約束通り、瀬名くんは次の吸血の日、あのネックレスを見せてくれた。
「こういうつもりで贈ってくれたんでしょ?」
なんて言いながら、シルバーが輝く首筋を差し出してくるものだから、緊張でどきどきが止まらなかった。
私が一口血を飲み込むたび、耳元でチェーンのゆれる金属音がチャリチャリなっていて、そのたびにまた緊張が高まった。
だけど問題は、そのあと教室で再会したときのこと。
「おはよ、あかりちゃん」
「おはよ、瀬名く――――――」
挨拶とともに瀬名くんを見た瞬間、驚きで固まる。
「・・・・・っちょ」
「ん?」
にやにやしながら私をのぞきこむ瀬名くんの首には、シルバーのネックレスが揺れていた。
(ね、ネックレスつけるのは吸血の時だけで、授業までには外すって約束でしょうが!!!)
そう思って全力でにらみつけるが、にやにやしたまま外そうとはしない。
「えー?何々あかりちゃん」
「っ!!なっ、なんでもない・・・!!」
私が教室では瀬名くんと必要以上話さないのをいいことにこんなからかい方をしてくるなんて・・・!
そんな私を見て瀬名くんはこらえきれないって感じで肩をゆらしながら、何事もなかったかのように友達との会話に戻っていった。
しばらくして先生が教室に入ってきた。
「はい席につけー」
そう促されてみんなが慌てて席についたのを確認して、先生は口を開く。
「みんなわかってると思うが、今週から文化祭準備期間に入る。今日の一時間目が授業変更でホームルームになったのは、係決めやらクラスの出し物やらを決めるためだ。この時間内に決まらなかったら放課後とか使うことになるからな、パパッと決めちゃってくれ」
先生はそう言って学級委員にバトンタッチした。
決めることは三つ。
一つ目は係決め。
文化祭中、または準備期間中やるべき雑務を役割分担するものだ。
これは一年〜三年まで全員がどれかの係を担当しなければならない。
二つ目は縦割り対抗の参加者決め。
縦割り対抗っていうのは、一年一組、二年一組、三年一組って感じで、組ごとにグループになって競うってこと。
縦割り対抗は合唱、演劇、ダンスの三種類があって、それぞれ三学年合同で約30人のメンバーで発表を行う。
例えば合唱で一組合同チームが勝った場合、一年一組、二年一組、三年一組に得点が行くって感じ。
三つ目はクラスの出し物決め。
クラスごとに出し物をするから、その内容について決めなければいけない。
これは普通にクラス対抗だから、勝ったクラスにのみ得点が行く。
「じゃあまず係決めからいきまーす」
そういって学級委員は前に係の名前をつらつら書き連ねていく。
「とりあえず希望の係のところに各自名前を書いていってくださーい。被りが発生したところをあとで調整しまーす」
私はどうしようか、と迷う。
被ってこんな余計なことで目立つのは嫌なので、被りが発生しなさそうなところを希望することにした。
となると楽そうな係は避けないといけない。
二人組、三人組の係は友達といっしょの係がいいって子と被りそうだからこちらも却下。
「あかりちゃんはどれに書く?」
ざわざわした教室の中、こそっと瀬名くんが話しかけてきた。
被りを避けるとなると・・・・。
「うーん・・・・、ステージ設営、かなぁ・・・・」
当日のセッティングで早起きしなければならないし、ちょくちょく文化祭中も仕事が舞い込むしでまあまあ大変な係。しかも定員は各クラス一名。
この係なら被らずすんなり決まりそうだ。
「えー、超だるし一人だけのやつじゃん。いっしょの係にできないじゃん」
「別に係までいっしょにしなくたっていいでしょ。ちなみに瀬名くんは?」
