チカさんと出かけた週末が明け、また月曜日がやってきた。
いつも通り早朝から出かけて登校していると、突然後ろから声をかけられた。
「あかりちゃん」
「瀬名くん!珍しいね・・・!登校中に会うなんて」
「いつもはあかりちゃんが先に来て待っててくれるもんね」
瀬名くんと並んで歩きだす。
瀬名くんと会うと瀬名くんの誕生日プレゼントのことを思い出すが、瀬名くんの誕生日は今週の金曜日なのでまだ我慢。
「ん?なんかそわそわしてる?」
「えっ、いやっ?なんでもないよっ・・・?」
「えー?何々、なんか怪しいなー・・・」
瀬名くんはからかうようににやにやしながら私をのぞきこんできた。
けど誕生日プレゼントのことを話すつもりはないので無視してさっさと瀬名くんを置いて歩く。
「わ、置いてかないでよー、あかりちゃーん」
瀬名くんは置いて行かれたことでその話をやめてくれた。
「あ、そういえばさ、この間どうしたの?」
「この間?」
「先週なんか大急ぎで廊下走って行ってたじゃん。話しかけたけど無視するくらいのあせりようでさ」
「・・・・ああ、それは・・・」
答えかけてはたと止まる。
瀬名くんが言っているのは、ひったくり犯から救ってくれたお姉さん、ことチカさんとの再会したときの話だからだ。
話題を変えてくれたのはありがたかったけど、これもタブーだ・・・。
理由はわからないけどチカさんは、瀬名くんに私とチカさんのつながりを話さないでほしいみたいだから。
「・・・それは?」
「それは・・・・その、ト、トイレが・・・・やばくて・・・・」
「・・・・といれ?」
トイレって・・・、と一瞬呆けたように繰り返した瀬名くんだったが、意味を飲み込んだ瞬間ふきだした。
「ふ、あははっ!!それで話しかけられても無視しちゃうくらい急いでたわけ!?あははっ、やばい、それ・・・っ」
「ちょっと!笑いすぎだから!!」
注意したのに瀬名くんは笑い転げたまま。
なんというか、チカさんとの秘密を守るために大事な何かを犠牲にした気がする。
「もうっ・・・先教室入ってるからね・・・!!」
「置いてかないでってばー、ほんと、もう・・・っ、ごめんって・・・、ふふっ・・・・」
「笑ってんじゃん!!!」
笑い続ける瀬名くんを置いて一足先に教室に入る。
瀬名くんも慌てて教室に入ってきた。
「ごめんってあかりちゃん、血飲む?」
「・・・血で懐柔できると思ってるんでしょ。まあできるんだけどさ・・・」
「あはは、素直だなぁ、あかりちゃんは」
私は吸血するために自分の机にかばんを置く。
そこでふと、週末にチカさんと話したことを思い出す。
「そう・・・、いえばさ」
「ん?」
「・・・・私、瀬名くんが友達第一号って言ったじゃん」
「うん」
「だからさ・・・・」
ここで、面と向かって本人に言おうと思うと照れることに気が付く。
でもここまで言い出したならもう後戻りはできない。
「・・・・だから、瀬名くんが私の中のどこから見ても一番の友達だよって言おうと思っただけ・・・・」
「・・・!!」
瀬名くんは嬉しそうに私の顔をのぞきこむ。
「何急に?俺への感謝があふれちゃったー?」
「いや別に・・・っ。ただあの、なんかこういうのは思ったときに素直に言っといたほうがいいかと思って・・・!!」
「そっかそっか?俺はあかりちゃんの一番なんだね?一番」
「またそうやってからかう・・・!!」
「あははっ」
瀬名くんは一瞬唇をかんだ。
どうしたのかと思った瞬間、突然私をぎゅっと抱きすくめる瀬名くん。
「えっ!!あっ、えっ、何!?」
「なんか・・・・めっちゃうれしい」
「・・・・」
その瀬名くんの声は少し震えていて。
「・・・そ、その喜びようはうれしいってレベルじゃないでしょ・・・」
いろいろなことに対する驚きで、私の声も少し震えてしまった。
「ふ、そうだね。じゃあ何だろ、感動?」
「感動ってほどのこと言ってないでしょ・・・」
