午後の授業が終わり、スマホを確認する。


(やっぱりまだ返信来てないかー・・・・って、あ・・・)


 ちょうど来た。


『B棟の渡り廊下まで来てくれる?』


 チカさんはそんな端的なメッセージを送ってきた。

 私はプレゼントの入ったかばんをつかむと、チカさんを待たせないよう急ぎ足で向かう。


 言われた場所にはすでに体操服姿のチカさんが立っていた。さっきまで体育だったんだろうか。


「遅くなりました・・・!」

「いやそんなに待ってないぞ。それより、プレゼントはちゃんと持ってきたな?」

「はい」

「よし。じゃあちょっと行った先に職員玄関があるのはわかるか?そこを出たあたりに瀬名 涼我がいるはずだ。それと、やはりお・・・・私に関しての話題は絶対に出すんじゃないぞ。偶然を装って渡すんだ」

「わかりました」


 チカさんの指示通り、職員玄関に向かう。

 にしても職員玄関付近というのはありがたい。この辺はほとんど生徒が通らないから、目立たず渡せる。
 もしかしてそう思ってここにしてくれたんだろうか。

 そう考えながら職員玄関を出ると、言われた通り瀬名くんの姿があった。


「お、あかりちゃん。どうしたの?こんなとこまで」


 そういえば偶然を装えって言われていたけど、職員玄関なんてこんな機会でもなければこない。
 どうやって偶然を装えと・・・。


「えー・・・っと、実は今日親が迎えに来てくれるらしくて・・・・校舎裏の駐車場に出るにはこっちの方が早いじゃん?それで・・・・」

「そっかそっか。まだ日差し強いしその方が安心だね」

「うん・・・」


 緊張するけど、ためらっている時間はない。
 せっかくチカさんが協力してくれたんだから、絶対に渡さなくては。


「あの・・・、瀬名くん今日誕生日・・・・だよね?」

「そうそう、大量にプレゼントもらっちゃったー」


 そういってぱんぱんになった手提げ袋を持ち上げた。
 まさかそれ全部誕生日プレゼントなのか・・・?


「そ、そんなにもらってるからいらないかもしれないけど・・・・よかったらこれも・・・、どうぞ」

「!!」


 緊張でついうつむいたまま差し出してしまった。だけど顔をあげられそうにない。

 すると私の手からプレゼントの重みが消える。
 瀬名くんが受け取ってくれたのだ。


「ありがと・・・・開けてい?」

「あっ、えっ、今ここで・・・!?」

「うん、だめ?」

「だ、だめではないけど・・・・」


 私の返事を聞いてすぐ、袋を開けるような音がする。
 そしてそのあと金属音も。


「・・・・あかりちゃん、顔上げて?」

「・・・・・っ」


 瀬名くんにそういわれては仕方ない。

 私は緊張を振り切るように力いっぱい顔をあげた。


「!」


 目の前には、私があげたネックレスをつける瀬名くん。


「・・・どう?」

「い、いいと思います・・・」

「ふ、なんで敬語なの」


 瀬名くんはくすって大人っぽく笑ったかと思うと、ちゅっとネックレスのチャームにキスを落とした。


「あかりちゃん、ネックレスを贈る意味って知ってる?」

「・・・意味?」

「そう、ネックレスを贈るのはね、『あなたとの絆を深めたい』ってみたいな意味もあるんだけどね、『永遠につながっていたい』とか『束縛・独占欲』みたいな意味もあるんだよ」

「そっ・・・・・そ、束縛って・・・・」

「あかりちゃんはどういう意味でこれを贈ってくれたのかなぁ?」


 いたずらっ子みたいな笑い方で首をかしげる瀬名くん。


「もうっ・・・き、『絆を深めたい』に決まってるでしょ・・・!っていうか特に意味はないし!!」


 しいて言えばチカさんに勧められたから、でしかない。
 でもチカさんの話は出せないし・・・・。


「そっかそっかー、ま、なんにせよあかりちゃんからの愛と思って受け取っとくね?肌身離さずつけるからさ」

「・・・・っ!何言っちゃってんの・・・!アクセサリーは校則違反!!」

「えー、お堅いなぁ」


 むぅっと唇を尖らせる瀬名くん。


「じゃあ月曜日だけつけるのは?」

「・・・・いや校則違反なことに変わりはないでしょ」

「授業までには外すって」


 ね?って私をじっと見つめてきた。

 たぶん瀬名くんはなんとなくわかっているんだ。
 私が、吸血するときの瀬名くんを思い浮かべてネックレスを選んだことを。


「・・・・ぜ、絶対だよ。絶対授業までには外すんだよ」

「もちろん」

「じゃあまあ・・・・許しましょう・・・」

「あははっ、何それどういう立場なのさ」


 瀬名くんは楽しそうに笑った。


「とにかく、私はお父さん待たせてるからもう行くね」

「ん、気を付けてね」


 駐車場の方に向かおうとした矢先、呼び止められる。


「あかりちゃん」

「ん?」

「次の吸血のときこれつけてくるから・・・、楽しみにしててね?」


 そういってほほ笑む瀬名くんの雰囲気は、月曜日のあの瞬間のようで。

 私はそんな瀬名くんを見てか、はたまた吸血する瞬間を思い出してか、どきどきと胸が高鳴るのを感じた。