夏休みが明け、休み明けテストも乗り越え、ようやく平凡な学校生活が始まったとある日のこと。
四時間目の授業が終わり、凜が弁当をもって私の席までやってきた。
「お腹空いたー!さっきの時間空腹が限界だったー・・・。今日はお母さん体調悪かったからコンビニ弁当なんだー」
「え、凜のお母さん体調崩してるの?大丈夫?」
「いや風邪とかじゃないんだけど、なんか昨日軽く熱中症になっちゃったらしんだよねー」
「そっかー・・・まだ全然暑いもんねー」
「もうほんと早く涼しくなってほしいよー・・・」
私も凜と同じく暑さに弱いタイプなので、うんうんと大きくうなずいた。
そんな感じでいつも通り他愛ない話をしていたのだが、ふと窓の外に目が行く。
「・・・・・あ!!」
「ん?どうしたの?あかり」
「ちょっ・・・・!ちょっと席外す!!」
私は凜の静止も聞かず教室を飛び出した。
途中瀬名くんとすれ違って、そのあわてようを心配されたけど、あわてすぎて無視してしまった。
(あの後ろ姿・・・・絶対そうだ・・・!!)
私は大急ぎで体育館に続く渡り廊下まで走り出る。
(・・・・いない・・・・)
あがった息を落ち着けながらあたりを見渡すけど、手遅れだったかもしれない。
あたりを見渡しているところで、渡り廊下の備え付けベンチに島崎さんが座っているのが目に入った。
友達と楽しげに弁当を食べているようで話かけづらいが、背に腹は代えられない。
私は思い切って島崎さんに話しかける。
「あ、あの・・・・っ」
「ん?あ、九鬼さんじゃん、やっほー」
「や、やっほー・・・・」
正解がわからないのでそっくりそのまま返したがこれでよかったのだろうか。
「あのさ・・・、さっきここを黒髪のベリーショートですっごく美人な人が通らなかった・・・・?」
そう、教室から見えたのは、ひったくり犯からかばんを取り返してくれた彼女。
「えー・・・・どうだったっけー?愛架、のの、見てた?」
島﨑さんはいっしょにいた二人の友達にも聞いてくれたけど、みんなわからないとのことだった。
「いやー、ほんとあてになんなくってごめんねー、九鬼さん。どんな人が通ったかとか全然気にしてなかったやー」
「ううんっ!むしろ時間とらせちゃってごめんねっ、あの、じゃあ私はこれで・・・・」
残念ながらもう見つけるのは無理そうだ。
ただ本当にさっき見えた人があの彼女なら、同じ学校の生徒ってことだ。これは大きな収穫だろう。
諦めきれない気持ちを抱えつつも、どうしようもないので教室に戻ることにした。
そう思って回れ右をした瞬間、反対側から来た生徒とぶつかってしまった。
「あっ・・・・ご、ごめんなさ――――――」
「いや、こちらこそすまない」
ぶつかった相手を見て動揺で固まる。
「あ、え、あっ・・・お、お姉さん・・・・!!」
「は?」
目の前に立つ体操服姿のその人は、まさにひったくり犯からかばんを取り戻してくれた彼女、その人だった。
「あっ、わ、私!あのっ先日ひったくりに遭ったときお姉さんにかばんを取り返してもらって・・・・!!」
「あ!君あのときの!えー・・・・っと・・・・あかり・・・・何あかりさんだっけ?」
「九鬼です・・・っ!九鬼 紅里、です・・・・!」
私の説明を聞いて思い出してくれたようだ。
「それであの・・・、何もお礼をできずじまいだったから・・・・よければ何かお礼をさせてもらえないでしょうか・・・・」
「いや、気にする必要はないんだが・・・」
「そんなっ!私あのかばんに財布もスマホも学生証も入ってたから盗られてたら終わってたんですよ・・・・、もうほんと、何かお礼を・・・・」
「あー、そうか?」
その人は少し顎に細く長い指をあて、考え込むような仕草をした。
凛々しい雰囲気も相まって、本当に様になる。
「じゃあ、九鬼さんがよければ、なんだが・・・」
「はい・・・」
「お・・・私と友達になってくれないか?」
「・・・・ん?」
今、なんて言った?
