帰ってすぐ、凜に連絡すると、凜は二つ返事で連絡をまわすことを了解してくれた。

 何か手伝えることはあるかと聞くと、三人ほど連絡先を紹介してくれた。
 その中でしゃべったことがあるのは島崎(しまざき)さんだけで、あとの二人は綾野(あやの)ひまわりさんと寺井 夕(てらい ゆう)くんっていう話したことはないけど帰宅部の子。


(ほぼしゃべったことない子に連絡するのは勇気がいるけど・・・・瀬名くんも凜もがんばってるんだから、私もできることしなくちゃ・・・・!)


 もう目立つのが嫌とかそんななりふりを構ってはいられない。


『急に連絡してごめんなさい。クラスメイトの九鬼です。凜から連絡先を聞いて連絡しました。今文化祭期間だけど、集まりが悪くて困っています。放課後や土日がつぶれちゃうのは嫌かもしれないけど、三週間の間だけでも協力してがんばれたらと思っています。軽い気持ちでいいので、まずは少し顔を出してみませんか?』


 1時間ほど悩んで文章を作った結果、なんかよそよそしくてセールスメールみたいになってしまった・・・・。
 けど馴れ馴れしすぎるのも不快がられるんじゃ・・・・。

 悩んだけど思い切って三人に一斉送信する。


 明日・・・・、来てくれるといいな・・・・。



 凜と瀬名くんの努力の甲斐あってか、次の日の放課後の教室には何人か姿を見せてくれた。


「九鬼さーん!誘ってくれてありがとーね!!」


 そう言って私に近づいてきたのは、島崎さんだった。

 残念ながら島崎さん以外に連絡した綾野さんと寺井くんは来ていなかったけど、島崎さんが来てくれたおかげでほっと胸をなでおろすことができた。


「にしてもこのメンバー、あからさまだよねぇ」


 教室に残ったメンバーを見て島崎さんがつぶやく。

 今教室にいるのは、昨日と同じ5人に加えて、島崎さんをふくむ女子が4人。


「あからさまって・・・?」

「わかんないのー?鈍感だなぁ。昨日もいたっていう5人以外はさ、絶対涼我狙いでしょ」


 まあ私もそうだけど!と正直すぎる言動をしてからから笑う島崎さん。


「みんな瀬名くんが好きってこと・・・?」

「まあ好きとまではいかなくてもさ、推し、みたいな?どちらにせよ涼我がいるから来たって感じじゃん?」

「そっかー、それだけ瀬名くんが魅力的な人ってことだよね」

「うーん、やっぱし鈍感ー。否定はしないけどあたしが言いたいのはそうじゃなくてー・・・・」


 むむむっと眉間にしわをよせる島崎さん。

 でも瀬名くん目当てにしろ何にしろ、集まってくれたのならそれでいい。


「じゃあ昨日俺とあかりちゃんで考えたイメージ図をクラスのグループに送ったけどさ、今日はそれに必要な材料を―――――」


 瀬名くんはてきぱきと仕切ってくれて、その日のうちに材料集めと簡単な作業までかかることができた。

 島崎さんはみんな瀬名くん目当てなんて言ってたけど、作業が始まってみればみんなすごくてきぱき仕事をしてくれた。


「ねぇはさみどこー?」

「はさみこっち!」

「待ってこれ絶対段ボール足りない!!」

「そうおもって今何人かが段ボール取りに行ってる!」

「絵具なくなったんだが!はやっ!!」

「段ボールのついでに絵具調達するようラインするわー」


 私も負けじと延々にハートに使う用の紙の花を作っていく。


「わっ!これ一体なん個作ったのさ、九鬼さん」


 段ボール調達から帰ってきた島崎さんが話しかけてきた。


「うーんと・・・、10個ずつで固めてるから25個だね、今」

「これ全部ひとりで作ったわけ・・・!?」

「うん」

「よく集中続くねー!そだ、あたしも今調達終わったから手伝ってあげる!!これ何個作るの?」

「ハートの枠と教室の飾りつけにも使うし、60、70くらいはあっていいかもしれない」

「多っ!!うわぁ、これは長丁場になりそう・・・・」


 まだ初めてもないのに若干げっそりする島崎さんを見て、思わず笑ってしまう。

 しばらく二人で作業していると、今度は瀬名くんが話しかけてきた。


「うわすごっ、それいったいなん個作ったの?」


 あまりにも島崎さんと同じような反応をするもんだから、思わず島崎さんと顔を合わせて笑ってしまった。


「えっ、何々?なんで笑われてんの?俺」

「さっき島崎さんも同じ反応してたから」

「あー、そういうことね。にしても音央(ねお)ちゃんとあかりちゃんって意外と合うんだねー、この間も教室でなんか話してたし」

「あー・・・・」


 たぶん瀬名くんが言っているのは、島崎さんが席の交換をお願いしてきた時のことだ。

 島崎さんとまともに話したのはあの時が初めてだけど、どこか凜に似ているからかもっと前から知り合ったような気がしてしまう。


「あたしもまさか九鬼さんと話すようになるとは思わなかったわー。だって全然タイプ違うもんねー?」

「島崎さんは友達多いもんね」

「っていうか思ってたけど島崎さんっていうのやめない?」

「ん?やめる?」


 島﨑さんは花を作る手をいったん止めて、そう!と大きくうなずいた。


「下の名前で呼んでよ!あたし下の名前の方が気に入ってるしさ、その方が親しい感じもするじゃん?」

「じゃあ・・・・音央・・・さん?」

「さんじゃない、ちゃん!」

「ね、音央ちゃん・・・・」

「うん!!あたし普段ちゃん付けで人呼ばないからあかりって呼んでいい?」

「あっ、うん・・・!もちろん!!」


 あかり、なんて凜以外の同級生から初めて呼ばれた。


「音央ちゃん、だね・・・、音央ちゃん・・・」

「あははっ!そんなに練習する!?あかり!!」

「あっ!はい!!」


 威勢よく返事をしすぎて、音央ちゃんからも瀬名くんからも笑われた。
 だって呼ばれ慣れてないんだからしょうがない・・・・。

 うれしさでにやにやを隠しきれていない私を、瀬名くんがのぞきこんできた。


「よかったね、あかりちゃん」


 瀬名くんは、私が瀬名くん以外に友達がいないことを知っている。
 それが吸血鬼の秘密のせいだってことも。

 それでも心の奥底で友達ってものに憧れていることに、気づいていたのかもしれない。


「・・・うん・・・!」


 私がそう答えたあと、急に別の作業をしていた子たちに呼ばれる。


「おーい、イメージ図作った二人一旦こっち来てー。ここごちゃごちゃしすぎてわかんないんだけどー!」


 私と瀬名くんは、思わず顔を見合わせる。


「ふっ、ふふ・・・・っごちゃごちゃだって、あかりちゃん・・・・ドンマイ・・・」

「違っ・・・!瀬名くんが勝手にいろいろ描き足すからでしょ・・・っ!!」

「あの子たちが今もってるの教室配置の図だから俺かき足してないしー」

「うぐっ・・・・」


 わざとらしく悔しそうな表情を作ると、それを見た瀬名くんが肩を揺らして笑う。


「あははっ!何、歯になんか詰まった?」

「いや悔しそうな顔してるつもりなんだけど!」

「ほんと?見えないなぁ」


 話し込む私たちに、再度催促の声がかかった。


「早く来てーもー!」

「あっはい!今行くね!!」


 あわてて走り出す私たち。

 文化祭まで、あと20日!!