「俺にとってはそうだったの」
「そっ・・・・か・・・」
何がそこまで瀬名くんを感動させたのかわからないけど、チカさんの言っていたことは本当だった。
瀬名くんに伝えたら喜ぶよってやつ。
やっぱりチカさんって瀬名くんのことよくわかっているんだ。
「あかりちゃん、このまま、血、吸って?」
「こ、このまま・・・!?吸いにくいんだけど・・・!」
文句を言ったけど瀬名くんは私を抱きしめたまま微動だにしない。
もしかして吸血するまでこのままでいる気だろうか。
だとしたら文句なんて言っていられない。どうにかして吸血しなくては。
「じゃ、じゃあこのまま吸血するよ?」
「ん」
瀬名くんの首筋めがけて、思いっきり背伸びをして首を伸ばす。
その必死すぎる姿に気づいてか、瀬名くんがふっと小さく笑う音が聞こえた。
といっても瀬名くんの口元は私の耳のすぐそばにあるので、吐息がかかるほど近く聞こえた。
くすぐったさを覚えながらどうにか咬みつく。
「っ・・・・う・・・!」
無理な体勢で咬みついたから若干牙の食い込みが強くなってしまったようで、瀬名くんはいつもより少し痛そうにした。
けどこの体勢をやめようとはせず、むしろ痛みに耐えるためか一層強く私を抱きしめた。
私もどうにか姿勢をキープしながら血を飲む。
いつもは牙が食い込まないよう細心の注意を払って血を飲むのだが、この体勢ではそんなことに気を使ってもいられない。
「っぅ、・・・・っ!」
瀬名くんは痛そうに時々うめく。
そのたびに耳に吐息がかかってくすぐったい。
最低限の血を飲み終わると、私は急いで傷を治す。
「・・・・っはい!!終わったよ!早く離してー・・・!」
「えー?ほんとに終わったー?まだ傷治ってないんじゃないー?ちゃんと確認してよー」
「ぜんっぜん痛くなさそうじゃん!治ってるに決まってるじゃん!!」
「あは、バレたか」
さすがの瀬名くんも解放してくれた。
「ていうか急に抱きつかないでよ・・・、びっくりするし何より誰かに見られでもしたらどうするの・・・」
「えー、つれないなぁ、さっきはあんなにかわいいこと言ってくれたのに」
「かわいいこと、じゃなくてうれしいこと、でしょ!変な言い方禁止!!」
「実際素直なあかりちゃんはかわいいじゃん」
「知らないよもう・・・」
瀬名くんに振り回されすぎて疲れた。
この人はどうしてこうも私をからかいたがるのか・・・。
とりあえずおしゃべりするなら場所を変えよう。
そう思って一足先に空き教室に向けて教室を出た私に、瀬名くんが慌てて追いついてくる。
ここ最近は吸血が終わったあと空き教室で話すのが恒例になりつつあるので、何も言わなくてもついてきてくれるようになった。
瀬名くんは私に追いついた後、口を開く。
「にしても、もうすぐ約束の文化祭だね」
「約束のって・・・そこまで言うほどの約束してないでしょ」
「えー?めいっぱい楽しませるって約束したじゃん」
「てっきりお世辞かなって」
「ひどぉ」
来週から、文化祭の準備期間に入る。
うちの学校の文化祭はすごく力が入っていると県内でも結構有名。
文化祭自体は前日の準備日ふくめて五日間。
クラス対抗、縦割りの組対抗、学年対抗など、いろんな分け方で競いながらポイントを稼ぎ、優勝のクラスを決める。
「あかりちゃんは誰と回るの?やっぱ凜ちゃん?」
「中学の時はほとんど凜だったね。ただ凜も他の友達とまわりたいだろうしなぁ、私に気を使って他の子の誘いを断ったりしなきゃいいけど・・・・」
中学の時の文化祭はそうだった。
まあ私の通っていた中学校の文化祭は規模が小さく、自由に見て回れるところなんてほぼなかったようなものなんだけど。
「そっかー、じゃあ暇なときは俺とまわろうよ」
「・・・・え?瀬名くんと?」
いろいろつっこみどころ満載な提案をかましてくる瀬名くん。