私が戸惑っているのに気がついたのか、お姉さんはもう一回言い直した。
「友達になってくれないか?って言ったんだ」
やはり聞き間違いではなかったようだ。
「・・・・そ、そんなことでお礼になるんですか・・・?」
「ああ、お・・・私はそれで構わん」
「そ、そうですか・・・」
私と友達になることでお姉さんになんのメリットがあるのかさっぱりわからないけど、お姉さんがいいというのならいいのだろうか。
「・・・・あ、友達になるとしたら・・・、名前、聞いてもいいですか?」
「あー・・・・・京極・・・チカ。京極ってなんかごつくて男っぽいから下の名前で呼んでくれ」
「わかりました。チカさん、ですね・・・・」
そこでチカさんのはくスリッパの色に気が付く。
緑・・・、つまり三年生だ。
「あっ、三年生なんですね、じゃあ二つ年上、ですか・・・・」
「そうだな。あ、あとひとつお願いあるんだが」
「はい?」
「お・・・私と友達になること、瀬名 涼我にはないしょにしておいてくれないか?」
また一風変わったお願いをしてきた・・・。
不思議に思って理由を聞いてみたけど、要領を得ない回答しかしてもらえなかった。
まあでも助けてもらったお礼に友達になるって話だったから、お姉さんが秘密にしてほしいというのなら理由がどうあれ尊重したほうがいいだろう。
「わかりました。じゃあ瀬名くんには言いません」
その日はチカさんと連絡先を交換し(なぜか交換するとき妙に手間取っていたのが気になったけど・・・・)、また連絡することを約束して別れた。
ちなみに教室に戻ってから、私の帰還が遅すぎてご機嫌ななめになった凜をあの手この手でなだめたのはまた別の話・・・・。
四時間目の授業が終わり、凜が弁当をもって私の席までやってきた。
「お腹空いたー!さっきの時間空腹が限界だったー・・・。今日はお母さん体調悪かったからコンビニ弁当なんだー」
「え、凜のお母さん体調崩してるの?大丈夫?」
「いや風邪とかじゃないんだけど、なんか昨日軽く熱中症になっちゃったらしんだよねー」
「そっかー・・・まだ全然暑いもんねー」
「もうほんと早く涼しくなってほしいよー・・・」
私も凜と同じく暑さに弱いタイプなので、うんうんと大きくうなずいた。
そんな感じでいつも通り他愛ない話をしていたのだが、ふと窓の外に目が行く。
「・・・・・あ!!」
「ん?どうしたの?あかり」
「ちょっ・・・・!ちょっと席外す!!」
私は凜の静止も聞かず教室を飛び出した。
途中瀬名くんとすれ違って、そのあわてようを心配されたけど、あわてすぎて無視してしまった。
(あの後ろ姿・・・・絶対そうだ・・・!!)
