話しながらゴミ捨て場に向かう。
「綾野さん、手伝ってくれてありがとう。今の進捗は・・・」
「・・・あ、知って、ます・・・」
「・・・ん?」
「・・・・実は・・・、何回か、教室に顔を出そうと思ったんですけど・・・・、は、派手な人ばっかりだったから入っていきにくくて・・・」
うつむいて赤面しながら、綾野さんは言った。
「じゃあ今会えて本当に良かったです。綾野さんの優しさを、無駄にせずに済んだから」
「・・・!」
みんな忙しいし、みんなそれぞれに事情がある。
それでも着実に着実に、協力してくれる人が増えてきている。
文化祭一週間を切れば、最終下校が延びるので部活をしている人も参加できるようになる。
少しづつ、寄り集まって、寄り集まって、束になっていく。
結束ってまさにこういうことだ。
文化祭まで、あと9日!!