「んー・・・、あかりちゃんといっしょのって思ってたのにできないしなぁ・・・・」
「何と言おうと私は変えないからね」
「はいはい、もー、頑固だなぁ・・・・。だったらまあ楽そうだし記録係?」
「絶対それ誰かと被るって・・・・」
「被ったら被ったでまあしょーがない」
お互い席を立つと、名前を書きに行く。
案の定、ステージ設営係を希望しているのは私だけだった。
ステージ設営の係に確定の赤丸が付いた瞬間は心の中で小さくガッツポーズをした。
そして瀬名くんはやはり数人と希望が被り、じゃんけんの末、司会進行係というめちゃくちゃめんどくさそうな係になっていた。
「司会進行って何・・・・なんの司会させられんの俺・・・・」
「さっき学級委員が説明してたでしょ。自由発表とか、縦割り対抗の司会進行だよ」
「えー・・・・、絶対仕事多いー・・・・」
だから忠告したのに、と思ったけどまあ口には出さないでおいた。
お次は縦割り対抗に出る人を決める。
とはいえ「出る人」なんて言ってるけど、単純に考えれば三種目ある中で一種目につき10人選出、となると必然的にひとり一種目は出なければならない。
免除がゆるされるのは文化祭実行委員の人とか、学級委員とかくらいだろう。
「あかりちゃんどれにする?今度こそおんなじのしよ」
「はいはい。合唱とダンスって絶対全員ステージに立たされる奴だよね・・・」
「そうだねー、目立ちたくないあかりちゃんとしては演劇の裏方志望?」
「そうなるかなー」
また希望するところに名前を書く方式になったので、演劇のところに名前を書く。
他のクラスがどうかはわからないけど、うちのクラスは演劇が一番人気で、合唱が一番不人気だった。
まあ演劇が人気っていうのはもしかしたら瀬名くんが希望してたからって可能性も考えられるけど・・・・。
けれど女子数人がまとまって合唱に行ってくれたおかげで、私と瀬名くんはどちらも演劇になれた。
その女の子たちには心の中でめいっぱいお礼の言葉を叫んだ。
最後はクラスの出し物決めだ。
「じゃあこれは挙手でアイデア出す感じでいいですかー?」
「はい!!」
やる気満々な誰かがさっそく手を挙げたと思えばまさかの凜だった。
「メイド喫茶やりたいです!!」
凜のセリフに、一部の男子がおぉ~と拍手を送った。
ホワイトボードにメイド喫茶、と書かれる。
その他にも和装カフェ、お化け屋敷などが出る。
「でもさー、王道なやつだと他のクラスと被るんじゃねー?」
「確かに。メイド喫茶とかお化け屋敷やるって言ってた三年生いたもん。三年と被るとちょっと不利だよね」
そう意見が出たのを皮切りに、話し合いが停滞した。
確かに他学年と被ると若干不利かもしれない。
勝手がわかっている三年生や二年生に勝つには、それなりな工夫がいりそうだ。
「じゃあ近くの人と話し合ってくださーい。ちょっとした案でもじゃんじゃん出してねー」
とは言っても、斬新な案なんてなかなか出てこない。
瀬名くんは私の方を向いて、困ったように腕を組んだ。
「メイド喫茶、和装カフェ、お化け屋敷・・・・、どれもいいんだけどねー・・・」
「そうだよね。凜もメイドやりたいって息巻いてたし」
「絶対うちのクラスの女子ならみんなかわいくなるはずだもん。あかりちゃんはコスプレしても絶対かわいい」
「通常運転だね瀬名くん・・・・」
そこでふと、コスプレ、という言葉に引っ掛かる。
「・・・・コスプレなら、カフェじゃなくてもいいよね」
私の言葉に瀬名くんが少し反応した。
「ん?・・・・カフェ以外っていうと例えば?」
「例えば・・・そうだなぁ・・・・、コスプレできるフォトスポットとか?」
「フォトスポット!めっちゃいいじゃん」