私は大急ぎで体育館に続く渡り廊下まで走り出る。
(・・・・いない・・・・)
あがった息を落ち着けながらあたりを見渡すけど、手遅れだったかもしれない。
あたりを見渡しているところで、渡り廊下の備え付けベンチに島崎さんが座っているのが目に入った。
友達と楽しげに弁当を食べているようで話かけづらいが、背に腹は代えられない。
私は思い切って島崎さんに話しかける。
「あ、あの・・・・っ」
「ん?あ、九鬼さんじゃん、やっほー」
「や、やっほー・・・・」
正解がわからないのでそっくりそのまま返したがこれでよかったのだろうか。
「あのさ・・・、さっきここを黒髪のベリーショートですっごく美人な人が通らなかった・・・・?」
そう、教室から見えたのは、ひったくり犯からかばんを取り返してくれた彼女。
「えー・・・・どうだったっけー?愛架、のの、見てた?」
島﨑さんはいっしょにいた二人の友達にも聞いてくれたけど、みんなわからないとのことだった。
「いやー、ほんとあてになんなくってごめんねー、九鬼さん。どんな人が通ったかとか全然気にしてなかったやー」
「ううんっ!むしろ時間とらせちゃってごめんねっ、あの、じゃあ私はこれで・・・・」
残念ながらもう見つけるのは無理そうだ。
ただ本当にさっき見えた人があの彼女なら、同じ学校の生徒ってことだ。これは大きな収穫だろう。
諦めきれない気持ちを抱えつつも、どうしようもないので教室に戻ることにした。
そう思って回れ右をした瞬間、反対側から来た生徒とぶつかってしまった。
「あっ・・・・ご、ごめんなさ――――――」
「いや、こちらこそすまない」
ぶつかった相手を見て動揺で固まる。
「あ、え、あっ・・・お、お姉さん・・・・!!」
「は?」
目の前に立つ体操服姿のその人は、まさにひったくり犯からかばんを取り戻してくれた彼女、その人だった。
「あっ、わ、私!あのっ先日ひったくりに遭ったときお姉さんにかばんを取り返してもらって・・・・!!」
「あ!君あのときの!えー・・・・っと・・・・あかり・・・・何あかりさんだっけ?」
「九鬼です・・・っ!九鬼 紅里、です・・・・!」
私の説明を聞いて思い出してくれたようだ。
「それであの・・・、何もお礼をできずじまいだったから・・・・よければ何かお礼をさせてもらえないでしょうか・・・・」
「いや、気にする必要はないんだが・・・」
「そんなっ!私あのかばんに財布もスマホも学生証も入ってたから盗られてたら終わってたんですよ・・・・、もうほんと、何かお礼を・・・・」
「あー、そうか?」
その人は少し顎に細く長い指をあて、考え込むような仕草をした。
凛々しい雰囲気も相まって、本当に様になる。
「じゃあ、九鬼さんがよければ、なんだが・・・」
「はい・・・」
「お・・・私と友達になってくれないか?」
「・・・・ん?」
今、なんて言った?
私が戸惑っているのに気がついたのか、お姉さんはもう一回言い直した。
「友達になってくれないか?って言ったんだ」
やはり聞き間違いではなかったようだ。
「・・・・そ、そんなことでお礼になるんですか・・・?」
「ああ、お・・・私はそれで構わん」
「そ、そうですか・・・」
私と友達になることでお姉さんになんのメリットがあるのかさっぱりわからないけど、お姉さんがいいというのならいいのだろうか。
「・・・・あ、友達になるとしたら・・・、名前、聞いてもいいですか?」
「あー・・・・・京極・・・チカ。京極ってなんかごつくて男っぽいから下の名前で呼んでくれ」
「わかりました。チカさん、ですね・・・・」
そこでチカさんのはくスリッパの色に気が付く。
緑・・・、つまり三年生だ。
「あっ、三年生なんですね、じゃあ二つ年上、ですか・・・・」
「そうだな。あ、あとひとつお願いあるんだが」
「はい?」
「お・・・私と友達になること、瀬名 涼我にはないしょにしておいてくれないか?」
また一風変わったお願いをしてきた・・・。
不思議に思って理由を聞いてみたけど、要領を得ない回答しかしてもらえなかった。
まあでも助けてもらったお礼に友達になるって話だったから、お姉さんが秘密にしてほしいというのなら理由がどうあれ尊重したほうがいいだろう。
「わかりました。じゃあ瀬名くんには言いません」
その日はチカさんと連絡先を交換し(なぜか交換するとき妙に手間取っていたのが気になったけど・・・・)、また連絡することを約束して別れた。
ちなみに教室に戻ってから、私の帰還が遅すぎてご機嫌ななめになった凜をあの手この手でなだめたのはまた別の話・・・・。