こうして私と瀬名くんは、晴れて(?)隣の席になったのだが、瀬名くんは約束通りほとんど話しかけてくることはなかった。
朝来て、おはようって挨拶して、それっきり。
それ以外だと、授業中の話し合いの時間くらいしか話す機会もなく、私としては最高の隣人だった。
その日も、いつも通りの朝だった。
登校後席についてしばらくすると、女の子に絡まれながら瀬名くんがやってくる。
「おはよ、あかりちゃん」
「おはよう」
ここ数日この流れだったので、さすがの私もさらっと挨拶を返せるようになった。
挨拶が終わればまたいっしょに来た女の子との会話に戻る瀬名くん。
このくらいの関係が一番気楽でいい。
パーソナルスペースっていうか、距離感っていうか。
相手が好む接し方ができるのは瀬名がモテる理由のひとつじゃないかと思う。顔とか、身長とか、そういうのももちろんあるけど、瀬名くんの一番の魅力はそこじゃないってここ数日でわかった。
「あ、待ってやばい!体操服忘れたかも!」
隣で瀬名くんと話す女の子がそういって慌てたようにスマホを見る。
「あー・・・しかももう時間的にお母さんもお父さんも届けるの無理なやつだー・・・!!」
「ていうか今日のうちのクラスは体育一時間目だし、届けてもらっても間に合わないかもだよ?とりあえず時間割見て、他のクラスで体育ないか確認する?あれば借りにいけるし」
「いや今日火曜日だからうちのクラスしか体育ない!終わった・・・!」
絶望に浸る声をきいて、つい私も予習の手を止める。
「一応ダメもとで他クラスの子とお母さんに連絡してみる!」
「うん、俺も借りれそうなやつに連絡してみるよ」
瀬名くんたちはスマホを操作し始める。
たぶんふたりとも私では想像もつかないほどたくさんの連絡先を知っているはずなので、送ったそばから何件も返信が入る音が鳴っている。
「うー・・・みんな無理そう・・・・どうしよー・・・」
「・・・・翔太が三回使って洗濯してないやつならあるって言ってるけど」
「ぐっ・・・!それはちょっとやだ・・・!!」
「だよねー」
なかなか難航している様子。
やっぱりこれは・・・・手助けしたほうがいいよね?
「・・・あの」
しかたなく意を決して話しかけるが、私の小さな声は教室の喧騒にかき消されて、女の子は気づかなかったらしい。
朝なのにみんな元気いっぱいだ・・・。
しかたなくもう一回話しかけようとしたが、瀬名くんはどうやら私の声に気づいたらしい。
「どうしたの?あかりちゃん」
瀬名くんが話しかけてくれたおかげで、女の子も私に気づく。
「あの・・・、よかったら、私の体操服貸すけど・・・・」
「えっ!ほんと!?」
「・・・・うん」
「いいの!?あ、そっか、九鬼さん外の時は体育出ないんだっけ・・・?」
「肌が弱くて、日差し浴びれないから・・・・。じゃあ・・・・どうぞ」
机の横にかけていた体操服を女の子に渡す。
「ありがと!!ほんと神!!あとでお礼にジュースおごる!!」
「あ、そんなに気にしなくても・・・・」
「とりあえずそろそろ着替えないと一時間目間に合わないから行ってくる!!」
女の子は何度も私にお礼を言いながら嵐のように去っていった。
役に立てたみたいでよかった・・・・あとは体操服の名前が違うってバレないことを願うしかない。
「あかりちゃんナイスじゃん、ありがとね」
ほほ笑みながら瀬名くんが話しかけてきた。
よく考えると、ここ数日で瀬名くんに朝の挨拶と話し合い以外で話しかけられたのは初めてだった。
「瀬名くんに貸したわけじゃないのにお礼言うの?」
「うーん、確かに。言うべきはお礼じゃないか」
瀬名くんは少し考えた後、私から少し距離をとったまま、触れることなく頭をなでるような仕草をした。
「あかりちゃんナイスだね、いい子」
「・・・・それもなんか違うような」
なんというか、舐められている感じがする。
「えー、俺にいい子いい子されてうれしくない?」
やっぱり自分の顔の良さを自覚してるらしい。
まあそれもうなずけるくらいかっこいいのは認めるけど。
「・・・・お礼のほうがうれしいから、お礼だけ受け取っておこうかな。瀬名くんも体育出るんだよね?私と話してないで着替えに行ったほうがいいんじゃない?」
「さっさと行けよこいつって思ってる?」
「いやっ!そこまでは思ってないけど!」
慌てて否定したが、瀬名くんの表情をみてからかっていることに気づく。
にやっとしたいたずらっ子みたいな笑い方。
「・・・・やっぱさっさと行けって思ってるから早く着替えに行きなよ」
「えー、めっちゃ辛辣じゃん。しょうがないから行きますよーだ」
じゃあね、と言い残して立ち去る瀬名くん。
初めて彼と雑談らしい雑談をした気がする。
なんか、普通に友達っぽい会話。
(友達っぽい・・・・か)
深入りはしないって思ってるけど・・・。