「そ、そう?でもインパクトに欠けるかなとも思っちゃうけど・・・」
「むしろ内装以外にお金かけなくていいなら、時間さえかければインパクトある見た目にできるんじゃない?」
「あー・・・、そう、なのかな。まあ思い付きで言っちゃったしこの程度の案は・・・」
そう言いかけたけれど、次の瞬間にはもう瀬名くんが手を挙げていた。
あてられてすぐさま立ち上がる瀬名くん。
「ちょっとした案でもいいんだよね?」
「もちろん!どうぞー」
「フォトスポットとかどうかなって。メイド服とか和装とかいろんなコスプレ使って自由に写真撮影できるようにしてさ。他にも映えそうな内装作ったり、プリクラみたいにデコれるようにしたり。あ、トリックアートとかもいいかも。文化祭のときってみんなそこかしこでツーショットとか撮ってるからさー、こういうスペースあれば何気にみんな来るんじゃないかと思って」
「いいね!来客数は優勝決めるときに結構重要らしいし!」
学級委員はそう言ってホワイトボードにフォトスポット、と書いた。
「・・・・あかりちゃんは目立ちたくないかなって思って俺の意見みたいにして発表しちゃったけどよかった?」
瀬名くんは発表後、そんな風に気遣ってくれた。気にしなくていいのに。
「だめなわけないし、むしろありがとうだよ。目立ちたくないってだけじゃなくて、瀬名くんが付け足してくれたからすごくいい意見になったもん」
「そっか、それはよかった」
瀬名くんの意見を皮切りに、楽器をいっぱい置いておいて集まった人で即興演奏ができる空間を作る、とか、花火大会(どうやってやるつもりなんだろう・・・?)とか、人間将棋とか、リアルポケ〇ンバトルとか、王道なもの以外の意見がいくつも集まった。
けど現実的に考えて、予算、規模、割ける人員、技術などを考慮すると難しい案も多かった。
「じゃあこの中から多数決で決めるけど、くれぐれもおふざけで実現不可能なやつに入れるとかはやめてくださいねー」
そうして多数決の結果、フォトスポットが一位。
「やったじゃん、あかりちゃん」
多数決の結果が出た瞬間、瀬名くんが自分のことのように嬉しそうにこっちを向いた。
「私じゃないよ。私が思い付きで言ったような案を、瀬名くんがちゃんとしたものにして発表してくれたんでしょ?」
「でもじゃあやっぱあかりちゃんが発案ってことじゃん?」
「まあ元はそうだけど・・・、私の意見だけだったら絶対却下されてたし・・・・」
「じゃあ二人のアイデアってことだ。俺らの力が合わさったってことで」
瀬名くんがそう言って笑うから、私の顔も思わずほころんでしまった。
「ふふっ、ならそういうことにしようか」
さあ、文化祭がやってくる―――――。
「こういうつもりで贈ってくれたんでしょ?」
なんて言いながら、シルバーが輝く首筋を差し出してくるものだから、緊張でどきどきが止まらなかった。
私が一口血を飲み込むたび、耳元でチェーンのゆれる金属音がチャリチャリなっていて、そのたびにまた緊張が高まった。
だけど問題は、そのあと教室で再会したときのこと。
「おはよ、あかりちゃん」
「おはよ、瀬名く――――――」
挨拶とともに瀬名くんを見た瞬間、驚きで固まる。
「・・・・・っちょ」
「ん?」
にやにやしながら私をのぞきこむ瀬名くんの首には、シルバーのネックレスが揺れていた。
(ね、ネックレスつけるのは吸血の時だけで、授業までには外すって約束でしょうが!!!)
そう思って全力でにらみつけるが、にやにやしたまま外そうとはしない。
「えー?何々あかりちゃん」
「っ!!なっ、なんでもない・・・!!」
私が教室では瀬名くんと必要以上話さないのをいいことにこんなからかい方をしてくるなんて・・・!