「えっと・・・何から言えばいいかわからないけど・・・、瀬名くんのことだからもうまわる人決まってるんじゃないの・・・?」
「いや?まわれたらまわろうね、みたいな話は何人かとしたけど、その人たちもたぶん俺以外にいっしょにまわりたい人いっぱいいるだろうし、俺とまわれなくてもそんなに気にしないでしょ。それかあかりちゃんが凜ちゃんとまわってる間に片付けるよ」
「片付けるって・・・・仕事じゃないんだから・・・・」
瀬名くんの物言いに、あきれてつっこんでしまう。
「じゃあまあその話はいいとしても、どちらにせよ瀬名くんとまわるのは目立つから無理」
「えー、なんでさ、めいっぱい楽しませれないじゃん」
「準備期間中に楽しませてくれたらそれでいいから・・・!準備期間ならいっしょに作業するって流れでいっしょにいても違和感ないけど、当日は好きな人とまわれるわけでしょ?そんな中でいっしょにいたら目立つどころの騒ぎじゃないもん・・・」
「でも当日楽しませられなきゃ『めいっぱい』じゃないじゃん」
「そこまで気にしなくていいから・・・!!」
まだ瀬名くんは不満そう。
でもなんとしてもこれは断らなければ。
これを受けてしまうと私の平穏無事な学生生活が水の泡だ。
「えー、わかったよー・・・」
瀬名くんは急に納得したのか、不満そうではあるけどそう言ってくれた。
しかしほっとしたのも束の間。
「じゃあ目立たなければいいんでしょ?」
「・・・・えっと、どういう意味?」
「どうにか目立たずいっしょにまわる策考えとくからさ、あかりちゃんはとりあえず凜ちゃんとまわる時間以外は絶対埋めないおいてね」
そんなことを言われても、埋めるも埋めないもない。
だっていっしょにまわるような親しい人は凜以外いないんだから。
だからまあ必然的に大丈夫なんだけど、本当に瀬名くんとまわっていいのかは判断がつきかねる。
目立たないための策って言うのもどれほど信頼していいものか・・・。
私は若干不安な気持ちを抱えながら、数週間先の文化祭のことを思うのだった。
いつも通り早朝から出かけて登校していると、突然後ろから声をかけられた。
「あかりちゃん」
「瀬名くん!珍しいね・・・!登校中に会うなんて」
「いつもはあかりちゃんが先に来て待っててくれるもんね」
瀬名くんと並んで歩きだす。
瀬名くんと会うと瀬名くんの誕生日プレゼントのことを思い出すが、瀬名くんの誕生日は今週の金曜日なのでまだ我慢。
「ん?なんかそわそわしてる?」
「えっ、いやっ?なんでもないよっ・・・?」
「えー?何々、なんか怪しいなー・・・」
瀬名くんはからかうようににやにやしながら私をのぞきこんできた。
けど誕生日プレゼントのことを話すつもりはないので無視してさっさと瀬名くんを置いて歩く。
「わ、置いてかないでよー、あかりちゃーん」
瀬名くんは置いて行かれたことでその話をやめてくれた。
「あ、そういえばさ、この間どうしたの?」
「この間?」
「先週なんか大急ぎで廊下走って行ってたじゃん。話しかけたけど無視するくらいのあせりようでさ」
「・・・・ああ、それは・・・」
答えかけてはたと止まる。
瀬名くんが言っているのは、ひったくり犯から救ってくれたお姉さん、ことチカさんとの再会したときの話だからだ。
話題を変えてくれたのはありがたかったけど、これもタブーだ・・・。
理由はわからないけどチカさんは、瀬名くんに私とチカさんのつながりを話さないでほしいみたいだから。
「・・・それは?」
「それは・・・・その、ト、トイレが・・・・やばくて・・・・」
「・・・・といれ?」
トイレって・・・、と一瞬呆けたように繰り返した瀬名くんだったが、意味を飲み込んだ瞬間ふきだした。
「ふ、あははっ!!それで話しかけられても無視しちゃうくらい急いでたわけ!?あははっ、やばい、それ・・・っ」
「ちょっと!笑いすぎだから!!」
注意したのに瀬名くんは笑い転げたまま。
