文化祭期間は三週間。
 長いように思えて、実際はあっという間の期間だろう。

 だからそうのんびりもしていられない・・・・、


 はずなんだけど。


「ぜんっぜん集まってないしー・・・!!」


 そう、うちのクラス、大変集まりが悪かった。
 今教室内に残っているのはたったの5人。

 学級委員の二人、私と凜と瀬名くん。


「私だって部活あるけどぎりぎりまでこっちで粘るんだからなー!!みんなも粘れよぉぉ!!」


 凜が怒りの叫びをとどろかせる。

 こんなに集まりが悪いことの一番の原因は、部活。
 私は部活には入っていないけど、ほとんどの人が何かしらの部活に入っている。しかもうちの部活はそれなりに盛んなので、週一だけとか週二だけ、みたいな部活があまり存在しない。


「そっかー・・・、部活か。でも入ってない人も何人かいるでしょ?俺からその人たちに声かけてみるね」


 瀬名くんはそう言ってスマホを取り出す。
 こういうときは本当に、瀬名くんの人望が身に染みてありがたい。


「あの・・・、言いにくいんだけど、これからクラスの出し物に関しての学級委員の集まりがあって・・・、そろそろ行かなきゃ・・・・なんだけど・・・・」


 学級委員のうちの一人、水本(みずもと)さんがそう言った。


「そっか、それはしかたないよね。むしろクラスを代表してお礼言わなきゃってくらいじゃん」


 笑って送り出す瀬名くんを見てか、学級委員の子たちはほっとしたように教室を出て行った。


「うー、どうしよ、私も部活の時間がやばいんだけどなぁ・・・」

「凜、ほんとに大丈夫?あと5分くらいなんじゃ―――――」


 私が心配したのも束の間、教室の外から大声で凜を呼ぶ声が響いた。


「凜ーーっ!!先輩が呼んでるよーーっ!!今日部室開ける係でしょー!!」

「はっ!!」


 凜はその声で一瞬にして真っ青になったかと思うと、目にもとまらぬ速さでカバンをひっつかみ走り出した。

 かと思えば、入り口あたりでくるりと回れ右して瀬名くんに迫る。


「瀬名くん!!あかりはほんとまとめるのとか苦手なの!!だからうちのクラスの命運は瀬名くんにかかってるの!!どうかどうかお願いいたします!!明日もぎりぎりまで残るので許して下さ――――い!!!」


 叫びながら最後にはもう教室を飛び出していた。


「あはは・・・、やっぱ嵐みたいな子だなぁ凜ちゃん・・・」


 さすがの瀬名くんも呆れたような感想を残した。


「せ、瀬名くん、ちなみにさっき連絡した子たちから返信はあった・・・・っ?」

「んー・・・、全員からかえってきたわけじゃないけど急に誘ったからからかやっぱ難しそうな子が多いなー・・・」

「そっかー・・・・」


 どうしたらいいのかわからない。
 打つ手なしとは、まさにこのこと。


「・・・・・」

「せっ!瀬名くん!!凜はさっきああ言ってたけど、私もがんばるから!二人でがんばろ!できることしてこ!」

「ん、そうだね。二人でがんばろっか」


 そう言って瀬名くんは優しく笑ったけど、突然うつむいてしまった。


「・・・ごめんね、楽しませるって言ったけど、うまくいかないかも・・・・」

「ううんっ!!瀬名くんのせいじゃないし・・・!!」


 私の言葉にも、まだ浮かない表情をする瀬名くん。


「・・・・・俺、実は中学のときはあっち側でさ」

「あっち?」

「楽な方に楽な方にって生きてたから、帰宅部だったけど準備とか参加してなかったんだ。だからなんか、俺のせいじゃない・・・とも、思いきれなくて。今サボってる人たちと俺は同じようなもんだし」


 話す間うつむいていた瀬名くんだったけど、すぐに切り替えて顔をあげた。


「・・・なんて言ってもしかたないよね。時間ないんだし、急がなきゃね」

「・・・・私!!」


 思わず、瀬名くんに何か言ってあげなきゃって思って、考えるより先に声が出た。

 何を言うかなんて何にも決まってないけど、見切り発車で話始めるしかない・・・!!


「瀬名くんといっしょにいられるなら楽しいよ!!」


 ・・・こんなんじゃダメな気がする・・・。

 なんか瀬名くんの話のアンサーになってない気がする・・・。
 でももう戻れない。
 話すしかない。


「私が楽しいかどうかを決めるのは瀬名くんじゃなくて私だし・・・!瀬名くんがどう思ってようと、私が楽しかったらそれでいいんじゃん!!ちゅ、中学がどうとか知らないよ!だって私が瀬名くんと会ったの高校からだもん!だから中学がどうとか私には関係ない!だ、だからいっしょにいて楽しかったらそれでいいじゃん!?サボってる人と同じとか今は関係ない!ここに、私といっしょにいてくれるからそれでいいじゃん・・・!」

「あかりちゃん・・・・」


 あせりすぎてめちゃくちゃな文章になってしまった気もするけど、どうにか言い切った。

 瀬名くんは感動したっぽい表情をしたかと思ったのに、なぜか急に笑い出す。


「ふ、あははっ、必死すぎでしょ・・・・」

「だ、だって・・・・瀬名くんになんか言わなきゃって焦ってたから・・・」

「そっかそっか。ありがとね」


 瀬名くんはいつも通りの笑みを浮かべると、私の頭をなでた。


「じゃあ、楽しんでもらえるように、文化祭の間はずっといっしょにいるね?」

「そ、そういうことじゃない!目立つからダメってこないだも―――――」

「あははっ!さすがに冗談。ずっとは無理だよ、係も違うし」

「そ、そうだよね・・・」


 よかった冗談で。


「じゃあまあできることからやりますか」


 そう言って腕まくりをした瀬名くんに、そういえばと、さっき付け加え忘れたことを伝える。


「さっき言い忘れたけどさ」

「うん?」

「私が楽しければいいって言ったけどあれは言葉の綾で・・・・瀬名くんにも楽しんでほしい。・・・それで私たち二人ともが楽しそうすぎて他の人が思わず参加しちゃうようになれば・・・・最高、だよね」

「あはは、それは最っ高だね」


 道のりは長いけど。

 あなたといっしょなら、歩いていける気がするよ。

 瀬名くん。