そんな私を見て瀬名くんはこらえきれないって感じで肩をゆらしながら、何事もなかったかのように友達との会話に戻っていった。
しばらくして先生が教室に入ってきた。
「はい席につけー」
そう促されてみんなが慌てて席についたのを確認して、先生は口を開く。
「みんなわかってると思うが、今週から文化祭準備期間に入る。今日の一時間目が授業変更でホームルームになったのは、係決めやらクラスの出し物やらを決めるためだ。この時間内に決まらなかったら放課後とか使うことになるからな、パパッと決めちゃってくれ」
先生はそう言って学級委員にバトンタッチした。
決めることは三つ。
一つ目は係決め。
文化祭中、または準備期間中やるべき雑務を役割分担するものだ。
これは一年〜三年まで全員がどれかの係を担当しなければならない。
二つ目は縦割り対抗の参加者決め。
縦割り対抗っていうのは、一年一組、二年一組、三年一組って感じで、組ごとにグループになって競うってこと。
縦割り対抗は合唱、演劇、ダンスの三種類があって、それぞれ三学年合同で約30人のメンバーで発表を行う。
例えば合唱で一組合同チームが勝った場合、一年一組、二年一組、三年一組に得点が行くって感じ。
三つ目はクラスの出し物決め。
クラスごとに出し物をするから、その内容について決めなければいけない。
これは普通にクラス対抗だから、勝ったクラスにのみ得点が行く。
「じゃあまず係決めからいきまーす」
そういって学級委員は前に係の名前をつらつら書き連ねていく。
「とりあえず希望の係のところに各自名前を書いていってくださーい。被りが発生したところをあとで調整しまーす」
私はどうしようか、と迷う。
被ってこんな余計なことで目立つのは嫌なので、被りが発生しなさそうなところを希望することにした。
となると楽そうな係は避けないといけない。
二人組、三人組の係は友達といっしょの係がいいって子と被りそうだからこちらも却下。
「あかりちゃんはどれに書く?」
ざわざわした教室の中、こそっと瀬名くんが話しかけてきた。
被りを避けるとなると・・・・。
「うーん・・・・、ステージ設営、かなぁ・・・・」
当日のセッティングで早起きしなければならないし、ちょくちょく文化祭中も仕事が舞い込むしでまあまあ大変な係。しかも定員は各クラス一名。
この係なら被らずすんなり決まりそうだ。
「えー、超だるし一人だけのやつじゃん。いっしょの係にできないじゃん」
「別に係までいっしょにしなくたっていいでしょ。ちなみに瀬名くんは?」
「んー・・・、あかりちゃんといっしょのって思ってたのにできないしなぁ・・・・」
「何と言おうと私は変えないからね」
「はいはい、もー、頑固だなぁ・・・・。だったらまあ楽そうだし記録係?」
「絶対それ誰かと被るって・・・・」
「被ったら被ったでまあしょーがない」
お互い席を立つと、名前を書きに行く。
案の定、ステージ設営係を希望しているのは私だけだった。
ステージ設営の係に確定の赤丸が付いた瞬間は心の中で小さくガッツポーズをした。
そして瀬名くんはやはり数人と希望が被り、じゃんけんの末、司会進行係というめちゃくちゃめんどくさそうな係になっていた。
「司会進行って何・・・・なんの司会させられんの俺・・・・」
「さっき学級委員が説明してたでしょ。自由発表とか、縦割り対抗の司会進行だよ」
「えー・・・・、絶対仕事多いー・・・・」
だから忠告したのに、と思ったけどまあ口には出さないでおいた。
お次は縦割り対抗に出る人を決める。
とはいえ「出る人」なんて言ってるけど、単純に考えれば三種目ある中で一種目につき10人選出、となると必然的にひとり一種目は出なければならない。
免除がゆるされるのは文化祭実行委員の人とか、学級委員とかくらいだろう。
「あかりちゃんどれにする?今度こそおんなじのしよ」
「はいはい。合唱とダンスって絶対全員ステージに立たされる奴だよね・・・」
「そうだねー、目立ちたくないあかりちゃんとしては演劇の裏方志望?」
「そうなるかなー」
また希望するところに名前を書く方式になったので、演劇のところに名前を書く。
他のクラスがどうかはわからないけど、うちのクラスは演劇が一番人気で、合唱が一番不人気だった。
まあ演劇が人気っていうのはもしかしたら瀬名くんが希望してたからって可能性も考えられるけど・・・・。
けれど女子数人がまとまって合唱に行ってくれたおかげで、私と瀬名くんはどちらも演劇になれた。