友達、っていう響きが、少しだけ私の心を揺らしたような気がした。
朝来て、おはようって挨拶して、それっきり。
それ以外だと、授業中の話し合いの時間くらいしか話す機会もなく、私としては最高の隣人だった。
その日も、いつも通りの朝だった。
登校後席についてしばらくすると、女の子に絡まれながら瀬名くんがやってくる。
「おはよ、あかりちゃん」
「おはよう」
ここ数日この流れだったので、さすがの私もさらっと挨拶を返せるようになった。
挨拶が終わればまたいっしょに来た女の子との会話に戻る瀬名くん。
このくらいの関係が一番気楽でいい。
パーソナルスペースっていうか、距離感っていうか。
相手が好む接し方ができるのは瀬名がモテる理由のひとつじゃないかと思う。顔とか、身長とか、そういうのももちろんあるけど、瀬名くんの一番の魅力はそこじゃないってここ数日でわかった。
「あ、待ってやばい!体操服忘れたかも!」
隣で瀬名くんと話す女の子がそういって慌てたようにスマホを見る。
「あー・・・しかももう時間的にお母さんもお父さんも届けるの無理なやつだー・・・!!」
「ていうか今日のうちのクラスは体育一時間目だし、届けてもらっても間に合わないかもだよ?とりあえず時間割見て、他のクラスで体育ないか確認する?あれば借りにいけるし」
「いや今日火曜日だからうちのクラスしか体育ない!終わった・・・!」
絶望に浸る声をきいて、つい私も予習の手を止める。
「一応ダメもとで他クラスの子とお母さんに連絡してみる!」
「うん、俺も借りれそうなやつに連絡してみるよ」
瀬名くんたちはスマホを操作し始める。
たぶんふたりとも私では想像もつかないほどたくさんの連絡先を知っているはずなので、送ったそばから何件も返信が入る音が鳴っている。
「うー・・・みんな無理そう・・・・どうしよー・・・」
「・・・・翔太が三回使って洗濯してないやつならあるって言ってるけど」
「ぐっ・・・!それはちょっとやだ・・・!!」
「だよねー」
なかなか難航している様子。
やっぱりこれは・・・・手助けしたほうがいいよね?
「・・・あの」
しかたなく意を決して話しかけるが、私の小さな声は教室の喧騒にかき消されて、女の子は気づかなかったらしい。
朝なのにみんな元気いっぱいだ・・・。
しかたなくもう一回話しかけようとしたが、瀬名くんはどうやら私の声に気づいたらしい。
「どうしたの?あかりちゃん」
瀬名くんが話しかけてくれたおかげで、女の子も私に気づく。
「あの・・・、よかったら、私の体操服貸すけど・・・・」
「えっ!ほんと!?」
「・・・・うん」
「いいの!?あ、そっか、九鬼さん外の時は体育出ないんだっけ・・・?」
「肌が弱くて、日差し浴びれないから・・・・。じゃあ・・・・どうぞ」
机の横にかけていた体操服を女の子に渡す。
「ありがと!!ほんと神!!あとでお礼にジュースおごる!!」
「あ、そんなに気にしなくても・・・・」
「とりあえずそろそろ着替えないと一時間目間に合わないから行ってくる!!」
女の子は何度も私にお礼を言いながら嵐のように去っていった。
役に立てたみたいでよかった・・・・あとは体操服の名前が違うってバレないことを願うしかない。
「あかりちゃんナイスじゃん、ありがとね」
ほほ笑みながら瀬名くんが話しかけてきた。
よく考えると、ここ数日で瀬名くんに朝の挨拶と話し合い以外で話しかけられたのは初めてだった。
「瀬名くんに貸したわけじゃないのにお礼言うの?」
「うーん、確かに。言うべきはお礼じゃないか」
瀬名くんは少し考えた後、私から少し距離をとったまま、触れることなく頭をなでるような仕草をした。
「あかりちゃんナイスだね、いい子」
「・・・・それもなんか違うような」
なんというか、舐められている感じがする。
「えー、俺にいい子いい子されてうれしくない?」
やっぱり自分の顔の良さを自覚してるらしい。
まあそれもうなずけるくらいかっこいいのは認めるけど。
「・・・・お礼のほうがうれしいから、お礼だけ受け取っておこうかな。瀬名くんも体育出るんだよね?私と話してないで着替えに行ったほうがいいんじゃない?」
「さっさと行けよこいつって思ってる?」
「いやっ!そこまでは思ってないけど!」
慌てて否定したが、瀬名くんの表情をみてからかっていることに気づく。
にやっとしたいたずらっ子みたいな笑い方。
「・・・・やっぱさっさと行けって思ってるから早く着替えに行きなよ」
「えー、めっちゃ辛辣じゃん。しょうがないから行きますよーだ」
じゃあね、と言い残して立ち去る瀬名くん。
初めて彼と雑談らしい雑談をした気がする。
なんか、普通に友達っぽい会話。
(友達っぽい・・・・か)
深入りはしないって思ってるけど・・・。
友達、っていう響きが、少しだけ私の心を揺らしたような気がした。