なんというか、チカさんとの秘密を守るために大事な何かを犠牲にした気がする。
「もうっ・・・先教室入ってるからね・・・!!」
「置いてかないでってばー、ほんと、もう・・・っ、ごめんって・・・、ふふっ・・・・」
「笑ってんじゃん!!!」
笑い続ける瀬名くんを置いて一足先に教室に入る。
瀬名くんも慌てて教室に入ってきた。
「ごめんってあかりちゃん、血飲む?」
「・・・血で懐柔できると思ってるんでしょ。まあできるんだけどさ・・・」
「あはは、素直だなぁ、あかりちゃんは」
私は吸血するために自分の机にかばんを置く。
そこでふと、週末にチカさんと話したことを思い出す。
「そう・・・、いえばさ」
「ん?」
「・・・・私、瀬名くんが友達第一号って言ったじゃん」
「うん」
「だからさ・・・・」
ここで、面と向かって本人に言おうと思うと照れることに気が付く。
でもここまで言い出したならもう後戻りはできない。
「・・・・だから、瀬名くんが私の中のどこから見ても一番の友達だよって言おうと思っただけ・・・・」
「・・・!!」
瀬名くんは嬉しそうに私の顔をのぞきこむ。
「何急に?俺への感謝があふれちゃったー?」
「いや別に・・・っ。ただあの、なんかこういうのは思ったときに素直に言っといたほうがいいかと思って・・・!!」
「そっかそっか?俺はあかりちゃんの一番なんだね?一番」
「またそうやってからかう・・・!!」
「あははっ」
瀬名くんは一瞬唇をかんだ。
どうしたのかと思った瞬間、突然私をぎゅっと抱きすくめる瀬名くん。
「えっ!!あっ、えっ、何!?」
「なんか・・・・めっちゃうれしい」
「・・・・」
その瀬名くんの声は少し震えていて。
「・・・そ、その喜びようはうれしいってレベルじゃないでしょ・・・」
いろいろなことに対する驚きで、私の声も少し震えてしまった。
「ふ、そうだね。じゃあ何だろ、感動?」
「感動ってほどのこと言ってないでしょ・・・」
「俺にとってはそうだったの」
「そっ・・・・か・・・」
何がそこまで瀬名くんを感動させたのかわからないけど、チカさんの言っていたことは本当だった。
瀬名くんに伝えたら喜ぶよってやつ。
やっぱりチカさんって瀬名くんのことよくわかっているんだ。
「あかりちゃん、このまま、血、吸って?」
「こ、このまま・・・!?吸いにくいんだけど・・・!」
文句を言ったけど瀬名くんは私を抱きしめたまま微動だにしない。
もしかして吸血するまでこのままでいる気だろうか。
だとしたら文句なんて言っていられない。どうにかして吸血しなくては。
「じゃ、じゃあこのまま吸血するよ?」
「ん」
瀬名くんの首筋めがけて、思いっきり背伸びをして首を伸ばす。
その必死すぎる姿に気づいてか、瀬名くんがふっと小さく笑う音が聞こえた。
といっても瀬名くんの口元は私の耳のすぐそばにあるので、吐息がかかるほど近く聞こえた。
くすぐったさを覚えながらどうにか咬みつく。
「っ・・・・う・・・!」
無理な体勢で咬みついたから若干牙の食い込みが強くなってしまったようで、瀬名くんはいつもより少し痛そうにした。
けどこの体勢をやめようとはせず、むしろ痛みに耐えるためか一層強く私を抱きしめた。
私もどうにか姿勢をキープしながら血を飲む。
いつもは牙が食い込まないよう細心の注意を払って血を飲むのだが、この体勢ではそんなことに気を使ってもいられない。
「っぅ、・・・・っ!」
瀬名くんは痛そうに時々うめく。
そのたびに耳に吐息がかかってくすぐったい。
最低限の血を飲み終わると、私は急いで傷を治す。
「・・・・っはい!!終わったよ!早く離してー・・・!」
「えー?ほんとに終わったー?まだ傷治ってないんじゃないー?ちゃんと確認してよー」
「ぜんっぜん痛くなさそうじゃん!治ってるに決まってるじゃん!!」
「あは、バレたか」
さすがの瀬名くんも解放してくれた。