その女の子たちには心の中でめいっぱいお礼の言葉を叫んだ。
最後はクラスの出し物決めだ。
「じゃあこれは挙手でアイデア出す感じでいいですかー?」
「はい!!」
やる気満々な誰かがさっそく手を挙げたと思えばまさかの凜だった。
「メイド喫茶やりたいです!!」
凜のセリフに、一部の男子がおぉ~と拍手を送った。
ホワイトボードにメイド喫茶、と書かれる。
その他にも和装カフェ、お化け屋敷などが出る。
「でもさー、王道なやつだと他のクラスと被るんじゃねー?」
「確かに。メイド喫茶とかお化け屋敷やるって言ってた三年生いたもん。三年と被るとちょっと不利だよね」
そう意見が出たのを皮切りに、話し合いが停滞した。
確かに他学年と被ると若干不利かもしれない。
勝手がわかっている三年生や二年生に勝つには、それなりな工夫がいりそうだ。
「じゃあ近くの人と話し合ってくださーい。ちょっとした案でもじゃんじゃん出してねー」
とは言っても、斬新な案なんてなかなか出てこない。
瀬名くんは私の方を向いて、困ったように腕を組んだ。
「メイド喫茶、和装カフェ、お化け屋敷・・・・、どれもいいんだけどねー・・・」
「そうだよね。凜もメイドやりたいって息巻いてたし」
「絶対うちのクラスの女子ならみんなかわいくなるはずだもん。あかりちゃんはコスプレしても絶対かわいい」
「通常運転だね瀬名くん・・・・」
そこでふと、コスプレ、という言葉に引っ掛かる。
「・・・・コスプレなら、カフェじゃなくてもいいよね」
私の言葉に瀬名くんが少し反応した。
「ん?・・・・カフェ以外っていうと例えば?」
「例えば・・・そうだなぁ・・・・、コスプレできるフォトスポットとか?」
「フォトスポット!めっちゃいいじゃん」
「そ、そう?でもインパクトに欠けるかなとも思っちゃうけど・・・」
「むしろ内装以外にお金かけなくていいなら、時間さえかければインパクトある見た目にできるんじゃない?」
「あー・・・、そう、なのかな。まあ思い付きで言っちゃったしこの程度の案は・・・」
そう言いかけたけれど、次の瞬間にはもう瀬名くんが手を挙げていた。
あてられてすぐさま立ち上がる瀬名くん。
「ちょっとした案でもいいんだよね?」
「もちろん!どうぞー」
「フォトスポットとかどうかなって。メイド服とか和装とかいろんなコスプレ使って自由に写真撮影できるようにしてさ。他にも映えそうな内装作ったり、プリクラみたいにデコれるようにしたり。あ、トリックアートとかもいいかも。文化祭のときってみんなそこかしこでツーショットとか撮ってるからさー、こういうスペースあれば何気にみんな来るんじゃないかと思って」
「いいね!来客数は優勝決めるときに結構重要らしいし!」
学級委員はそう言ってホワイトボードにフォトスポット、と書いた。
「・・・・あかりちゃんは目立ちたくないかなって思って俺の意見みたいにして発表しちゃったけどよかった?」
瀬名くんは発表後、そんな風に気遣ってくれた。気にしなくていいのに。
「だめなわけないし、むしろありがとうだよ。目立ちたくないってだけじゃなくて、瀬名くんが付け足してくれたからすごくいい意見になったもん」
「そっか、それはよかった」
瀬名くんの意見を皮切りに、楽器をいっぱい置いておいて集まった人で即興演奏ができる空間を作る、とか、花火大会(どうやってやるつもりなんだろう・・・?)とか、人間将棋とか、リアルポケ〇ンバトルとか、王道なもの以外の意見がいくつも集まった。
けど現実的に考えて、予算、規模、割ける人員、技術などを考慮すると難しい案も多かった。
「じゃあこの中から多数決で決めるけど、くれぐれもおふざけで実現不可能なやつに入れるとかはやめてくださいねー」
そうして多数決の結果、フォトスポットが一位。
「やったじゃん、あかりちゃん」
多数決の結果が出た瞬間、瀬名くんが自分のことのように嬉しそうにこっちを向いた。
「私じゃないよ。私が思い付きで言ったような案を、瀬名くんがちゃんとしたものにして発表してくれたんでしょ?」
「でもじゃあやっぱあかりちゃんが発案ってことじゃん?」
「まあ元はそうだけど・・・、私の意見だけだったら絶対却下されてたし・・・・」
「じゃあ二人のアイデアってことだ。俺らの力が合わさったってことで」
瀬名くんがそう言って笑うから、私の顔も思わずほころんでしまった。
「ふふっ、ならそういうことにしようか」
さあ、文化祭がやってくる―――――。