「ていうか急に抱きつかないでよ・・・、びっくりするし何より誰かに見られでもしたらどうするの・・・」
「えー、つれないなぁ、さっきはあんなにかわいいこと言ってくれたのに」
「かわいいこと、じゃなくてうれしいこと、でしょ!変な言い方禁止!!」
「実際素直なあかりちゃんはかわいいじゃん」
「知らないよもう・・・」
瀬名くんに振り回されすぎて疲れた。
この人はどうしてこうも私をからかいたがるのか・・・。
とりあえずおしゃべりするなら場所を変えよう。
そう思って一足先に空き教室に向けて教室を出た私に、瀬名くんが慌てて追いついてくる。
ここ最近は吸血が終わったあと空き教室で話すのが恒例になりつつあるので、何も言わなくてもついてきてくれるようになった。
瀬名くんは私に追いついた後、口を開く。
「にしても、もうすぐ約束の文化祭だね」
「約束のって・・・そこまで言うほどの約束してないでしょ」
「えー?めいっぱい楽しませるって約束したじゃん」
「てっきりお世辞かなって」
「ひどぉ」
来週から、文化祭の準備期間に入る。
うちの学校の文化祭はすごく力が入っていると県内でも結構有名。
文化祭自体は前日の準備日ふくめて五日間。
クラス対抗、縦割りの組対抗、学年対抗など、いろんな分け方で競いながらポイントを稼ぎ、優勝のクラスを決める。
「あかりちゃんは誰と回るの?やっぱ凜ちゃん?」
「中学の時はほとんど凜だったね。ただ凜も他の友達とまわりたいだろうしなぁ、私に気を使って他の子の誘いを断ったりしなきゃいいけど・・・・」
中学の時の文化祭はそうだった。
まあ私の通っていた中学校の文化祭は規模が小さく、自由に見て回れるところなんてほぼなかったようなものなんだけど。
「そっかー、じゃあ暇なときは俺とまわろうよ」
「・・・・え?瀬名くんと?」
いろいろつっこみどころ満載な提案をかましてくる瀬名くん。
「えっと・・・何から言えばいいかわからないけど・・・、瀬名くんのことだからもうまわる人決まってるんじゃないの・・・?」
「いや?まわれたらまわろうね、みたいな話は何人かとしたけど、その人たちもたぶん俺以外にいっしょにまわりたい人いっぱいいるだろうし、俺とまわれなくてもそんなに気にしないでしょ。それかあかりちゃんが凜ちゃんとまわってる間に片付けるよ」
「片付けるって・・・・仕事じゃないんだから・・・・」
瀬名くんの物言いに、あきれてつっこんでしまう。
「じゃあまあその話はいいとしても、どちらにせよ瀬名くんとまわるのは目立つから無理」
「えー、なんでさ、めいっぱい楽しませれないじゃん」
「準備期間中に楽しませてくれたらそれでいいから・・・!準備期間ならいっしょに作業するって流れでいっしょにいても違和感ないけど、当日は好きな人とまわれるわけでしょ?そんな中でいっしょにいたら目立つどころの騒ぎじゃないもん・・・」
「でも当日楽しませられなきゃ『めいっぱい』じゃないじゃん」
「そこまで気にしなくていいから・・・!!」
まだ瀬名くんは不満そう。
でもなんとしてもこれは断らなければ。
これを受けてしまうと私の平穏無事な学生生活が水の泡だ。
「えー、わかったよー・・・」
瀬名くんは急に納得したのか、不満そうではあるけどそう言ってくれた。
しかしほっとしたのも束の間。
「じゃあ目立たなければいいんでしょ?」
「・・・・えっと、どういう意味?」
「どうにか目立たずいっしょにまわる策考えとくからさ、あかりちゃんはとりあえず凜ちゃんとまわる時間以外は絶対埋めないおいてね」
そんなことを言われても、埋めるも埋めないもない。
だっていっしょにまわるような親しい人は凜以外いないんだから。
だからまあ必然的に大丈夫なんだけど、本当に瀬名くんとまわっていいのかは判断がつきかねる。
目立たないための策って言うのもどれほど信頼していいものか・・・。
私は若干不安な気持ちを抱えながら、数週間先の文化祭のことを思うのだった。